第三十三話 温かい井戸水
メイを一番立派な屋敷の影に隠し。
「いいか、迎えに来るまで隠れているんだ、出るんじゃ無いぞ」
メイは、こくりとうなずいた。
俺は武器を探したが、村人が持っていってしまったようでここにはなかった。
折角魔法が使えるようになったのだから、魔法で倒せないかと考えてみた。
黒勇者は四人かたまって歩いている。
バラバラになると厄介なので、いまここで倒すのが良いだろう。
気付かれないように気配を消して後ろから忍び寄る。
黒勇者はまだ気が付いていない、後四歩ほどの所まで近づいた。
「おい、何か臭わねえか」
「臭う」
黒勇者が何か臭いに気が付いた様だ。
俺は丁度風下にいるから、俺の臭いでは無い。
黒勇者の視線の先を見てみた。
メイが建物の影からこっちをチラチラ覗いているのがみえる。
しかたがない、一人は心細い、その気持ちは俺には痛いほどよくわかる。
何とか見つからないでくれと願った。
そして、メイの臭いも何とかしないといけないと思った。
「見ろ」
「あそこにいるぞ」
だめだバレた。
しかたがねえから、いっきにかたを付ける為、なりふり構わず黒勇者に襲いかかった。
両手の平を二人の黒勇者の背中に当てて、頭の中で竜巻をイメージして、それを手の平の前に発生させた。
黒勇者が二人無言で倒れた。
うまく行ったのだろうか。
「どうした、なにがあった」
残った黒勇者があわてている。
「駄目だ死んでいる」
「こっちもだ」
「……」
残りの二人も、無言で倒れた。
うまく行ったようだ。
四人の黒勇者を物陰に隠し、メイの所へ駆け寄った。
存在がわかるように、ジャッ、ジャッと足音を鳴らしながら。
「ガド様!!」
抱きついて来た。
少し怒ってやろうと思ったが、怒る気になれなかった。
そして臭いを嗅いだ。
「臭い」
ばっとメイは、俺から離れた。
顔中泥パックの様に汚れているが、少しだけ見える地肌が赤くなっているように見える。
「な、な、な、何てことを言うのですか。ガド様なんて嫌いです!!」
「あーそんなことはいいから、体を洗ってやる」
そういってメイの手を握った。
「どこか、水の使えるところは」
「こっちです!!」
メイの機嫌がすごく悪い。
連れて行かれたのは、割と大きな井戸だった。
「よっし服を脱げ」
無造作に裾をまくり上げた。
メイが着ているのは麻袋の様な生地に穴を開けただけの様な服だ。
しかも、洗ったことも無いのか、汚いし、臭い。
「ぎゃーーーー!! ガド様は馬鹿なんですかー」
メイは服の下は何も付けていないようだった。
俺からは、メイの背中しか見えていないが、メイは一丁前に胸と股を手で隠していた。
「そんなことは、どうでもいい、俺は目をつぶっている」
透明というのはこういう時に都合が良い。
井戸水をくみ上げると、水が冷たい。
こんなのをかけられたら、心臓麻痺で死ぬなー。
水の中に火をイメージした。
想像通りぬるま湯になった。
それを、頭の上からかけてやった。
「うわ、温かーい」
ぬるま湯が気持ちよかったのか、メイは隠すのをやめて体を洗い出した。
やっぱり子供だ、上機嫌になっている。
「ガド様、わたし村のお荷物だったの。体を洗うのなんて初めて、井戸の水ってこんなに温かいのですね」
あーー、汚いから井戸水を触らして貰えなかったのか。
井戸水は、冷たいんだよーー。
でも、それを言うと何で温かいのーとか言われそうなのでやめておいた。




