04 放置
ルシェリさんを玄関まで見送ってから、黙って居間へ。
いつものように床上正座待機して、おしおき待ち状態の俺。
どうやら今日は放置プレイの日のようです。
妻三人は、俺を無視してテーブルにて何やら相談中。
「どうにもアランの趣味が分からんのだ。 ルシェリさんが素敵な娘さんなのは一目瞭然なのだが、セルマさんとはタイプが違いすぎるのではあるまいか」
「好みのタイプうんぬんではなくて、近くにいる素敵な女性に片っ端から飛び付いている感じですよねっ」
「どうしておふたりのような素敵な妻と愛にあふれた夫婦生活を営みながらも、他の女性に目を移してしまうのでしょうか」
リリシアとマユリ、うつむいて沈黙。
ユイの天然スナイパーっぷりは、妻ふたりの急所を的確に射抜くことが多い。
そして賢いユイは、ふたりが沈黙した理由が自身の言葉にあったとすぐに気付くのです。
ほら、テーブルを囲んで妻三人が頬を染めてうつむく姿、夫冥利に尽きますね。
「そういえば、ギルドの受付嬢のサリアさんにお熱だったこともあったな」
「サリアさんて、セルマさんとタイプが似てるかも」
「サリアさんのタイプ……。 やはりアランは公言していた通りに大人の女性が好みなのでしょうか」
「それは違うぞユイ。 先ほどのルシェリさんを見れば分かる通り、標的が大人な女性のみとは限らんのがアランが『モンスター』と呼ばれる理由なのだ」
「雑貨屋のマリエレンさんの件といい、行動範囲と守備範囲の広さは私たち三人だけじゃお手上げですっ」
「ほう、マリエレンさんのことは初耳だぞ」
「確か雑貨屋のマリエレンさんは夫を戦争で亡くされた戦災未亡人でいらしたはず」
「マリネの洗車用品を買いに行くとか言って出かけたんですけど、なにやら四時間も話し込んでいたよって後から商店街の人たちから教えられて、すごく恥ずかしかったんですっ」
「商店街の方たちにそこまでお噂されるなんて、メリルさんたちの日々のお買い物にも差し障りが生じているのでは」
「私たちの耳に人妻に色目を使ったなどという話が聞こえてこないのが、不幸中の幸いとでも言うべきなのだろうか」
「もし、よそ様の奥さまに大事が起こるようでしたら、この『乙女の守り樹』にて必ずや夫の不貞の源に終止符をっ」
「大丈夫だ、ユイ。 その清らかな手をアレの成敗などで穢させはせん。 必ずや我が愛剣『バストネイシア』のサビにしてくれるっ」
「駄目だよ、リリシア。 アランの『盗賊』に対抗する方法、確実にヤるならふたりで同時に、でしょっ」
「いいえ、お姉様方。 嫁いだ日は違えども添い遂げる覚悟は同じ。 ヤるなら皆で一緒に」
「zzz」
「……静かだな」
「……寝てますねっ」
「安心しきった寝顔ですこと」
「zzz」
「私たちが慌てていては駄目、か」
「そうよね。 まずは注意喚起、その先は臨機応変に、かな」
「私ごとですが、ルシェリさんはとても素敵な女性だと感じました」
「zzz」
「では、今日のところは夕食抜きくらいでよかろう」
「確か今日の献立、いのししとくまさんの合い挽きハンバーグはアランの大好物でしたねっ」
「とても良いおしおきですね」
「zzz」
夕食抜きの刑を喰らったその夜に、こっそり厨房に忍び込んでメリルさんに見つかり、
サンドイッチとお説教を喰らったのは、内緒。
ありがとう、メリルさん。
寝巻き姿、素敵でしたよ。




