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勇者が街にやってきた  作者: 覧都
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第五十六話 初めての料理

ギルドの中庭に暇人が皆、集まっていた。

暇人以外にも受付嬢とか仕事の手を休めてまで来ている。

ギルドでは最強の三人がニヤニヤしながら棍を手にしている。

デラは棍を手にしてじっとしている。


「じゃあ、俺から行かしてもらう」


「全員一緒で構いませんよ」


「な、なにーー」


ギルドの三強の声がそろった。

そして真っ赤になり怒っている。


「ギルド長、大丈夫でしょうか」


受付嬢が心配してゴウに尋ねた。


「本人がいいというのだから良いのじゃろう」


「デラほどほどにー」


美しく可愛い声がした。

透明の英雄ガドの声だった。


「はじめーー」


審判を務めるゴウが開始を宣言する。

ギルド最強の三人が襲いかかる

デラは棍を構えることも無く胸の前に立てたまま、すいすいかわしていく。


ギルドの試験は勝つ必要は無い、負けてもギルドでやっていけるだけの実力があれば合格できる。

その判断はギルド長のゴウが決める。

ゴウはすでに合格基準は満たしていると考えていた。


「くそーー!!」


三強がいらだち、渾身の一撃を加えた。

デラは目にも止まらぬ速さで全員の棍を弾き飛ばし、ギルド最強の髭面の眉間に棍を寸止めした。


「それまでー」


ゴウが試験の終了を告げた。


「きゃーーー」


周りにいた女性の歓声があがった。

デラがメイとヒノの所へゆっくり歩いて来る。

ヒノはとても満足そうだった。

まわりの女性から羨望のまなざしで、見られていることを感じて、さらに優越感まで感じていた。


「ねえ、晩ご飯を食べましょう」


ヒノが提案した。




ギルドのテーブルに、五人が座っている。

メイと、デラ、ヒノ、ゴウそしてちゃっかり受付嬢まで座っていた。


五人の前に料理が運ばれる。


「わあー」


メイが歓声を上げる。

ステーキのような肉を焼いた物、野菜のスープ、そしてパンが運ばれた。

メイが喜んで食べている。


「おれは、あるじのおむすびが食いたい」


「な、何ですかそれは」


受付嬢が真っ先に食いついた。

パンを一つの皿に集めると、空いた皿にメイがおむすびを置いて行く。


「こ、これはご飯ですな、日本を思い出します」


ゴウが一口ずつ思い出を噛みしめるように食べている。


「おいしいーー、おかわりー」


受付嬢は遠慮が無い、でもメイはそれが心地よかった。

メイはお替わりのおむすびを全員の皿にのっけた。

そして透明なのをいいことにデラをずっと見ている。

かっこいいから見ているわけでは無い。


メイはさっきの檻でもデラにおむすびを食べさしている。

それは、黒い勇者が人間以外も食べることが出来るかどうかが知りたかったのだ。

いま運ばれている料理をうまそうに食べているデラを見ていると、黒い勇者も普通の食事を出来るのだと思える。


「ねえ、ガド様、このお肉固いでしょ、もっと柔らかくて美味しい物を出せないでしょうか」


ヒノが、とんでもないことを言い出した。

でも、メイはそれが面白いと思い試してみたくなった。


「全体にこの脂身が均等に入っているような感じがいいです。そして一枚ずつ薄く切って下さい」


ヒノが続けた。


「おお、あの牛丼の肉ですな」


ゴウの目がキラキラ輝いた。


一つの空いた皿にメイの魔法で出来た初めての料理が出された。

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