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【怪異蒐集者 佐藤さん】無人駅

作者: ゆきだるまE

日も暮れてた図書館で読書中の男子高校生にブレザー姿の女子高生が声をかける。


「ねえ、アンタが佐藤さん?」


詰襟の学生服を着た高校生は読書を止めて、女子高生の方へ顔を向ける。


「はい、僕が佐藤ですけど」


「噂、聞いたよ。なんか怪談すんでしょう、聞いてあげるから話してよ」


唐突な女子高生の願いに、佐藤と名乗った高校生は読書中の本を閉じると思案する。

するとゆっくりとした口調で怪談を語り始めた。


「これは、ある女子生徒が体験した『怪異』なんですが・・・。」


ーーー


陸上部に所属する【前島 久美(まえじま くみ)】はすっかり暗くなった駅のホームに佇んでいた。

時折、ホームを抜ける生暖かい風が初夏であることを告げる。

他の学生も居ないホームのせいか久美は一人で愚痴り始めた。


「飛鳥ったら彼氏との恋愛相談をしてくるのは構わないけど、私の電車の時間ギリギリまで引き留めないでよね。しかも、電車に乗り遅れた私にあんな『話し』までするなんて最低」


飛鳥に怒りを覚えつつも、電車が来るまで暇だったので久美は飛鳥のした『話し』を思い出していた。




「ある夕暮れ時に改札の若い駅員さんが到着した乗客から切符を回収していたんだって、それで最期の乗客が『切符を無くした』とか言ってゴネて通ろうとしたんだけどさ、流石に駅員さんも通す訳ないじゃない。

それで押し問答の末に最期の乗客は線路を横断して逃げたんだって、駅員さんも誰か呼ぼうとしたんだけど誰も居なかったから追いかけたんだってさ。

そして乗客を追ってホームを降りたところで特急に跳ねられて死んじゃったってワケ。

それからその駅では駅員さんの幽霊が出るんだけど、・・・」


ピィーーーー


甲高い汽笛を鳴らしながらワンマン電車がホームへ滑りこんで来る。

久美は記憶の世界から戻ってくるとワンマン電車に乗り込んだ。中はガラガラで誰も座って居ないので、とりあえず降車ドア横の席に座った。


プシューーー


ガタンゴトン、ガタンゴトン


電車は発車するとモーター音を響かせながら、力強く加速していく。

久美は走る電車に揺られるうちに、強い眠気に襲われるようになった。

必死に堪えるも線路を走る心地よい揺れも手伝って、意識は次第に薄れていった。




どれだけ時間が経っただろうか、身体を引かれる感覚と共に電車が減速していく。


キキィーーー


車輪が悲鳴をあげた様に鳴くと電車は停止した。


久美は寝過ごしたかと思い、慌てて窓の外を確認すると見慣れた駅名が見えた。

久美は慌てて立ち上がり定期券を運転手に向けてると

降車ボタンを押した。


プシュー


圧縮空気の抜ける音と共にドアが開くと久美はホームへ躍り出た。

久美は恥ずかしい姿を見られたかと思いホームを見回すも人の姿は久美だけだったが、安堵すると同時に猛烈な心細さに襲われた。


背後で電車が軽快な音を立てて闇に消えると駅には本当に一人だけになった。

改札口まで歩いて行くと不意に蛍光灯が明滅した。


ジ、ジジジジジジ


この駅が無人駅に変わり、手入も行き届かなくなってしまった駅舎が『存在を忘れないで』と久美に訴えかけている様に見えた。


早足で改札口を抜けようとした瞬間に右手首を凄い力で掴まれた。


久美が慌てて右手首を見ると切符回収箱から()()()()に掴まれていた。

恐怖のあまり盛大に尻餅をつくと、思わず切符回収箱を見た。


細長い切符投入口の闇に、人間のものだと思われる二つの血走った目玉がギョロギョロと獲物を探すかの様に蠢いていた。

血走った目玉と不意に目が合った。


「きゃー」


思わず久美は悲鳴を上げると、駅の外からすぐさま人の気配が近づいてきた。

気配の正体は血相を変えて走って来た初老のタクシー運転手だった。


「お嬢ちゃん、凄い声出してたが大丈夫か?」


駆け寄って来たタクシー運転手に切符回収箱を指差して答えた。


「めめ、目玉が箱の隙間から覗いてた」


タクシー運転手は一瞬「まさか」といった表情をすると腰を落として切符投入口を覗き始めた。

暫く調べてから振り返ると久美に話しかけた。


「何も変哲も無い切符回収箱だぜ、お嬢ちゃんの見間違えじゃないのか」


久美は青ざめた表情で首を横に振る。

タクシー運転手が倒れた久美に手を差し伸べると、久美が差し出した震える手にタクシー運転手は驚いた。


「なんだ、その手の様な痣は」


久美の手首には赤黒い男の手形が付いていた。



恐怖に苛まれるなか、久美は友人である飛鳥の話しを思い出していた。


「その駅では駅員さんの幽霊が出るんだけど、幽霊の駅員さんは駅が無人駅になった後も切符を出さない人を見つけては捕まえてるんだって」



ーーー



「以上が女子生徒が経験した『怪異』です」


薄暗い闇の中に同化した佐藤さんは不意に立つと女子高生の横に移動しながら話しを続けた。


「よく諺で、壁に耳あり障子に目ありと言いますが回収箱には手まであるのは面白いですよね」



横を通り過ぎた声に振り返り、目で追うも佐藤さんの姿は無く静かに闇が広がっているだけだった。


不定期でボチボチやっていくつもりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです 昔、よく読んでた怪談話のようでした
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