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生まれた意味なら…  作者: 白月綱文
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第五章 再会

学生でごった返す駅のホームを抜ける。

ここは知らない駅で知らない街だ。

でもこれから知ることは一生背負わなくちゃいけない。

スマホのナビに従って足を進ませる。

時間は五時を過ぎていてあと一時間もしたら日が沈み始めるだろう。

長居は出来ない。

幸い目的地は駅から近いところにあった。

コンビニスーパーなのどが乱立する道を抜け誰もいない公園の角を曲がる。

あと少しだ、目の前に見えるのは築五十年は経っていそうな古いアパート。

入り口を跨ぎ二階に上がる。

用があるのは一番奥の部屋だ。

一歩一歩進む度に足の感覚がおかしくなる。

自分は実の親に何を伝えれば良いのだろうか?

思っていること聞きたいことが沢山ある。

例えば本当の自分の名前、兄弟は居るのか、出産時の話。

でも今知りたいのはそんな話じゃない。

なぜ捨てたのか。

それが里緒が今一番聞きたいことだ。

それを知らなければ里緒は今まで通りでは居られない。

今まで通り友達と、クラスメイトと、光喜と、言葉を交わす価値すらない。

だからここで真実を知って、自分はバトンを貰うんだ。

それが里緒の生きる意味だから。

扉の前に着いた。

インターホンは手を伸ばせばすぐ届く距離にあるのに、なぜか透明な壁があるように押すことが叶わない。

それから何分しただろうか、もしかしたら数秒かもしれないしもしかしたら数十分たったかもしれない。

ようやく彼女の指がインターホンのボタンを軽く押す。

するとすぐにインターホン越しに声がなる。

「あの、どなたでしょうか?」

それは、少し低い女性の声だった。

そこで気付く、引っ越している可能性を。

「こ、ここに、いつから住んでますか?」

引っ越しているなら少なくとも十七年よりは大きい数字はでないはずだ。

だからもし彼女が母親なら里緒の年が十八なので十八より上の数になる。

しかし相手は質問の意図がわからないと言った様子で「え?」とだけ返される。

里緒は慌てて言葉を紡ぐ。

「私、捨て子で両親を探してるんです。」

「………」

返事が返ってこない。

急に黙り込む相手に里緒は不安になる。

声をかけようとすると相手から怒鳴り声が発せられる。

「あんたが!あんたのせいで、私はこんな人生を送くらないといけなくなった!あんたが産まれてきたから私はあの人に捨てられた。あんたなんて産まれてこなきゃ良かった。なんでまだ生きてるんだ!あの時、道に捨てたあんたがなんで私の前にまた姿を現してくるの?私はもう疲れたんだ、二度と、もう二度と来るな!私の前に…来るな!」

「え?」

そんな事を言えるのはこの世で一人しかいない。

でも、あまりにも酷い言葉の羅列に里緒の心は理解を拒んだ。

しかし、言葉はハッキリと聞こえている。

鮮明すぎるほどに、里緒の残った心を壊すのには十分すぎるほどに。

目から涙が溢れる。

それは一筋のか細い線からどんどん涙が溢れどんどん太くなっていく。

頬を伝い制服を濡らす。

彼女の嗚咽混じりの声が段々と痛みと苦しみを書き消すように大きくなって涙と共に勢いをます。

考えていない訳ではなかった。

きっと心のどこかにはこの可能性を見ていた。

でもハッキリと見るのが怖くて、見つめたら考え始めてしまったらそれがやがて現実になって里緒の身を降り注ぐ気がしたからだ。

でも現実は残酷だった。

彼女がどれほど抵抗したところでその現実を無理やり見させる。

どれほど辛いものだろうと。

彼女に渡されるバトンなんて最初から用意されてなかった。

彼女が座ると思っていた席は実は満員で元から存在すらしなかった。

彼女に生まれた意味などなかった。

もうここには居たくない。

どこにも居たくない。

人と話したくない。

誰かの目に写りたくない。

自分を認識していたくない。

溢れ出す涙も気にしないまま歩く。

終わりにするならどこが良いのだろうか?


光喜は車のなかで今まであった事を全て話し終えた。

プリントを渡した日に彼女と口論したこと。

実の親を探すことになったこと。

彼女が一人で親を探す切っ掛けになった、あの屋上での事。

「色々と、すいません。俺がちゃんと動けていればこんなことにはならなかったんです。」

車はやや早い速度で走行を続けていてあと一分も経てば市役所に着くであろう距離だった。

「謝らないで下さい。元はと言えば私があの子とちゃんと話をしていれば良かったんです。私、なんてダメな親なんだろ。娘に親って思って貰えないなんて…笑えてきますよね。」

「いや、里緒が気付いてないだけでちゃんと親として頑張ってると思います。だから、言葉を伝えなくちゃならないんです。」

「ありがとうございます。そう言ってくれるだけで嬉しいです。そうですよね、私が親を諦めたら、あの子の親は居なくなる。だから、あの子が私を親だと思ってなくても私がちゃんと親として生きないと、支えてあげないといけませんもんね。」

市役所に車が着き二人は市役所の中で里緒の姿を探す。

「すみません、ここに制服を着た女の子は来ませんでしたか?」

里緒の母親は受付の人に声をかける。

「えっと、その子ならすこし前に出ていきましたよ?」

どうやらもうここにはいないようだ。

「松原君は学校に送るので荷物を取りに行って下さい。そして一応親に連絡いれて、私は送ったあとめぼしい場所探すから。」

「え、でも───」

「でもじゃない!君は学生なんだから荷物は取って帰る。探すのは良いけど制服がこれ以上汚れたら困るから着替える!わかった?」

「は、はい…」

押しきられてしまった。

二人は車を出し学校へと向かい始めた。

里緒が実の親に出会い心が砕かれました。次はようやく光喜が里緒に会い言いたかった言葉を伝えます。いやー、最初から書きたかったシーンがようやく書けますね。最初は本一冊分とか言ったけどめっちゃ短く終わりそうです。次がラストじゃないにせよ。ここまで読んで下さりありがとうございます!また次の話でお会いしましょう。

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