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勇者が街にやってきた  作者: 覧都
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第三十話 暗闇の中

俺は亀裂の前で立ち止まり見上げた。

後ろにあいの視線を感じ、その後ろにばあさんの視線を感じながら。


でかい。

そして暗い。

そして恐い。




亀裂の中は、外から見た暗黒とは違い、薄ら光があった。

見上げると、光る丸い物があった。

あれは太陽であろう。

黒い霧にさえぎられて月よりも薄暗い。

そして、赤く光る小さな点。


ガドはゆっくり慎重に亀裂に入った。

恐怖にすくむ足は気合いを入れないと、勝手にあとずさった。


「……」


おかしい、なんで襲ってこないんだ。

あっ、そうか俺は透明だから奴ら気が付かないんだ。


俺は慎重にゆっくり気配を消し、赤い光に近づいた。

黒い勇者は、食事をしていた。

むしゃむしゃ肉を食っている。

火も使わず生のままだ。


黒勇者の中には鎧を外してくつろいでいる者がいた。

そいつの姿は、毛むくじゃらで、いつか見たヒマラヤの雪男のようだった。


「中隊長もやられたってよ」


「だが、死ぬ事はなかったらしい」


「ならよう、霧が充満すれば、俺たちが負けるわけはねえな」


「そういう事だ。しばらくは、霧充満待ちで、待機だそうだ」


「おい、しゃべっている暇があるなら、めしでも取ってこい」


「おーーい、女の方が、肉が柔らかい。女を取ってこい」


「ちー、しゃーねーなー」


こ、こ、こいつら、勇者を食っているのか。

一分隊十人が食料調達に動いた。

俺はそいつらの後を付けることにした。

黒勇者の食料調達班の後ろを歩きながら、奴らの会話を思い出していた。


奴らは、どうやら黒い霧があると強さが増すらしい。

そして、日本に黒い霧の充満を待っているんだ。

まだしばらく黒勇者の侵攻には時間の猶予があるって事か。


少し歩くと村が見えてきた。

元々村を守る為か高い塀が村を包んでいた。

だが今はその塀が村人を、逃げ出さないようにする囲いになっていた。


「おい、開けろ、まだ食料が足りねえ。女が食いてーらしい」


門が開くと、村人が村の中央に集められていた。


まただ、またこんな選択だ。

そうだよ、今の俺はどうだ、結局一人じゃねーか。

ずっとだ。

小二の時からずっと一人だ。


もうごめんだ、嫌なんだよ一人は。

つれーんだ。


「まいるぜ」


俺の心の声が口から出てしまった。


「な、なにもいないところから。声がした」


「ふふふ、おめーらも、……おめーらでも、何もいないところから、声がしたら恐―のか」


ドカッ


俺は門番の黒勇者の腹を蹴り、腰から剣をうばった。


「うわーーあ」

「ぎゃ」


門番は二人いたが二人ともあごから脳天に向けて剣を刺した。

次は中にいる奴らだ。

俺は既に恐さが吹き飛んでいる。

喧嘩をしているときに似ている。


中学生の時の喧嘩はいつも、相手を痛めつけて恐怖させないといけないが、決して大けがをさせたり、死なせたりしないように、手加減するのに気を使った。

今だって、手加減してやりてーんだほんとうはーー。


だが俺はこいつらの行動には手加減ができねー。

こいつらは村人を、何人も殺しその血を飲んでいた。


「きさまらーーー」


俺は折角透明なのに叫んでいた。

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