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生まれた意味なら…  作者: 白月綱文
7/9

第六章 生まれた意味なら…

一応人によっては気分を害するかもなので閲覧注意です

里緒はそれだけを考えていた。

親に捨てられもう二度と現れるなと言われた。

そんな救い用の無い自分が自殺するならどこが良いだろうか?

それだけを考えていた。

出来れば自分に何ら関係の無い他人に一切見られずに死にたい。

そして苦しまないで死にたい。

二つ目の浅ましい自分の考えに嫌気が差してくる。

自分は皆を悩ませて、実の親を苦しませたのにその分の苦しみを味わわずに人生を終えるなんて都合が良すぎる。

でもこれ以上苦しみたくなかった。

あの声を聞いて尚それでも辛い物から逃げたかった。

そんな気持ちが自己嫌悪を加速させる。

考えているうちにふと、あることに気付く。

彼に、会いたい。

どうしょうもなく真っ直ぐで、優しい、こんな里緒を助けてくれた光喜に。

さよならを告げたい。

そして彼に自分が生きていたと言う事を覚えていて欲しい。

彼を絶対苦しませる事になるだろう。

そんなのはわかっている。

だけど、誰の記憶にも残らず死ぬのが怖かった。

彼に会うなら死ぬ場所はあそこしかない。

里緒は駅へと足を進めた。


光喜は学校に送って貰った後屋上に向かい荷物を取った後、急いで家に帰り着替えをして里緒の捜索に加わっていた。

しかし里緒は一向に見つかる気配がない。

市役所に来たと言う事からほぼ間違いなく実の親に会いに行ったはずだ。

正直、良い予感はしない。

まず、捨てられた時点で理由があるはずだ。

経済難が一番妥当なところだが、それ以外なら会っても良いことはないだろう。

そろそろ日が沈みかけていて三十分もすれば完全に辺りは暗くなるだろう。そろそろ探索範囲をこの街から広げた方が良いかもしれない。

すると通知でスマホが震える。

開いて見ると里緒からの通知だ。

LINEにメッセージが追加されている。

驚いてスマホを落とさないように注意しながら、画面を眺める。

『あの場所に来て』とだけ書いてある。

考えうるのは一つしかない。

二人だけが共有している。

思い出の場所。

頬を撫でる風が涼しくて、見上げる雲と空の青さが綺麗な、そんな場所。

光喜は押し飛ばされたように走り始める。

幸い学校付近にいたのですぐに着くことが出きるだろう。

里緒へ届けたい言葉をまとめながら光喜は学校へ向かった。


学校の屋上への扉をいつになく重く感じながら開く。

目に飛び込むのはくすんだ緑色のフェンスの段差に腰掛ける里緒。

光喜のなかを様々な感情が駆け巡り、それを込めて名前を呼ぶ。

「─────里緒!」

良く見たら緑色のフェンスには恐らく里緒がペンチで開けたのだろう人一人分入れるような穴が空いていた。

とてつもない不安が過る。

言葉にするなら里緒が死ぬ気なんじゃないか、そんな不安が。

動揺で言葉を出すことも出来ず、ただ一歩近付こうと足を踏み出す。

「────来ないで!」

思わず身が竦む。

それを見届けると里緒はまるで最後だと言うように言葉を紡ぐ。

「さようなら。今までありがとう。私を助けようとしてくれて、救ってくれて、ありがとう。」

救ってくれて…?光喜が何を里緒にしてあげてやれただろうか。

自分がやったのはただすこしだけ手を貸しただけだ。

大事なところはほったらかしでまだ全然終わっちゃいやしない。

それなのに、それなのに里緒は救われた何て言うのか?

「まだ、全然救ってなんかないだろ…いま死のうとしてる里緒が!救われてるわけ無いだろ!」

少年は叫ぶ、この世の不服に。

彼女を死なせてたまるかと。

「まだ俺は何もやれてない!実の親に会わすことも、君に産まれた意味を教えることも、君が皆に愛されてる事を教えることもだ!それなのに救われた?そんなの俺が納得するわけ無いだろうが!」

一歩ずつ里緒に歩み寄る。

彼女は背中からそのまま飛び降りようとするが間一髪で急いで走り出した光喜の手が彼女の手を掴み引きずり戻す。

「離して!私は望まれて産まれてこなかった!私の本当のお母さんは、私に二度と姿を見せないでって言った!生まれた意味も私の親も、そんなものはなかったじゃん!」

「絶対に離さない。今この瞬間君の手を絶対に離さないことが俺の生まれた意味だから!」

今目の前で死のうとしている少女を光喜はハッキリと見据える。

「生まれた意味ならあるんだよ、今この瞬間!自分が生きていて良かった。間違いながらも進んできて良かったって、思える瞬間が!きっと、その人の生まれた意味なんだ。だから俺は里緒の手を絶対に離さない。今こんなに寂しがってる里緒を絶対に独りにはしない。」

そんな彼の本音に少女はそんな彼だからこそ辛くなる。彼を動かしているのは彼のやさしさだろうから。

「なんで、なんで助けようとするの?同情ならほっといて好きに死なせてよ!誰かを助けたいだけならもっと、もっと私なんかより辛い人を助けに行ってよ!」

そんな彼女の言葉に少年は優しく返す。

「そんなの決まってるだろ。同情や優しさなら、ここまで必死になったりしねーよ。好きだよ。里緒。」

「………え?」

少女の中の前提が崩れ落ちる。

自分には誰かに愛される価値なんてなくて少年はそれでも深い優しさで救おうとしてると思っていた前提が。

「それ、本当…なの?」

だからこそ人生初の衝撃だった。『好き』なんて甘酸っぱい響きの言葉が里緒の中を駆け回っていった。

「本当だよ。俺は里緒が好きだ。」

耳まで真っ赤に染めて、でも勇気を振り絞って里緒を真っ直ぐ見る少年。

里緒は堪えきれずに涙が溢れ出す。

何回泣いてるんだろ。私…。

そんな事を考えながら繋いでくれた手を強く握り閉め返した。

少年は照れくさいながらもそれに応じ、泣き出した里緒の肩をしばらくさする事にした。


光喜が言った言葉の一つは自分が生まれた意味について考えたときに思ったものです。感動してくれたら嬉しいなぁ。ここまで読んで下さりありがとうございます。

また次の話でお会いしましょう、

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