流れ星君と動物たち
「うぅ……うぅ……」
「大丈夫、大丈夫だからね」
お人よしのキツネさんは、泣いている流れ星君を落ち着かせていました。
しばらく二人が、星が落ちた場所でじっとしていると……森の仲間たちも集まってきます。この場所の光景を見たクマさんは、あまりの惨状に小さく悲鳴を上げました。
「こ、こ、これが……星が落ちた跡……」
大きな体を細かく震わせて、怯えるクマさんと裏腹に……リスさんは目を輝かせました。
「すごいや! こんなイタズラ、ボクでも簡単に出来やしない! あの流れ星がやったのか。色々聞いてみたいなぁ!」
一方、蛇さんはあまり興味はなさそうです。食いしん坊な彼は、食べ物を探してきょろきょろします。最後の一人のコマドリさんは、小さく口笛を吹いて言います。
「空から降ってくるなんて……どんな景色が見えたのかしら? 私も色々聞いて、歌に変えてみたいわ」
やいのやいのと、がやがやと、みんなは口々に喋っています。警戒はしていますが、それより興味が勝っています。仲間たちに安心したのか、キツネさんは言いました。
「みんなが来てくれた。あぁ、彼らは僕たちの友達。大丈夫、怖くないよ」
「うぅ……うぅ……お空に帰りたい……」
怖がっているようですが、どうやら流れ星君は空に帰りたいようです。キツネさんは頷いて、言い聞かせました。
「そうか……分かった。何とかやってみるよ。ただ、ちょっとみんなびっくりしてしまったから、ここから遠くには行かないでほしい」
「うん……」
「よし……じゃあ、一人だと寂しいだろうから、誰かがそばにいるよ。最初は……」
「「ハイハイハイ!!」」
ちらりと仲間たちに目を向けると、コマドリさんとリスさんは元気よく手を上げます。どうやら流れ星君に興味津々のようです。他の三人も『そういう事なら……』と、キツネさんの言葉を受け止めました。
「そうか……じゃあ、最初はリス君にお願いしようかな」
「やったー!」
「それで、みんなで交代しながら、流れ星君を見守ろう。大丈夫、いつか空に帰れるよ」
「うん……ありがとうキツネさん……」
そして交代交代で、森の仲間たちは流れ星君を見守る事にしました。最初の相手はリスさんです。リスさんは積極的に、流れ星君に質問します。
「ねぇねぇ、このイタズラ、どうやるの?」
「えー……高い所から、思いっきり落ちただけだよ。でもすごく痛かったなぁ」
「へー……じゃあボクが飛び降りたら痛そうだけど、重いものでやってみよっと」
「ほどほどにね……怪我する人も出てくるから」
「わかってるって~」
「ほんとかなぁ?」
リスさんは悪い笑みを浮かべています。けれどお喋りは好きなようで、流れ星君は時々笑っていました。
次にやってきたのはコマドリさん。コマドリさんは歌うのが上手でした。色んな歌を流れ星君に歌ってあげます。流れ星君は聞き入っていましたが、コマドリさんは歌い終えると、流れ星君に聞きました。
「ねぇ、何か歌を知らない?」
「す、少しだけ……でも、下手だよ?」
「下手でもいいの。聞かせてほしい。私が覚えて、歌えるようにするから」
流れ星君は、星の間で聞いた歌を伝えると、コマドリさんはすぐ覚えました。しかもずっと流れ星君より上手いのです。びっくりして拍手をすると、コマドリさんは照れくさそうに頬を染めました。
次にやってきたのは蛇くん。食べ物を山ほど抱えて、流れ星君のいる場所に座ります。
「こんなに食べ物がいっぱい……」
「この森はいい森だよ。食いしん坊のオイラでも、全く食べるのに困らないし、飽きた事もない。ほら、君もお食べ」
「あ、ありがとう。いただきます」
蛇さんは食べることが大好きで、流れ星君とも一緒に色んなものを食べました。そのころにはすっかり元気になって、ちょっとずつ光が戻ってきました。
次に来たのは臆病なクマさん。びくびくしていますけれど、大人しい流れ星君と、徐々に打ち解けていきました。
「あの日はびっくりしたよ……」
「あはは……ごめんね?」
静かに色々と話していく内に、クマさんも怯えなくなりました。自然な形でお喋りしていたから、最後に来たアライグマさんも、しばらく様子を見て顔を出せませんでした。
やってきた彼は二人きりになると、腕を組んでこう言います。
「おい、森が少し荒れちまった。倒れた木を片付けるから、手伝え」
「う、うん……」
アライグマさんは、あまり流れ星君と言葉を話しませんでした。けれど意地悪な事はしないし、疲れた後に水をくれたりしました。
そうやって、色んな森の動物と過ごしていく内に、流れ星君は力を取り戻し、光輝き始めました。お人よしのキツネさんが、ちょうどそばにいた時の話でした。
「みんなを呼んでほしいです。これから、空に帰りますから」
「わかった。これで君ともお別れか……」
流れ星君がふわりと宙に浮き、空へ飛び立つ用意が出来たようです。森の動物たちが見送る中で、彼はこう言いました。
「実は、流れ星には願いをかなえる力があるんです。今まで助けてくれたお礼に、みんなの願いを一つずつ叶えたい」
突然の話にびっくりしましたが、すぐに蛇さんが言いました。
「それなら、いっぱい食べ物が欲しいなぁ」
呆れながら、コマドリさんはこう言います。
「えぇ……そんなのすぐ終わっちゃうじゃない。私は、あなたとの思い出を残したいかな」
「ぼ、ぼ、ぼくは……この落下した跡が、このままなのが嫌かな……地べたが抉れたままで、痛々しいよ」
三人の言葉を聞いた流れ星君は、それならと三つの願いを一つにして叶える事にしました。
「それじゃあ、ここに泉を作るよ。どんぐりを投げれば、願い事が叶うかもしれない泉を。これなら蛇さんも頼めるし、コマドリさんも思い出せるし、クマさんの景色も大丈夫だ」
おぉ。と三人が頷くと、流れ星君はそこに泉を作りました。くぼんだ所は湧いて出た水で満たされ、小さく綺麗な泉になります。力を本物と知ったキツネさんが、今度はお願いします。
「それじゃあ……実は、森には橋が無くて通るのに困っている場所があるんだ。何とかならないかい?」
「うーん……オンボロの橋でもよければ、作れるけど……」
「それでも、お願いしたい」
「わかった。じゃあ川の所に橋を架けるね」
流れ星君がそう言うと、森の隔てる大きな川に橋が架かりました。ちょっとボロボロですが、渡れなかったところに行けるようになる。行き来が楽になるだけでも、キツネさんは大いに喜びました。
次は、アライグマ君の番です。
「俺は……悪い嘘をついた奴を、懲らしめる何かが欲しい。この前リスのせいで、酷い目にあったからな」
「ハッハー! ご愁傷様!!」
「あぁん!?」
「喧嘩はしないで。それなら……嘘をついた奴を捕まえる、根っこの広場を作るよ」
「うっし……覚悟しておけよ、リス……!」
「近寄らなければいいだけだよーだ!」
流れ星君は笑って、根っこの広場を作りました。ここで嘘をつくと、たちまち根が伸びてきて捕まってしまう、不思議な広場を。
最後に……そのイタズラ好きなリス君が願い事を言います。
「ボクのお願いはね、ここに派手なトレードマークが欲しいんだ! ここは豊かだけど、目立つものが無くて退屈で……」
リスさんの願いを聞いた流れ星君は、にっこりと笑って答えました。
「それなら……とっておきがあるよ。僕が飛んで行ったあと、ちゃんと見ていてね!」
「なんだよもったいぶるなぁ!」
「必ずびっくりさせるから! それじゃあみんな、ありがとう!!」
そして、流れ星君が手を振ると、真っ直ぐ空の方へ飛んでいきます。グングンと速度を上げて、あっという間に地上から天高く、自分のいた空の果てへ。
彼の光は七色の光になって、動物たちの暮らす森に降り注ぎます。ゆっくりと形を変えていった光は、不思議な形になりました。
「あれは……虹だ。虹かかかってる!」
「しかもただの虹じゃない。逆さまの虹だ!」
流れ星君が去った後――リスさんの願い通り、この森にはシンボルと名前が出来ました。
ここは『逆さ虹の森』と呼ばれ、色んな動物たちが集まり、色んな話でにぎわう愉快な森となりました。