第七十四話 日本では
あれから1年以上たった、だが俺はあの亀裂の前から動けなかった。
それは俺の心の半分以上を一人の少女が占領しているからだ。
保育園の年長か、小学校1年生か2年生位の少女メイ。
生きていられるかどうかもわからない。
一人で泣いていなければいいのだけどな。
この世界から亀裂は突然消えた。
赤い鎧の勇者と青い鎧の勇者は向こうの世界に帰って行ったが、帰れなかった奴らがいた。
黒い勇者の中にも帰れなかった奴がいる。
まあ、日本じゃねえから安心してくれ。
「おーーい、かえったぞーー」
俺は今、亀裂の前にあいが魔法で建てた、豪邸に住んでいる。
そこに誰か帰って来た。
「ちっ、ファンか」
ファンとは、ロリ顔で身長も小学生の超絶美少女、だが歳は十九歳だ。
俺より年上。
「おう、めしにする。そして嫁だ」
「はーーっ、ばかなのか。嫁がお帰りなさい、お風呂にする、食事にする、それともー、わ、た、し、ってのは聞いたことがあるが、自分からいうか普通ーー」
「じゃあ嫁だ」
この超絶美少女は、自分を男と思っている。
そして俺を嫁と呼ぶ。
「その結婚は、おめーが死んだときに、解消されている。それに、一回死んだんだ女に戻れ」
「ばばば、ばっきゃーろー、一回死んだくれーで性別が変わってたまるかーー」
「いつまでやっておる、後がつかえておる。外に黄色い鎧の勇者が十人いる連れていってやってくれ」
こいつは、まな、見た目は高校二年生だが中身はばあさんだ。
黄色い鎧の勇者とは、異世界の勇者でこっちの世界の人間が、スライムに見えるらしい。
ファンには勝てないので、暴れている奴をボッコボコにして連れて来てもらった。
俺達は今、世界中の人々を襲う勇者を連れ去り、保護する仕事をしている。
お客は勇者に殺されまくっている国だ、そこから金を貰っている。
人間は、勇者に勝てない。勇者はファンと俺には勝てない。
そして黒勇者は、ファンと互角で俺より弱い。
おかげで俺はいまこの世界のヒーローになっている。
だが、透明人間だ。
「おい、いくぞ」
わざとすり足でザッザッと、音を出す、こうしないと俺がわからない。
1年でだいぶこいつらの言葉もわかるようになった。
「俺たちは、殺されるのか」
黄色い鎧の男が、顔中をはらし歯も何本か折られ、聞いて来た。
「いや、ケガが治ったら働いて貰う」
勇者達は力が強い、街の瓦礫を除去する仕事をして貰っている。
「そ、そうなのか」
「いまから行く場所に、お前達の世界の先輩がいる。色々教わるといい」
広い敷地に、学校のような施設がある。これもあいが魔法で建てたものだ。
ここに、各地で集められた勇者に住んで貰っている。
もちろん全身黒い毛でおおわれた黒勇者もいる。
「おつかれさまーー」
あいとサエが天使の笑顔で駆け寄ってきた。
あいは超絶美人でサエは美人だ。
「おーーーい、ガドーー、行くぞ黒勇者だ!!」
分体のまなが、俺を呼んでいる。
「じゃあ、あい、サエ、お呼びだから行ってくる。あとは任せた」
勇者を女の子二人に任せたが、ここだけの話、あいは俺より強い。
まあ当然の話だ、魔力が俺より多いのだから。
「ばあさん、運んでくれ」




