第二十二話 暴君
男の横には四人の女性が、黒い水着姿で寄り添っている。
どこかの暴君のようだ。
「ガドめ、羨ましかろう」
ばあさんが嫌な笑いを浮かべ俺を見る。
「俺はああいうのは、いらねえ。心から愛されてえからな。そして忠義は絶対一人だ。これでも俺は、ばあさんの眷属に満足している」
ばあさんが驚いた顔をして俺を見ている。
「ばあさんに良くやっているって、言われたときは嬉しかった。褒美にサエまで助けて貰ったしな」
「お、おまえ、わしを口説いているのか」
ばあさんが顔を赤くしている。
「あー、それはねえ。顔が好みじゃねえ。顔だけならサエやあいの方がいいな」
切れたばあさんを捕まえている、あいとサエが赤くなっている。
「見て見ろよ。あいつの横の女の顔。口は笑っているけど、目は笑ってねえ」
全員が暴君の横の、四人の女性の顔に視線を向ける。
目だけを見ると三人は眉毛が下がり泣き顔で、一人は眉毛がピンと吊り上がり、怒っているようだった。
全員恐ろしく美人で、それが余計に哀れに感じた。
暴君の前に勇者が三人歩み出た。
「本気で殺し合えー。でなければ王族を一人殺す。生き残った一人は助けてやる。はじめーー!」
暴君が勇者同士の殺しあいを始めた。
はじまると暴君は楽しそうに、前のめりになり戦いをみつめた。
「なんなんだ、あいつは、ヒノ、奴のステータスを見てくれ」
「は、はい。超スライムです。それって、透明より、強いのか」
「そ、それはわかりません。ガドさんのステータスは、全て一で、他のスライムと一緒です」
「じゃ、じゃあ奴のは」
「はい、すべて十万を越えています」
「うーーんそれだけだとよくわからんなー」
「ゴ、ゴウで二千弱です」
「なるほど、強いなー。ちなみに、黒勇者はいくつぐらいだ?」
「はい、十万位です」
「なるほど」
「行くのか」
ばあさんが心配そうな顔をする。
「ふふふ、暴君の、横のおねーさんの体を近くで見たいしな」
サエとあいの目から光が消失した。
ついでにヒノの目からも消えた。
「糞共がーーー!! ちんたらしやーがってーー!!」
暴君が怒り横にいた美女を殴る。
横にいる美女は王族のようだった。
殴られた美女はさっき、眉毛をつり上げていた美女だ。
たったの一撃だったが、美しかった顔が潰れ死んでしまったようだ。
他の三人はそれを見て、体を震わし泣いている。
「まあ、こいつは反抗的だったから。最初から殺す気だったがな。くっ、くっ、くっ」
暴君は楽しそうに笑っている。
「いいかー、てめえら、本気で殺し合え、でなければもう一人殺すぞ。わかったかー。はじめーー」
「やめろーー」
俺は、久々に怒っている。
これをやっているのは、紛れもない人間なのだ。




