第七十八話 それがこえー
「待ってくださーい」
ナガノが呼んでいる。
「何かありましたか?」
俺の横に来ているあいが答えた。
「勇者は、私達の手に負えません」
「えっ、生きているのですか」
「はい、全員生きています」
「キツノさん」
あいが驚いてキツノを見る。
「ふふふ、当然のことをしたまでですわ」
キツノは、少し顔を上げ自慢そうである。
「では、勇者はこちらで引き取ります」
自慢そうなキツノを見て、あいは優しい笑顔を向けた。
「お願いします」
「じゃあ、今度こそ本当に帰るかのう」
「あっ、す、すみません。ガドさんいらっしゃるのでしたら、握手をお願いできませんか」
「ああ、その位なら」
俺がナガノの出している手を握った。
「す、すごい、何もないのに、ちゃんと人の手です」
ナガノと握手していたら、その後ろに別の警官が並んだ。
そいつとも握手した。
「ウオーー、ガドーー」
アメリカ人らしくオーバーに喜んでいる。
また、後ろに警官が並んでいる。
結局全員と握手した。
捕まった悪党共とも握手をした。
翌日。
俺は校庭のベンチで学校を見ている。
学校と呼んでいるのは、勇者の収容施設である。
見た目が学校なので俺たちはそう呼んでいる。
「こんな所で何をしているのですか」
隣にまなとあいと、サエの分体を置いているので、キツノが気付いた様だ。
学校には、逃げ出せないようにする壁や柵はない。
それでも勇者は、いまだに一人も脱走者はいない。
「ここで勇者を見ている」
「そんなものを見て楽しいのですか」
キツノはサエの分体を膝に乗せ、俺の横にちゃっかり座ってきた。
「楽しくはないが、感動している」
「えっ」
「右も左もわからない世界に来て、こんな所に押し込められ、それでも文句も言わず耐えている勇者の姿に……」
「うふふ、私が勇者を代表して感謝を伝えますわ。私なら異世界から来た勇者が、世界を破壊し同胞を殺しまくったら、生かしておきませんわ」
キツノはうつむいて、悲しそうな顔をした。
人間をスライムと言って殺しまくったことを反省しているようだ。
そして話しを続けた。
「それを、ガド様は手を差し延べ、手助けしてくれています。ガド様にせめて迷惑が、かからないようにと、考えるのは当たり前のことですわ。ガド様、心より感謝いたしますわ」
キツノは俺の顔を想定して自分の顔を向けた。
うん、可愛い。
俺は無口で礼儀正しい勇者が、日本の武士の姿のようだと思っている。
そう思うと、親近感を憶えて放って置けないのだ。
「帰りたいだろうな」
「私は、帰れ無くても良いですわ。ガド様のそばにいられるなら」
人形のようなまなとあいとサエの、分体の顔が一斉にこっちを見た。
俺は、本当の人形の首が動いたみたいに思えて、すげーーびびった。
おかげでキツノが何を言ったのか頭から吹き飛んだ。
「だよなーー、なんとか全員帰られるようにしないとなー」
人形が全員下を向いて肩を揺らしている。
それが恐―ちゅのー。




