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剣は振るえないけどその代わりにフライパンを振るってもいいですか? 〜貧乏領地に追放された最弱冒険者は胃袋を掴むのだけは得意のようです〜  作者: 早見 羽流
episode4 特産品を売り込め!

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67. 光明


 それから私たちは王都中の料理店や宿屋、商会のオーナーのもとを回って、片っ端からヘルマー牛のステーキを振舞って回った。心配していた味の劣化は、ミリアムの言うとおり凍らせることによってさほど気にならない程度であり、火を通して食べれば十分美味しいステーキとして食べることができた。


 しかし、オーナーたちの反応は芳しくなかった。


「ウチの店は既にブランド牛を仕入れているから……」

「ブランド牛ではない牛はちょっと……」


 ほとんどの店がこのような理由で断ってきた。中には試食すらするまでもなく拒否するオーナーもいた。


「きーっ! どいつもこいつもブランドブランドブランド!」


 ミリアムなどはこんな感じで苛立ちをあらわにした。私もなんとなく、このまま全ての店に断られるのでは? という予感があったし、それは断られる度に徐々に確固たるものになってきていた。



 そんな時一つの商会から好感触を得られた。それは『オスカー商会』という主に上流階級から中流階級まで幅広く商品を販売している、王都でも指折りの商会だった。


「ブランド牛でもないのにこの美味しさは……ブランド牛より割安で店に並べれば、こだわりのない中流階級の客層には大ウケしそうですな!」

「ほんとですか!」


 セリムよりも立派な口ひげをたくわえた『オスカー商会』の会長は笑みを浮かべながらヘルマー牛の美味しさに太鼓判を押してくれた。


「えぇ、ぜひウチの商会で扱わせてください」

「……やったー!」


 ほとんど諦めかけた時にこの言葉は、私の心にポッと火が灯るような感覚を覚えた。だが、会長の次の言葉で私は自分の認識の甘さを悟ってしまった。


「それで、月にいくら仕入れてくれますか? 最低でも200頭は欲しいのですが……」

「……に、200頭!?」


 思わず背後のセリムの顔を伺うと、彼は白ひげの生えた顔を左右に振った。


(ですよねぇ……月に200頭なんて、貧乏領地のヘルマー領には不可能……アルベルツ侯爵軍に多くの牛が殺された今、生産量を増やしていくにはまだ時間がかかる……そこまで待ってられない……)


「200頭はちょっと……」

「商会で扱うには安定してそれくらいの供給が無いと難しいですね……」

「そんな……」


 やっと見えかけていた希望はすーっと音もなく消えていったのだった。


 でも私は諦めなかった。もう前のように弱音を吐いたり



 だめ元で泣きついた『黒猫亭』の主のおじさんにも「すまねぇなぁ」とやんわり断られたものの、そこで貴重な意見を聞くことができた。


「ヘルマー領ってのは、土地が豊かで作物がどれも美味しいんだろ?」

「まあ、そうですね。ヘルマー牛の他にもたくさん美味しいものがありますよ」

「それならそれを使わない手はないじゃねぇか」

「……?」


 その言葉の意味に気づいたのは、少し経ってからだった。



 ☆ ☆



「料理店ですよ!」

「ふぁっ!?」


 ヘルマー屋敷で悩みこんでいた私が大声を上げると、隣でテーブルに突っ伏しながらすやすやと眠っていたリアがビクッと身体を震わせながら目を覚ました。ちなみに今部屋には私とリアしかいない。他の皆はヘルマー牛の売り込みに出ている。


「びっくりしたぁ……いきなり大声出すから……」

「あっ、ごめんなさい……でも、これなら……!」


 それだけ、私が思いついたアイデアは起死回生の──そして最後の手段になり得るものだったと言ってもいい。私ははやる気持ちを抑えてリアに指示を出した。


「出払っている皆さんを集めてください! ヘルマー領に戻ります!」

「えっ、諦めちゃうの?」

「違います。その逆です!」

「……? わ、わかった!」

「私は少し出かけてきます! 」


 私の瞳に何かを感じたのか、リアは深くは尋ねずに俊敏な動きで部屋を後にした。



「なんで……なんでこんなことを今まで思いつかなかったのだろう……」


(盲点……いや、本当にブランドにこだわっていたのは私自身だったのかもしれない……考えれば簡単な事だったんだ……)



 ──自分の店をヘルマー領につくる



 これが最短にして至高の策。それに気づくまで、ここまで時間がかかってしまった。素晴らしい食材が揃っているヘルマー領で店を出せば、美味しい料理を新鮮な状態で提供できる。そして客が増えればヘルマー領を訪れる者も増える。ヘルマー領はさらに発展する。


 問題はあんなへんぴな場所にどうやって客を呼び込むかだが、これには少し考えがあった。


「ふふふ、これは勝ちましたね……! やっと道筋が見えてきました。遠回りしましたが、最高の答えを出すことができましたよ!」


 上機嫌になった私は一人、冒険者ギルドへ向かったのだった。──王都での最後の一手を打つために。


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