第五十一話 笑い死に
ガチャーン
グオオオオー
ヒノが聞いた音は黒勇者が苦しんで、吐血している音だった。
「ゴウ、会話は出来るのですか」
「ずっと呼びかけておるのですが反応はありませんな」
ヒノはじっと黒勇者を見つめ、様子を観察した。
全身黒い毛に覆われた体には、外から見える傷はなかった。
口から血を吐いているということは、内臓が破壊されているということなのだろう。
「苦しそうですね」
ヒノは黒勇者に話しかけた。
「ひっ!」
ヒノは後ろにのけぞり倒れそうになった。
黒勇者が目を見開きヒノをにらみ付けてきたのだ。
その目は血走り吊り上がり、ヒノはにらみ付けられて恐怖した。
「ごごご、ごめんなさい。苦しくないわけが無いですね」
ヒノは悲しそうな顔になり黒勇者にわびた。
黒勇者は、静かに目を閉じた。
その場にしばらく沈黙が続いた。
「ねえ、ゴウ聞いてもいいかしら?」
「なんですかヒノ様」
「男のあなたに聞くのも変ですが……」
「何でしょう」
「胸を大きくする方法を知りませんか」
「はーーっ、それ以上大きくしたいのですか」
ヒノの胸にゴウが視線を合わせた。
ヒノの胸はあり得ないほどの大きさである。
ヒノは、いつも開放的な服を着て胸を露出させている。
それは、男に見せる為では無い、服に納めようとすると苦しいからである。
だが、その服装は男の視線を集める。
そのためヒノは視線に敏感になっている。
その敏感なヒノはゴウ以外の視線も感じていた。
「ぐ、くっくっ…………」
黒勇者が苦しみ出した。
「がーーーはっはっは……ぐがげほ」
黒勇者は笑っていたのだ。
そして、大量に吐血した。
「お前は俺を笑い死にさせる気か!」
ヒノに黒勇者の方から話しかけた。
だが、目はさっきの殺気がこもった目では無く、優しげに感じた。
「あのー、なにか望みはありませんか」
ヒノはもうすぐ死ぬであろう戦士に、敬意をもって聞いてみた。
「……ふふふ、お前達とは何も話す気はなかったのだがな」
黒勇者はヒノに話すわけでも無く声を出した。
静かに優しい口調だった。
「……俺は、俺を倒した者に会ってみたい」
ヒノは困っていた、この黒勇者を倒したのはメイである。
どうしようメイちゃんに会わせても良いのでしょうか?
「少し待って貰えますか、ここにはいない人なので」
「ふふふ、命ある限り待ち続けよう」
黒勇者は再び目を閉じ静かになった。
「ゴウ、学校へ行ってきます」
「ヒノ様、会わせるつもりですか?」
「ふふふ、それはメイちゃん次第ね」
ヒノはギルドを出ると学校に戻って行った。




