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てるてる坊主はケーキを食べながら微笑む

作者: END うい

てるてる坊主はケーキを食べながら微笑む


もし夏休み初日に戻れたらどんなに良いのだろう。朝、目が覚めとき俺はそう思った。だが現実はそう甘いものでは無い。携帯の画面には9月1日としっかり今日の日付が書かれてあった。身支度を済ませるとすでに学校に行く準備はしていたのでゆっくりと家を出ることが出来た。電車に乗って最寄り駅から歩いて15分。学校に到着した。しかし、玄関前は普段と様子が違った。俺がこの学校に通ってから1年半、1度も行われることがなかった荷物検査が行われていた。それを見て昨日学校から送られてきたメールを思い出した。


「一昨日、学校で不審物が発見されました。昨日、教員が学校を巡回しましたが、他に怪しい物は発見されませんでした。ですが、安全を期すために登校日から一週間持ち物検査を実施致します。」


不審物は気になったが、それではしょうがないと思い玄関に入った。別段怪しいものはいつも持ってきていない。列ができていたので最後尾に並んだ。それから数分後に俺の番が回ってきたが、特にこれといって何も起きなかったが、何故か少し悪いことをした気分になった。上履きに履き替え教室に向かう。久しぶりの学校で教室がどこにあるか不安になるがしっかりと覚えていた。歩きながらふと、この学校のおかしな点を思い出した。1階が2年生で2階が1年生なのだ。そして3年生は3階だ。これは入学当初から感じていたが、久しぶりに登校して改めてそのおかしさを再確認した。どうせ、特に理由などないのだろう。俺が所属する2年4組は理系棟の廊下の1番手前の普通教室だ。わざわざ、普通教室と言ったのには訳がある。保健室だ。保健室、4組、5組.......という順番で並んでいる。だから、教室に向かう時、えっちゃん先生とすれ違うのは偶然ではなかった。えっちゃん先生は保健室の先生だ。常に笑顔で男女問わず沢山の生徒から慕われている。


「おはようございます。」 「おはよう~!」


挨拶をすると明るい挨拶が返ってきた。保健室に寄る用はないので、俺はそのまま自分教室に向かった。


男子、三日会わざれば刮目せよ、という言葉があるがあれは嘘だったようだ。特に代わり映えもないクラスメイトが教室で雑談に華を咲かせていた。俺は特に話すようも話す人もいないので席についた。そこで変わり映えのない教室に1つの変化を見つけた。


4月から病気で学校を休んでいた、永江美咲(ながえみさき)が登校していた。彼女は周りに馴染めていないようだった。それはそうである。1学期で大体のクラスのグループは決まってしまっている。手を差し伸べてやりたいが、あいにく俺も分からないから1人なのだろう。


1時間目は全校集会だった。俺が教室でのんびりしていると教室を巡回していた先生に声をかけられたため先を急いだ。


全校集会は実につまらないものだった。特に校長の話は聞いてられるものじゃない。これを真剣に聞いている人はいるのだろうか?


「えー私は一昨日に、この学校の美術部の作品が展示されていた市の展覧会の方に行ってきました。1つ、かなり大きい絵もあってとても感動しました。今日から、少し学校でも飾るらしいのでどうぞ見てほしいと思います。」


俺が興味のあった部分はこれくらいだ。何故かと言うと、知っている後輩が美術部なのだ。それ以外の話は特にこれといって面白いものはなかった。


全校集会が終わると俺はトイレに行き遅れて教室に戻ろうとした。


廊下が騒がしかった。


そして、それをくぐり抜け教室にたどり着くと教卓の上に大きなてるてる坊主とショートケーキが置いてあった。ケーキには普通のいちごと星型にカットされたいちごがトッピングされていた。てるてる坊主には「-てるてる」と書いてあった。それが目に入らないほどのでさかである。まるで、巨大なてるてる坊主がショートケーキを食べているみたいだった。席について、耳をすませると1番最初に教室に入ったやつが最初に見つけたらしい。5分後に先生が入ってくると騒がしい廊下と教室が静かになっていった。先生は教卓に置いてある物を指さしてこう言った。




「これに心当たりのあるやつは正直に答えろ。」




もちろん。誰も手を挙げなかった。しかし、少し沈黙が続き意外な生徒が声を発した。永江美咲だった。




「あのー、私.......犯人とかじゃないんですけどそのケーキには見覚えがあります。」




「ほ、本当か!?」




先生は応えた生徒が意外だったのか少し動揺したらしく言葉をつまらせていた。




「はい。そのケーキの家の近所でやっているんです。」




すると先生からだけではなく他の生徒からも声が上


がる。




「なんでそこのケーキ屋だって分かったの?」




「そ、そこのケーキ屋は星型のいちごを上にトッピングさせることで有名だから.......。それで分かったの。」




「へー!そうなんだ!」




生徒の会話がヒートアップしたので、先生が喉をならした。教室がまた静かになる。




「ちょっと俺は職員室に報告しに行くから少し待っててくれ。いいな。」




先生はてるてる坊主とケーキを持って教室を後にした。


もちろん先生がいなくなった瞬間、教室はまた騒がしくなった。




「-てるてるってどうゆうとだ?」




「あのケーキ美味しそう!今度食べに行こうよ。」




「美咲ちゃんケーキに詳しんだね!」




そんな会話が聞こえてきたが俺は気になることがあってさりげなく教室を出た。目的地は保健室だ。


保健室はすぐ隣なためすぐに戸を叩いて中に入る。


「失礼しまーす。えっちゃん先生ちょっといいですか?」




「あら。どうしたの体調悪いの?」




「いえ、そういうのでは無くて。集会の時、保健室にいました?」




「えぇ。具合が悪い子がいたからね。」




「じゃあ、全校集会の時、誰か怪しい人が廊下って誰か通りました?」




「いいえ。誰1人としてこの廊下は通っていないわ。」




放課後。




俺は高風涼子(たかふりょうこ)と机を挟んで向き合っていた。


「センパイ、久しぶりですね。」




「嘘つけ、美術部ない日はほぼ俺の家来てただろ。」




「そうでした。うっかりです!」




「2つ質問させてくれ。」




「何問でも。難問でも。」




「難問はお前答えられないだろ。」




「スリーサイズくらいなら大丈夫ですよ!」




「嘘つけ。」




俺は気を取り直した。




「高風、全校集会出てたか?」




「はい。当たり前じゃないですか。」




「校長先生がお前の絵酷評してたぞ。」




「え!?ほんとですか!?」




「嘘だ。」




「うー、センパイの方がよっぽど嘘つきじゃないですか」




「質問2つ目。市の展覧会に出した絵はかなり大きいか?」




「はい。そうですね。」




「分かった。質問に答えてくれてありがとう。」




俺は1つ息を整えた。




「お前だろ。てるてる坊主とケーキを置いた犯人。」




「よくわかりましたね。センパイ。じゃあ、あのヒントを参考にしたんですか?」




「いや、それは決定打だ。」




「まず、あの巨大なてるてる坊主とケーキは今日学校に持ち込まれたものだ。不審物が見つかり昨日、先生によって巡回が行われたからな。ケーキはともかくあの巨大なてるてる坊主は目立つだろう。」




「なるほど。続けてください。」




「しかし、今日は持ち物検査が実施されていた。つまり、犯人はそれをくぐり抜けたわけだ。どうやったか?そう。巨大な物の袋の中に一緒に入っていたんだ。それはつまり。」




「私の絵が入るほどの大きなカバンですよね。」




「そうだ。持ち物検査の時、高風の絵が市で展覧されていたのは先生も知っていたはずだ。だからあまり中は確認しなかったんじゃないか?」




「その通りです!さすがセンパイ!」




まさか、校長先生の話が生かされるとは思っていなかった。




「したがって、大きなカバンを持っており、全校集会に出ていない。高風が犯人と言うわけだ。ちなみにヒントは坊主。これは釣り用語で、全く釣れないことを意味する言葉だ。つまり不漁だ。たかふりょう。この中にも不漁がある。こうゆう事だろ。ていうか、俺専用のヒントだろこれ。」




「いいんです!どうせ他の人は解けないんだから。」




「ということは、保健室の先生、えっちゃん先生は嘘をついていることになる。」




「私がお願いしたんです。」




「だろうな。こっからは俺の憶測だから間違ってたら言ってくれ。保健室の先生、えっちゃん先生の本名は、永江志保ながえしほだ。もしかして、彼女は永江美咲の母親なんじゃないか?だから、高風は先生にこう持ちかけた。彼女は2年生になってから初登校だ。中々最初はクラスに馴染めないだろう。だから教卓の上に彼女の家の近くのケーキ屋さんのケーキを置く。それをきっと教室に置くと、みんな注目する。知っているケーキのことだったら彼女が話しやすい話題になるだろうと先生に持ちかけたんじゃないか?だから先生は高風の事を見なかったことにした。違うか?」




「.......全部あたってます。美咲お姉ちゃんは小さい頃から家が近所で遊んでもらってたんです。もちろん、今でも仲良しで、病院にも何回もお見舞いに行きました。私が来るといつも笑顔を見せてたお姉ちゃんだったけど、時々不安そうに見えたんです。こっそりその理由をお母さんに聞いてみたら、2学期から学校に行って友達ができるか?という事だったんです。その時から私と志保さんの間でこの計画は立てていました。」




「そういうことだったのか。」




「センパイ誰も言わないでください。お願いします。」




「あいにく友達がいないから大丈夫だ。」




「私がいますよ。」




「1個だけ聞いていいか?」




「なんなりと。」




「てるてる坊主も置いたのはなんのためだ?注目度をあげるためか?」




「それもありますが.......。センパイ笑わないでくださいね。」




「あぁ。」




「美咲お姉ちゃんの2年生初登校は晴れて欲しかったんです。」




笑いを堪えるのに必死になった俺は顔をそむけて外を見た。




快晴の空の下に、友達と笑いながら歩く美咲の姿を見つけた。









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