第三十五話 無謀な戦い
メイも気が付いたのか、体が震えだした。
黒勇者百人の部隊がでかい盾と槍で鎧もごつい物をつけ、フル武装で近づいてくる。
食料調達隊が帰ってこなくて、斥候が帰ってこなければこうなるだろう。
「いやだ、いやだ」
メイが駄々っ子の様に声を出した。
俺は無言でメイの体を抱きしめた。
そして、静かになったメイと黒勇者から見えないところへ移動した。
そこで、メイと距離を取った。
「こうしないと、メイの可愛い顔が見えねー」
メイは、泣きそうな顔なのに、可愛いと言われて嬉しくて、笑顔が自然に起こり、悲しさとうれしさの合わさった、すげー変な表情になっていた。
「変な顔」
「はーーっ、何てことを言うんですかーー」
「一番可愛い顔を見せてくれねえか」
真面目な顔をして言った。だが透明だからわからないだろうけど。
「無理です、出来ません。どんな顔をしようとしても、悲しさが勝ってしまいます」
「そうか、まあいいや、何でも、見せてくれ」
俺がそう言うと、メイが悲しそうな顔のまま表情を固めた。
心配そうで悲しそうな顔は、とても美しかった。
「行かないで、いっちゃいやだ」
何故だろう、美少女に「行かないで」って言われるとむしょうに勇気が湧く。
だが、体は正直でガタガタ震えている。
行きたくないと、訴えている。
「ガド様、逃げましょう」
あかん、この美少女と一緒に逃げたくなってしまった。
「メイ、これがわかるか」
俺はメイの肩に手を置いた。
そして、俺が震えていることを伝えた。
メイはとても驚いた表情をした。
「今から下に降ろしてやる、森に逃げるのもここで待つのも自由だ。だが俺は帰ってこれねえかもしれない」
メイは見えない俺の体にしがみついた。
メイの体を抱えて屋根から降りた。
地面に降りたら、メイは俺から一歩離れて笑顔になった。
俺の顔の位置を想定して、一番見やすい位置でとびっきりの笑顔だった。
だが、一秒も持たなかった。
涙があふれ出している。
俺は透明なのを良いことに静かに気配を消してメイから離れた。
少し遅れてメイは俺がいないことに気が付いたらしい。
「待っているからーー」
そう叫んでいた。
そして泣き叫んでいる。
「うわーーん、うわーーん」
人の出会いは面白い、メイとは数時間一緒にいただけだ。
なのにこんなに心が通うものなのかと。
そういえばあいつ、あの村でたぶん一人だったんだろうな。
俺が学校で一人だった様に……。
目の前に黒勇者の集団が近づいた。
さあ、一対百の無謀な戦いの始まりだ。




