第七章 母親
そっと泣き止んだ里緒に光喜は諭すような口調で話しかけていた。
解かなければならない思い違いはもうひとつある。
「里緒、今から親に会いに行こう。君が親に愛されてないなんで全部勘違いなんだよ。だから───」
「大丈夫、ようやくわかったから。だから伝えてくる、だからついてこないで。これ以上涙見られるの、恥ずかしいから…。」
光喜は少し慌てて目をそらす。
確かに配慮が足りなかったかもしれない。
別に目をそらす必要はあまり無いのだが先程の勢いの告白の熱が今の発言で完全に冷めてしまいしっかりと顔を見れない。
「連絡は、取れるよな?」
「ん、今から電話する。先帰ってて。」
「わかった。」
光喜は先程言われた通り、涙を見られたくないことに気付いて屋上を出て帰路に着いた。
里緒はスマホを手に取り、買った時に設定して貰った連絡先の一番したにある母の電話番号を押す。
自分は今まで母の電話番号すらまともに覚えて来なかったのだと、その事実を再確認する。
「もしも、し。おか───」
「どこにいるの!心配したのよ!」
今日の朝に無視していた母の声が妙に懐かしく、そして妙に安心感を含んで聞こえる。
先程泣き止んだはずの涙が再び溢れ出してくる。
本当に今日は泣いてばかりだ、皆に心配をかけて勝手に一人で悩んでばかりだ。
皆里緒が助けを乞えば簡単に手を差し伸べてくれると言うのに。
自分が気付かなかった世界はこんなにも温かいのだ。
「おかあ、さん。お、母さん。お母さん!」
口に慣れないフレーズを繰り返す。
幼い頃はちゃんと言えていたのに今ハッキリと言うのは気恥ずかしい。
「お母さんだよ。里緒の、今までごめんね。ちゃんと接してあげられなくて、私が里緒を支えてあげるべきだった。拒絶されてもちゃんと根気強く話を続けて悩みに付き添ってあげるべきだった、それが親としてやらなきゃいけないことだったのに…。」
「お母さんは何も悪くない!私がずっと知ろうとしてこなかったから!今までずっと。お母さんが頑張って寄り添おうとしてくれたのに全部聞こえないふりしてた、ずっとわがままばかり言ってた。でも気付いたの、お母さんはいつも私思いで、頑張ってくれてるんだって。いつもありがとう、私を見てくれて。こんな私に愛想を尽かさないで居てくれて、お母さん愛してる。」
そう言うと電話越しに母の泣く声が聞こえる。
今まで辛い思いを強いてきていた。
だから里緒は皆に貰った笑顔を返そうと密かに決意を決めたのだった。
今回短くてすいません。自宅に帰ったシーンも書こうと思ったのですが似たようなことやるのもどうかなぁ。って思ったので書きませんでした。次で完結予定です。次はもっと長くするので許してください。ここまで読んで下さりありがとうございます。また次章でお会いしましょう。