第6話 気配を感知
「ゲコゲコォ(ハエいないなぁ)」
ぴょんっ
「ゲコゲコゲコッ(すぐ見つかると思ったんだけどな)」
ぴょんっ
俺は森の中を蛙飛びで進んでいた。
おかしい。
前世は二足歩行の人間だったはずなんだけどな、蛙飛びが凄いスムーズだ。普通に歩く感覚で蛙の体を動かすことができる。
この蛙の身体がもう俺の身体として馴染んでいるんだろう。
蛙の身体の動かし方が本能で理解できる。
ぴょんっ
おかげで巨大樹だらけの森の中を進むのにもあまり苦労をしないでいれる。
人間の感覚だと普通サイズの樹なんだろうが、蛙の俺からだと全て巨大樹だ。
地面から盛り上がっている巨大樹の根っこを飛び越える。蛙の身体なら朝飯前だ。
蛙の強靭な後ろ脚で飛び跳ねて進んで行く。
ハエを倒すことで経験値が手に入ることが分かったので、レベル上げのためにハエ探しの真っ最中だ。
早くレベルを上げてスキルを手に入れたいしな。
憧れの魔法まであと少しだ。
ぴょんっ
別に、ハエの美味しさをまた味わいたいとかそんなんじゃない。本当だ。
確かに、あのハエは美味しかったけども。
食べた瞬間口に広がる美味しさは癖になりそうだった。
じゅるり
おっといけない、思い出したらよだれが。
それにしても、ハエ見つからないな。
結構探してるんだけどなぁ。お腹が空いてきたぞ。
『『気配感知』を取得しました』
脳内にアナウンスが響く。
どうやらスキルを獲得したみたいだ。
急なスキルの獲得に蛙飛びの足が止まってしまう。
え、スキルってこんなに簡単に手に入るものなの?
ただハエ探してただけなんだけど。
うーん、あれかな。『蛙の神の加護』か『蛙の系譜』
どちらかの効果かな。
鑑定したとき恩恵が与えられるとか書いてあったもんな。
もしくは、『気配感知』スキルの才能が俺にあったのかだな。ありうる。
それともあれか?
『気配感知』スキルが誰でも手に入れやすいスキルだったりするのかな?
これが一番有り得そうな気がしてきた。
いや、考えてたってわからんな。
俺に才能があったってことにしておこう。才能豊かな蛙がいたっていいじゃないか。うん
『気配感知』か。
ずっとハエを探してたから手に入ったんだろう。
虫の気配を探しまくってたからな。
スキルを、つかう、と意識しなくてもスキルが発動している感覚があるから、常時発動型のスキルなんだろうな。
一応、鑑定しておくか。
『気配感知』
相手の気配を感知することができる。隠れている存在にも有効。
使用者の能力に応じて効果が上昇する。
なるほど、思った通りだな。
レベルが上がると効果も上がるって認識でいいかな。
さて、スキルを使用出来るようになった感想だが、
何だか、何処も彼処も何らかの気配を感じて落ち着かない。
周りの生き物の気配が手に取るように分かってしまう。
なんだ、こんなにたくさん生き物がいたのか。
さっきまでは全然わからなかった。
凄いな。これがスキルの効果か。
スキルがあるだけでこうもちがうんだな。
色んなところから複数の気配を感じるけど、一先ずは、一番近いところにいるやつから行くか。
巨大樹の中でも比較的に低い木の上にいるらしい。
どうやら葉っぱの上にいるみたいだな。
気配の大きさと場所から考えると、虫のだろうな。
スキルの効果で場所と一緒に、その存在の大まかな強さの様ならものも感じることが出来る様になった。
そのスキルの効果を信じるなら、木の上にいる存在の反応は弱い。
今の俺なら木登りも簡単だろう。サクッと食べに行こう。
蛙になったことで木の表面に手がくっつくようになったので、登ることに苦労しなかった。
簡単に目標の近くまで行くことが出来た。
俺は今、枝の上にいる。葉っぱの上のそいつはもう目と鼻の先だ。
俺が『気配感知』で気配を感じた存在は、蝶の幼虫、所謂、青虫みたいな虫だった。
木の葉っぱをもさもさと食べている。
大きさは俺の体の3分の一ぐらいだ。
ごくり
思わず喉を鳴らしてしまった。
俺の蛙になったことで変化した感性は、あの青虫を美味しそうだと認識している。
いずれ綺麗な蝶になったかもしれないが、俺の糧となってくれ。
枝の上から、青虫のいる葉っぱの上まで飛び跳ね一気に距離を詰めると反応する隙も与えず、一口で食べてしまった。
うむ、美味い。口に広がるジューシーさ、旨味、全てハエ以上だ。
ハエの食感も良かったが、味はこっちの方が上だ。
『経験値を取得しました』
青虫を食べたことで経験値を手に入れたみたいだが、レベルは上がらなかった。
レベルが上がるごとに必要な経験値が増えるんだろうな。ゲームではよくあることだ。
今までゲームみたいだと何度も言ってきたが、この世界はゲームじゃない。俺は一度死んで転生したが、そう何度も奇跡はおこらないだろう。
ゲームと違って死んだら終わりだ。
レベル上げのために強敵と戦うなんてリスキーなことはしないで、安全に虫を食べてレベルを上げていきたい。
強敵と戦うのは、もっとレベルを上げてからだ。
この木の上には、さっきの青虫と同じような反応がいくつもある。
多分、親の蝶がここに卵を産みつけたんだろうな。
申し訳ないが、全員俺の経験値になってくれ。