第二十五話 わからねえ
今、暴君のいた壇上から勇者達を見ている。
あいが机を出してそこに次々牛丼を出して置いて行く。
嬉々としてやっているところがすごい。
考えてみれば、勇者達にも同情する。
こいつらだってめしは食わなきゃ生きてはいけない。
明日のことを考えたら不安だろう。
暴君は少し離れた所で一人、モソモソ牛丼を食っている。
飲み物を忘れているから、とってきてやった。
俺が持っている間は透明なので、左足の近くに置いて、少し離れた。
「おい、お茶を持ってきてやった。飲めよ」
「うおっ」
突然足下に現れたペットボトルのお茶に驚いている。
「なーあにきー」
「うおっ」
今度は俺が驚いた。
俺のことを兄貴呼ばわりだ。
「俺たちどうなるんだ」
「さあな、俺にもわからん。お前はあんなことをして、なんとも思わねえのか?」
「思わねえさ。あいつら、死んでも神殿で生き返るんだぜ」
「ふふふ、あいつらの神殿は、もう壊されている。生き返れねえのさ」
「な、なんだって!! ……なあ、兄貴の目には俺はどう映っていた」
「早く死にやがれ糞野郎だな。だったら殺してくれよー」
「俺はヘタレだ人殺しは出来ねえ。お前こそ、死にたいんなら自分で、死にやがれ!」
「俺もヘタレなのさ、自分では死ねない。勇者は、生き返れねーのか。悪いことをしてしまったかな」
「まあ、奴らも、スライムとか言って、散々殺しまくったんだ。自業自得さ。お替わりは良いのか、取ってきてやるぞ」
「…… なんで、優しくするのさ」
「別に、したいことをしているだけさ」
「ほら、と言っても、もったままだと見えないか。ここに置いておくから」
「兄貴! ありがとう」
「俺は行くが、他はいいか」
「大丈夫。ありがとう」
暴君もしょんぼりしているように見える。
こんなことなら暴君のままの方が元気で良かったような気がする。
「ガド、いるのか」
「ああ、ばあさん。いま戻って来た」
「なんじゃ、元気がないのう。折角勇者達に笑顔が戻っているのに、おまえの元気がなくなっては意味がないのう」
「ああ、すまない。改めて、この世界のことを考えると、どーしても暗い気持ちに成る」
「ふむ」
「あれほど憎かった勇者は異世界の難民だった。あれほど憎かった暴君は、家族を失った自暴自棄の子供だった。笑えねえ、笑い話だ」
「ふむ」
「いまも、他の亀裂から勇者が湧いてきて、人間をスライムと言って、殺しまくっている。俺には何をすれば良いのか。わからねえ」




