第三十八話 亀裂消滅
メイの痛みは、体の細胞が魔力に置き換わる痛みだった。
ガドの血が、メイの魔力を目覚めさせるきっかけになったのであろう。
メイの体は魔力を欲して、黒い霧を吸収する。
その勢いは掃除機が埃を吸い込む比では無かった。
まるで、霧の方から飛び込んで行くように見える。
薄暗かった世界が見る見る明るくなった。
明るくなると、今が夕暮れで、空がオレンジにおおわれているのがわかった。
この世界で夕日を見るのは久しぶりのことだった。
そして、黒い霧の魔力が薄らぐと、亀裂が少しずつ縮んでいった。
「おお、ガドがやりおった」
亀裂の外でまなが異変に気が付いた。
「まずいのー、亀裂が縮んでおる」
まなは、勇者達を心配した。
既に、あいもサエも勇者達も亀裂の前に集まっていた。
「まな様、わたし達は、元の世界へ帰りたいと思います」
ヒミがまなに自分の気持ちを伝え亀裂を覗いた。
「あああ、すごい、黒い霧が無くなっています、ガド様のおかげです」
「うむ、亀裂が無くならぬうちに早う行け」
まなが心配するほど早く亀裂は縮んでいた。
勇者達は、まなにお礼を言いながら亀裂の中に消えていった。
最後にヒミだけが残っている。
その時にはもう、一人がやっと通れるほどになっていた。
「ガド様は戻らないのでしょうか」
ヒミが心配する。
「その事なら心配するな、何とかする方法がある。それともおぬしは残る気か」
ヒミは残りたそうな顔をしているが首を振った。
「私は、王にならねばなりません。本当は残りたいのですが……」
「ならば早く、無くならぬうちに」
「はい」
こうして、勇者は亀裂の中に消えた。
「おばあさま、ガド君は大丈夫ですか」
あいが心配そうにまなに尋ねた。
「ふふふ、大丈夫じゃ、奴はわしの眷属じゃ。眷属はあるじの呼び出しには必ず駆けつけるのが契約じゃ」
まなは両手を広げ険しい表情になる。
「いでよ、ガドーー」
なんの変化もなかった。
「あれ、おかしいな」
「おばあ様、おかしいなじゃありませんよ」
あいが怒っている。
「いてーーー」
まなの前で声だけがした。
「ああ、透明だった」
まなとあいの声がそろった。
「ばあさんも、あいも死んだのか」
「な、何を寝ぼけておる。相変わらずじゃのー」
「まさか生きているのか、俺」
「当たり前じゃ、虫の息だったかもしれんが、生きておったのじゃろう」
「ケガも治っている」
目には見えなかったがガドは体中をさわっているようだ。
「あたりまえじゃ、契約魔女に呼ばれたら万全の状態になるに決まっておる。魔女がピンチの時に助けとして呼ぶのじゃからな」
まなが暴君を見る。
「おぬしはどうするのじゃ」
「&%#$……」
「むう、亀裂の向こうの魔力が無くなって、言葉がわからんようになっておる」
メイは辺りが少し明るくなってから気が付いた。
ガドが倒れている位置をを見たら、全体が血の海になっている。
「おかしい」
恐る恐る手を伸ばしたがそこにあるはずの手応えがなかった。
「ガド様、ガド様」
呼んでも返事が無い。
黒い勇者に連れ去られたのか、死ぬと消えてしまうのか、メイには真相がわからなかった。
「ガドさまーーー」
辺りにメイの悲痛な叫びが響き渡った。




