第五十三話 対話
「おお、あなた様は、来ていただけたのですか」
黒勇者はメイの呼びかけに気が付くと、姿勢を正そうとした。
「そのままでいいです」
メイは黒勇者の、この行動に感動している。
メイは檻の中に移動魔法で移動した。
そして檻の隅にチョコチョコ歩いて行った。
「少し向こうを見ていて下さい」
メイはそう言うと赤い服を脱いだ。
誰も向こうを向く者はいなかった。
赤い服を脱ぐと、透明のメイは下着姿になった。
それを見ているものの目には、宙に浮くブラジャーとパンツだった。
そして、白い服が現れ、下着を包む。
魔法で出したばかりの為か、暗いこの空間では少し白く輝いていた。
白い服はそのまま黒勇者の前まで移動すると、中から美しい少女が姿を現した。
その姿は白く輝いている。
「おおおおおー、天女様!」
黒勇者が感動している。
「わたしは、天女では無く魔女です」
メイが黒勇者にきっぱり言い放った。
「俺は、透明の者と二度戦った」
「二度?」
「一度目は亀裂の前だ。一撃で負けた」
「教えて下さい、その透明の人はどこにいるか知りませんか」
「あなた様では無いのですか」
「わたしではありません、わたしはあの方のように全て透明に出来るわけではありません。体だけ透明にできるだけです」
メイは泣きそうな顔になっていた。
メイが黒勇者に聞きたかった質問は、ガドの行方だったのだ。
少なくともこの黒勇者は知らないようだった。
「そなたに聞きたい」
後ろからゴウが声をあげた。
「死んだら、お前達は神殿で生き返るのか」
「ふふふ、亀裂を作った日から死者の復活は出来なくなった」
「わし達と同じか」
この世界では、神殿での死者の復活が出来なくなっているらしい。
「しかし美しい、伝説の天女様のようだ」
黒勇者はメイに釘付けになっている。
メイは嬉しくて頬を赤らめた。
「美しい? メイちゃんが美しいと、わかるのですか」
ヒノが黒勇者に疑問をぶつけた。
「ふむ、そなたも美しいと思うぞ」
ヒノは嬉しくて真っ赤になり、くねくねしている。
「おまえ達はなぜ、わし達を食べるのじゃ?」
ゴウが、使い物にならなくなった美女に変わって質問した。
「……?」
黒勇者は何を聞かれたのか意味がわからないようだった。
そしてはっと何かに気が付いたような顔になった。
「ふむ、俺たちにとってお前達は食い物だ。食い物を食うのは当たり前であろう。それにわしの世界には他に食い物が無い」
「食べ物が無いとはどういうことじゃ」
「黒い霧が現れてから、俺の国は死の世界になった……」
黒勇者はそこまで話すと黙り込んだ。




