第八十一話 自慢の眷属
勇者達は緑色の鎧を着けている。
「だれだー、どこにいる」
「あんたの目の前にいる。透明なのさ。ここで一番偉い奴に会わせてくれ」
「おれが、そうだ」
声は俺の後ろから聞こえた。
その男は見上げる程大きく筋骨隆々だった。
顔には黒い立派な髭が生えている。
「全員集めてくれ。おれはガドという」
「おい、皆を集めろ」
黒髭が命令をする。
「はっ」
「まずは、礼を言う。助けてくれてありがとう」
黒髭は深々と頭を下げた。
「あ、ああ」
俺もつられて深々と頭を下げた。
まあ透明だから見えないんだけどね。
「なーガドさん教えてくれ、この世界はどうなっている」
どうやらこの勇者もこの街の人も、俺の事を知らないようだ。
街の人は静かなままだ。
「亀裂は、理由は分らないが消えた。あんたらはこの世界に取り残されたのさ」
「では、黒い霧はこの世界には来ていないのですな」
「ああ、来てないぜ」
「そうか、よかった」
俺が黒髭と話していると、続々と勇者が集まってきた。
「この他に、仲間は?」
「ふふふ、真の勇者に支配されてからは、何も分らない。ずっと奴隷のように自由がなかったからな」
「ばあさん、全員学校へ運んでくれ」
学校に戻ると、黒髭が驚いていた。
「こ、これは!」
黒い勇者と、他の勇者が仲良くしているのだ。
「まあ、そういう事だ。あんたも気楽にやってくれ」
「すべて、ガド様のおかげだ」
ロボさんが、黒髭に声をかけた。
黒髭は、黒勇者によほど酷い目に遭っていたのか、唇がプルプル震えていた。
「キツノーー」
「はいっ」
キツノが飛ぶようにやって来た。
「この人達の面倒を見てやってくれ」
「……ご用はそれだけですか」
「それだけだ、頼んだぞ」
「……はい……」
小さな返事だった。
「じゃあ、俺は帰る」
学校から豪邸に向かって歩いていた。
俺は今日、街の人を殺していた勇者も、それを指示していた黒勇者も憎めないでいた。
自分がその立場になっていたら同じ事をしているな。
そしてなんとか助けてやれないかと考えている。
助ける方法は一つ、元の世界へ返すことだ。
でも、あっちに帰った勇者は黒勇者に殺されるだけではないのか?
「ばあさん」
「なんじゃ」
ばあさんはいつも分体で俺の肩に乗っかっている。
「ばあさんの魔法で、あの亀裂を作れないかな」
「ふふふ、無理じゃな。あんな魔法は膨大な魔力がいる。魔力が足りんじゃろうな」
「そうか」
「なんじゃ、行きたいのか」
「いや、こっちの勇者を帰してやりたい」
「おぬし、そんなことを考えておったのか」
「ああ」
「ふふふ、この世界でそんなことを考えているのは、おぬしだけじゃな。ふふふ、ガド、おぬしを眷属にしてよかった」
ばあさんの機嫌がいい。
まてよ、ばあさんも同じ事を考えていたって事じゃねえのか。
ふふふ、このばあさんには、かなわんな。




