第六十四話 隣国へ
デラは走っていた。
馬よりも速く。
背中に四角い鞄を背負い。
もちろん鞄には小さい美少女人形のようなメイが入っている。
「次を左に入って下さい」
鞄の中には道案内をする為、ヒノの分体も入っていた。
ツオ国の王都までは日本列島の、端から端までくらい離れている。
デラは不眠不休で走っている。
メイの眷属になってから、体が魔力に変わっている為、何も食べなくても、眠らなくても生きていけるようになった。
「つかれていませんか」
メイが心配してデラに声をかける。
「ふふふ、メイ様ならおわかりでしょう。快調です。恐ろしく快調です」
「そうですか」
「重力を五倍にすれば、もう少し速く走れますがどうしますか」
「では、ツオ国の王都につくまでは、五倍に致しましょう」
「はっ」
ツオ国の王都は目がくらむほど大きくて、美しく賑やかだった。
ヒの国の五倍以上の国土に、十倍以上の人口が住んでいる、この世界の超大国である。
街を包む壁には四つの門があり、衛兵が通行人を監視している。
デラは城門付近の人目のつかない木の陰で足を止めた。
「メイちゃん着きました」
ヒノがメイに話しかけた。
その言葉とともにメイとヒノの本体が現れた。
メイの移動魔法は、一度実際にその場所に行けば使えるようだ。
これでこの場所へは走らなくても、移動出来るようになる。
「では、行きましょうか」
メイは、いつもの赤い服を着て透明になった。
門につくと、異様な三人組を見つけた衛兵は一瞬ひるんだ。
「あ、あなた達は」
「クスクス、私はヒノ、ヒの国の王の妹です。そしてこちらがガド様とその眷属です。エイ様にお取り次ぎお願いします」
「は、はい」
「おい、どうする」
衛兵は、相談しているようだ。
「あの方は間違いなくヒノ様だ」
衛兵の目はヒノの胸に向いている。
「それに透明だからガド様に間違いない」
もう一人の衛兵が自分を納得させるように言う。
だが、衛兵がもたもたしている内に、回りに人垣が出来ていた。
透明の英雄ガドのことはこの国でも、広く伝わっているのだ。
「見ろ、ガド様だーー」
「俺たちを助ける為に来て下さったーーー!!」
「しずまれーー、しずまれーー」
髭を生やした偉そうな衛兵が駆けつけた。
「ガド様、こちらへ」
三人は特別な応接室へ案内された。
しばらく待っていると、グラマーと言ってもヒノには少し及ばない美女が現れた。
「来て下さってありがとうございます。エイの妹のエリンです」
エリンは初めての人がいたからあいさつしたが、ヒノとガドには会っている。
暴君の横にいた黒い水着の美女の一人である。
「久しぶりですエリンさん、こちらは、メイちゃんと、デラさんです」
ヒノが二人を紹介した。
「ふふふ、本当のガド様は全部透明ですからね。メイさんですか」
赤い服を着たメイに視線を向けた。
そして真剣な顔をして深々と頭を下げた。
「早速ですが、前戦へ向かう勇者部隊がいます。同行していただけますか」
心苦しそうに、エリンは依頼した。
「もとよりそのつもりですが、同行するのはこのデラだけです」
「えっ」
「わたし達は隠れて同行します」
メイはその言葉とともに、分体と入れ替わった。
同時にヒミも分体と入れ替わった。
「か、可愛いーーー」
エリンは二人の分体を思わず抱きしめた。
そして、超絶かわいい美少女人形のようなメイの白い服のスカートをまくってパンツを確認した。
「きゃあーーー、なんでいちいち皆、確認するんですかーー」
「ぶっ」
ヒノとデラが吹き出していた。




