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生まれた意味なら…  作者: 白月綱文
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第二章 伝えたい言葉

作戦会議したあの日から光喜と里緒は何事もないように次の日も過ごした。

いつものようにまるで他人かのように一切お互いの生活に関わらないし、目すら合わさない。

ただ、二人だけがあの日の事を共有している。

その事実を学校生活に感じさせないまま日が過ぎた。

そして、今日が前日。

明日がどんな日になるのか、まだわからない。

もしかしたら実の親は見つからないのかも知れない。

もしかしたら実の親は里緒の事を探し求めてるかも知れない。

もしかしたらどちらも亡くなっているかも知れない。

もしかしたら、会えても拒絶されるかも知れない…。

そんなまだわからない未来の事に、光喜は緊張していた。

もし、何かがあった時。

声をかけられる、止められる立場に居るのは唯一自分だけなのだ。

里緒の親でも親友でも親戚でも先生でも無い。

ただ四日前パッと出て首を突っ込んだに過ぎない自分なのだ。

その事がまるで巨大な岩に押し潰されるかのように光喜の肩にのしかかっていた。

彼女が路頭に迷ったとき。

何か決断を迫られるとき。

そこでどんな言葉を自分はかけられるのだろうか。

それが不安で怖くて仕方がなかった。

だけど声をかけなければいけない。

彼女と一緒に迷わなきゃいけない。

それが、彼の決めた唯一の覚悟だから。

あの日彼女の涙を見た瞬間。自分が彼女に提案した瞬間から酷な未来を迫ることになるのは知っていたのだから。

せめて最後まで見届ける。

生まれた意味を見つけられない少女の奮闘を。

事の発端は光喜には無関係かもしれないが最後まで関わると決めたから。

彼女にかける言葉すら見つかってはいないが、それでも少年はそこに理由を見つけ最善の未来へ奮闘する。


一方里緒は気分が良かった。

明日に実の親に会える事を、自分の未来が明るいことを信じて疑わなかったからだ。

まるで舞踏会に行く前のシンデレラのように。

塔の上に閉じ込められた姫のように。

不安がない訳じゃない。

でもそれ以上に光を感じていた。

自分を助け出す魔法使い、または王子が自分にはいる。

まるで御伽の国に入ったような高揚感を幸せになるための片道切符を今日と言う日に感じていた。

捨て子だった事を悲しんだのは真実を知って幸せになるために仕方がなかったことなのだ。

そんなことを本気で考えていた。

明るい未来が来ると思ってその事に頭が一杯だった。

故に考えもしなかった。

今までの自分は果たして幸せじゃなかったのかを。

今までの自分は生まれた意味を知ってて生きてきたのかを。

今の自分は本当にいい未来へと進んで行っているのかと。

そして本当に今の両親は悪者なのか、彼女達と里緒の関係性は本当に偽物だと言うのかと言うことを…


帰りのホームルームが終わり、光喜は少しの目配せをして屋上に来ることを伝えた。

すると、里緒の方も軽く頷き少しの間隔を開けて後ろについてくる。

廊下の突き当たりの階段を上がり普段は閉まっている屋上の扉を開く。

冷たい風を肌で感じながら少しだけ前へ歩き扉の音を聞いて振り向く。

里緒が不思議なほどに元気に見えてそこに不安と緊張を感じながら。

「明日だな。待ち合わせ場所と時間はどうする?迎えに行くべきか?」

「出来るだけ早くしたい。近くの市役所が八時半に入れるから朝早くに家に来て。」

今回は渡された資料をしっかり読んでやることを理解した里緒が提案する。

瞳には曲げる気がない意志が見て取れて光喜は苦笑ぎみに了承する。

「わかった。玉城さんの家からは三十分もあればつくだろうし八時ぐらいには家に行くよ。」

なぜ玉城家が集合場所なのかは光喜には良くわからなかったが光喜に取っても家の様子を垣間見えるかも知れないので異論は挟まなかった。

「あと、LINE交換しよ。連絡手段ないと不便だし、今日も目で合図するからわかりづらかったし。」

軽くごめんごめん、と謝罪を言いスマホを取り出す。

手早く連絡先交換を済ませてここに残る用は無くなった。それでも少し名残惜しくて屋上に目を向けながら口を開く。

「ここ、お気に入りの場所なんだ。誰もから静かで涼しくて空が良く見えて。悩んだときはいつもここに来てた。二年からは閉まって、ずっと来れなかったんだけど久しぶりにここに来てやっぱり言い場所だなって思う。バレないように開けて貰ってるからないしょな?」

語っている内になぜここに少し残ろうとしたのがわかった。

伝えたかったのだ彼女に、ここに来れたのは君のお陰でそれを感謝をしていることを。

明日何が起こっても悔いが残らないように、少なくともここがもう一度見れて、ここに来るきっかけができて、それが良かったことを。

「‥‥‥」

反応は無かった。しかし返った静寂のなかで思いがを伝わったのを感じた。

扉が開く音を聞き。彼女が出ていったのを確認する。

彼女だって普通の女の子だ。

普通に会話もできるし泣いたり笑ったりもする。

だからこそその中の絆を、偽物のように感じないでほしい。

そう考えてもうひとつ自分がひたむきに隠していたことに気付く。

自分が伝えたい言葉など沢山あったのだと、ただ自分が伝えるべきではない。

自分じゃ役不足だ。

他の人ならもっとうまく言葉を伝えられるかもしれない。

今の彼女にはきっと言葉は届かない。

自分は彼女を変えられるかもしれない立場にいて怖じ気付いて居たのだと。

そんな感情に縛られてこんな時間になるまで言葉を伝えられずに居たのだと。

彼女が出ていったのはついさっきだ。

まだ遅くはない。

少年は教科書の詰まった重いリュックを放り投げ一心不乱に走り始める…


第二章を投稿しました。当初予定したストーリーから若干それて一際良いものになりつつあります。里緒が光喜をどう思っているのか、光喜が里緒をどう思っているのか、そういったところをメインに今回は書きました。それを少しでも感じ取っていただければ幸いです。ここまで読んで下さりありがとうございましす!ここから光喜は里緒にどんな言葉を伝えるのか無言で屋上からでた里緒はどんな行動をするのか!それではまた次回でお会いしましょう!

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