第二十一話 良い知らせ
「あの黒い霧じゃ。あれには魔力が含まれていて、わしの魔力が少し回復した」
「すげーじゃねーか。ばあさんの魔法が使いたい放題って、ことじゃねえか」
「まあ、そんなにうまい具合には、いかないのじゃがな」
「なにがあるんだ?」
「霧の魔力は最悪なのじゃ。パンで例えるのなら、腐ったパンじゃ。大量に食べれば腹を壊す。ちびちび腹を壊さないように、食べないといけない」
「そうか。でも、少しでも回復するなら、良い知らせだな」
「うーーむ」
ばあさんがうなりだした。
なにかを分身が発見して、それを見ているようだ。
「余り良い状態ではないのう」
「ばあさん、どうした」
「うむ、ここから一番近い亀裂じゃが、酷い状態になっておる」
「……」
どうせ、勇者がスライム狩りをしているのだろうと思ったが、それならそう言っているはずだ。
いったい何があったというのか。
「口で説明するより、行った方が良いじゃろう。どうする、ガド、行って見るか」
「行くのは構わないけど、ここが心配だ」
「それなら、わしが結界を張ってやる。どうじゃ」
ばあさんがここまでいうのなら、何か見ておかないといけない気がしてきた。
「わかった。行って見よう」
「うむ」
隣の亀裂へ行くのは、小さい三人、ばあさん、あい、サエ。
そして、ヒノ。
ヒミは次期王国の王様候補なので留守番だ。
さらにゴウのおっさん、このゴウのおっさん、実はヒミの国では相当大物らしい。
このメンバーで、行く事にした。
魔力回復の目処が立ったからか。
ばあさんは魔法の大安売りで、移動魔法で亀裂まで一気に移動した。
亀裂の前はぐちゃぐちゃの瓦礫の山、日本と変わらない。
そして、可哀想に勇者の犠牲になり、命を全く感じない静かな街になっている。
「見せたいのはこの先じゃ。ゆっくり、見つからないようにな」
俺たちが慎重に瓦礫の影を歩いていると、少し開けた場所に出た。
サッカー場のような場所で、この場所は瓦礫がない。
その場所には、ばあさんが言ったとおり、異様な光景があった。
「この場所じゃあ、よく見えないな。あそこに移動しよう」
移動魔法は節約して。
俺が全員を運んで、崩れたスタジアムの、観客席の上に移動した。
そして残っている椅子の影に身を隠し、慎重に中央の様子をのぞき見た。
「ヒミ、あれはお前の国の勇者か」
「いいえあれはツオ家の勇者です。私の国の隣の大国です」
「で、あそこにいるのが、大王様か」
「いいえ、違います」
ヒノはばあさんの質問に答えると、緊張した顔になり凝視している。
競技場には、二千人ほどの青い鎧の勇者が整列していて、その前に高い壇が築かれ、一人の男がふんぞり返っているのだ。




