第七十二話 異形の勇者
メイは、逃げていく黒い勇者を透明の分体で追いかけた。
分体は透明だが服は消えていないので服だけふわふわ飛んでいるように見えた。
逃げる勇者はそれには気づかず必死で逃げって行った。
メイは村の中に恐る恐る入って行く。
村人は村の中央に集められて静かに座っている。
(あの日のガド様もこんな風にわたしの住んでいた村に入ったのかしら。村の人達はとても怖かったでしょうね)
「食事の支度をしますので食べて下さい」
メイは、ガドのようにおむすびにしようとも思ったが、やっぱり美味しい方にした。
牛肉のタマネギ甘煮の方だ。
「アリアさーん、みなさんもこちらへ来て下さい」
アリアの部隊の人も呼んで一緒に食べることにした。
ヒノもシロもクロも全員一緒であった。
「アリアさん、助けるのが遅くなってすみません」
「い、いえ、私達が勝手に付いてきたのですから、ガド様に謝っていただく必要はありません」
「あー、アリアさん、わたしはガド様ではありません。メイです」
「えーーっ、あの可愛いメイちゃんですか」
赤い服がくねくねした。
食事が始まり皆に笑顔が戻ったのを確認して、めいはデラに話しかけた。
「デラ、黒い勇者はこのあとどう出て来るのでしょうか」
「撤退するでしょう」
「えっ」
「真国の勇者はすでにそれほど人数はいない。あるじと戦う選択をするとは思えない」
「そうですか」
翌朝。
ガドの実力を知る黒勇者軍は撤退をはじめた。
昨日逃げた黒勇者はこの部隊に合流している。
「あるじ、ここから先は慌てる必要はない、一本道だ」
「そうですか」
メイとデラは撤退する黒勇者の後を見つからないようにゆっくり追った。
その後ろを、アリアの隊が付いてきていた。
カバンはハンナがどうしてもというのでハンナに任した。
ハンナはカバンを背負わずに前に持ってきて、時々蓋を開けて中でちょこんと座っている、メイの分体を見ては、とろけそうな表情をしていた。
黒勇者の部隊は国境の前で隊列を整えた。
メイ達が、追いつくと、
「道をあけろーーー!!」
隊の後ろから大声が上がった。
ざっと隊列が割れ、中央に道が出来た。
「な、何だあれはー!!」
アリアが叫んだ。
中央をゆっくり、異様な姿の黒い勇者が歩いてくる。
その姿は、黒勇者達の王の姿に似ていた。
頭に二本の角が生え、背中に小さい羽が生えていた。
背中には樽を背負い、樽から出た管を口のマスクにつないでいる。
体は他の黒い勇者の軽く二倍以上はある。
「ふむ、黒い霧を吸い続けるとああなるのかな」
赤い服の透明姿になったメイが、デラの横に現れつぶやいた。




