第六十一話 黒勇者の王
デラは倒れた六人の顔を見つめている。
「知っている人ですか」
メイは、何も表情を作らず尋ねた。
「はい、真国でも屈指の強者です」
「そうですか」
「あるじ、偵察がいる。追わなくても良いのか」
「くすくす、いいです。デラは変わっていますね」
「……」
デラには、この言葉が真国では無く私なんかに、本気の忠義を尽くすなんて変わっていますね。そう言っているように聞こえた。
デラは、小さくて恐ろしく強く、賢い美少女の目を見つめていた。
デラの視線に気付くと、全部わかっていると言わんばかりに、メイがゆっくりうなずいた。
その日の夜から、メイは一生懸命デラに魔法を教えた。
真国の王都。
数日の後、偵察をしていた者が大王の下へ報告に訪れた。
大王は、王城の地下深くに玉座を造り座っている。
その姿は異様を極めた。
巨大な体は、偵察の報告に来ていた者を、片手でつかめる程の大きさだった。そしてその全身は、真っ黒の毛に覆われ、背中には黒い気持ちの悪い羽が生えている。
頭には巨大な角が二本生えていて、その目は吊り上がり赤く光っている。
「大王様、ヒ国襲撃の六人は何の抵抗も出来ぬまま殺されました」
「ふむ、相手はどの様な者だ」
「はっ、ガドと言う名で、透明でした」
「亀裂の向こうの奴がこちらに来ているのは、やはり間違いないな」
「はっ」
「今後、ヒ国には手を出さず、その他の国を先に攻め滅ぼす。七将軍に伝え準備ができ次第攻め上がれ」
大王が玉座に深く腰掛け目を閉じた。
玉座の後ろには巨大で深い穴があり、その穴の奥深くの中央を大きな金属のドームが覆っている。
そのドームには大量の黒い霧がたまっているようで、ピシッピシッと嫌な音が漏れ出していた。
「くそう、ガドめ」
真国の大王が誰にも聞こえないほど、小さな声でつぶやいた。
世界はこの日から、恐怖に包まれた。
黒い勇者に襲われ、抵抗する勇者はなすすべも無く殺されていった。
村や町に住む人々は、再び黒い勇者の食料として震えながら暮らすこととなる。
だが、ヒ国だけはいまだ平和に暮らしている。
そんな中。
ヒノはいつものように、メイの授業中抜け出してギルドに来ていた。
「ゴウ、お待たせしま……なーーーっ」
そこには、美しく若いこの国の王様、ヒミの姿があった。
「お姉様なぜ、こんな所まで」
「あなたがいつまでたっても、ガド様に合わせてくれないからでしょ」
ヒミは少し怒っているようだった。
「そ、それは、メイちゃんと合わせるのがまだ早いと判断しているからです。ねえ、ゴウ」
急にヒノに話しを振られてビクンと、体を揺らしてゴウは相づちを打つ。
「そ、そうです。余り無理をすると、どこかへ消えてしまいますな」
「そうですか、でもそうも言っておられなくなりました」
「何があったのですか」
ヒノが何か緊急事態が、起きていることを敏感に感じ取った。
「真国の勇者が再び攻めてきました」
「えっ」
「なぜか、この国だけは攻められていません。隣のツオ国のエイ国王から救援要請がありました。ガド様に会わせて下さい」
ヒノは学校へ向かった。
ヒミには国王であることはひとまず隠して会うことを約束させた。




