第九話 避難所
北の魔女のスピンオフとして書いています。
体が動かせねー、人間を助け出すのは結構大変だった。
「ありがとうございます。私は佐々木サエです」
やっと瓦礫の外まで運び出したら、落ち着いたのか話しかけてきた。
めんどくせーから無視してやった。
「……」
「あのーお名前を教えていただけませんか」
俺はあんまり女と話すのは得意では無い。
「ガドだ」
こっちの名前を教えてやった。
「あー、そ、そうですか。あっちの世界の人ですか」
「違う日本人だ」
くそーこの女、あっちってどっちだよー。
「そ、そうですよね。でも、すごいですね、全く見えません。何も無いのに触れます」
「あんまり変なところ触るなよ。おれはスッポンポンだからよー」
「えーー、変態ですか」
「助けてもらっといて人を変態呼ばわりかー。置いてくぞ。じゃあ行くからな。しっかり捕まっていろよ」
「あっ待って下さい。一階に母がいるはずです。様子が知りたいのですが……」
「ちょっと待っていろ、見てくる」
一階の様子を見ようにも潰れてしまって狭くて暗くて何も見えない。
勇者の松明を拾って、照らしてみると、台所と思えるところに、潰れた頭が落ちていた。
どうやってサエに伝えようか。
「あのよー、今見てきたんだがよー。最期だし見とくか?」
サエは真剣な顔をしてこくりとうなずいた。
「うわーーーー」
あっ、このバカ女、絶叫しやーがった。
「ス、スライムの声だーー。こっちだーー。殺せーーこっちだーー」
「もういいだろう。逃げるぞ」
サエを後ろからお姫様抱っこして走り出した。
しばらくサエは見えない俺の首に捕まり泣いていた。
だが、この体勢は、サエの体も透明にして、足音以外俺たちの存在を消した。
必死で走ったが避難所が近くになかった。
避難民はどんどん避難が進んで三十分ほど全速で走ってやっと、明かりを探し出せた。
「元は学校なのかな、下ろすぞ。俺は近くにいてやるが声は出さない。自分で何とかしな」
下ろすとサエの透明化が解けた。
「ぎゃーーー」
サエが叫んだ。
サエの服が血でびちゃびちゃになっていたからだ。
俺の体に付いていた勇者の返り血が、サエの服に付いていた。
まあその声の御陰で避難所の人間が集まってきた。
「す、すごい血だ。大けがをしている。どうやってこの怪我でここまで?」
集まった人達が質問攻めをする。
「す、すみません、水をください」
「おおすまなかった。担架と水だーー!!」
ペットボトルの水が差し出されると、サエは夢中で飲んでいた。
担架が来るとサエは急ごしらえのテントの中に運ばれ、ビニールシートの上に直に寝かされた。
ベッドや布団は無いのだろう。
医師の様なおっさんが来て、サエの診察をする。
表情が一気に暗くなった。