虹のかかる前に降った星
あるところに、不思議な動物たちが暮らす森がありました。
ずいぶん昔に人間が捨てたのか、人の姿はどこにもありません。今は色んな動物たちが暮らす森になっていて、けれどそれだけの、さほど珍しくもない森でした。
「全く、ここは退屈な森だね! ボクがイタズラしなくちゃ、ちっとも賑やかになりやしない」
イタズラの大好きなリスさんは、そんな風にぼやきます。他にも色々な動物たちがいるのですが、今日の話し相手は食いしん坊のヘビさんでした。
「うーん……確かに。この前のイタズラはとても良かった。あれでしょ? お肉に辛いのいっぱい仕込む奴」
「そうそう! アライグマの奴、ばたばた暴れて楽しかったなぁ!」
「でもわからないなぁ……なんであんなに暴れたんだろ。あの肉すっごく美味しかったのに」
「食べたの蛇君!?」
「舌がピリピリしたけど、とても刺激的な食事だった……あ、また頼める?」
「いやだよ!? ボクは驚かせるためにやってるんだ。君を喜ばせたい訳じゃない!」
「そう言わずに……何かびっくりするような味付けをね……」
「話聞いてる!?」
と、こんな風に色々ありながらも、この森はおおむね平和です。そんなある日の夜……その出来事は起こりました。
たまたま空を見上げていた、臆病なクマが流れ星を見つけたのです。珍しい事に、しばらく消えない光を、クマさんは指さしました。
「あの流れ星、こっちに飛んで来てないか?」
「あん?」
荒くれ者のアライグマが、臆病なクマを睨んで空を見上げました。二人は性格は逆でしたが、力は同じぐらい強いのでよく一緒にいます。面倒くさそうに空を見上げると、確かに光輝く星が、この森に向かって落ちてくるのです。クマさんは怯えました。
「ちょ、ちょっと……まずくない? 大丈夫かな?」
「心配性だなお前。流れ星なんてのは、地面に落ちる前に消えるモンだろ」
「で、でも……どんどん大きくなってない?」
「…………ほんとだ。オイ、これまずくないか?」
「に、逃げ――」
クマさんが叫ぶと同時に、森の中に激しい揺れが起こりました。木々がざわざわと揺れ、寝ていた森のコマドリやキツネさんも目を覚まします。一体何が起きたのか……森の動物たちはパニックになりました。
「わ、わ、何が起きたの!?」
「わ、わからない……ちょっと誰かに聞いてみるよ。あ! クマくん! アライグマくん! さっきの揺れは何だったんだい!?」
目を覚ました二人に、クマさんとアライグマさんは、自分が見たことと起きたことを伝えます。ぷるぷると震える指で、クマさんは指さしました。
「流れ星は……確か、あっちの方に落ちたと思う。だ、大丈夫かなぁ……」
「確かあっちは……川の近くだったね。何が起きてるか分からないけど、様子を見に行ってくるよ」
「キ、キツネさん……大丈夫? 何が起きているか、全然分からないよ……」
クマくんはすっかり怯えた様子です。無理もありません。森中が飛び起きてしまうような、ものすごい衝撃が響いたのですから。
よく見るとキツネさんも不安そうです。見かねたアライグマさんは言いました。
「それなら、俺がついていこう。この森は俺の縄張りだ。何か危険な事をする奴なら、俺がブン殴ってやる」
「アライグマ君! ありがとう!!」
「ふん……」
こうしてキツネさんとアライグマさんは、流れ星が落ちた所に向かいます。恐る恐る歩いていくと、流れ星が落ちた場所は地面がくっきりと凹んでいました。近くの川から水が流れ、周りの木々が倒れています。突然地面にぽっかりと空いたクレーターに、キツネさんとアライグマさんは言葉を失いました。
「これは……やべぇな」
「星が落ちると、こんなことになるんだね……」
そこは平和な森の一角なのですか、もはやその面影はありません。壊れてしまった森の一角を、呆然と見つめています。立ち尽くす二人の目線に、光り輝く何かが見えました。
あれは何だろうか? 二人はゆっくりと近づきます。流れ星が落ちた中心、クレーターの真ん中に光が見えます。ふわふわと輝く何かにゆっくりと近づくと、急に何かの鳴き声が聞こえました。
「うわーん! うわーん! 空からおっこちちゃったよぉっ!」
「「!?」」
わんわん泣いているのは、なんと空から落ちて来た流れ星です。何をすればいいのかわかりませんが、お人よしのキツネさんは歩いてきます。緊張しながら、落ちて来た星に話しかけました。
「大丈夫……なのかい?」
「うぅ……うううぅ……」
グズグズ泣いている流れ星君は、どうやら悪い子ではなさそうです。アライグマさんも最初はびっくりしていましたが、お人よしなキツネさんにつられて、ため息を一つ吐いてキツネさんに言います。
「……どうするんだよ。これから」
「わからないけど……まずは、落ち着かせてあげないとね」
流れ星君の頭をなでるキツネさん。ちらりと彼がすまなそうに目線を送ると、やれやれしょうがないなと、アライグマさんは、他の森の仲間たちの所に向かって、流れ星君をどうするか考える事にしました。