第二十九話 湾岸防衛部隊(1/2)
壕にこもり動けず縮こまるもの、わけもわからず泣き叫ぶもの、神に祈るもの。そしてそれらを背に守らんとする兵士の姿があった。
元々は白くきらびやかな砂地だったのだろう。海辺に乱立した土産屋には砂のキーホルダーが必ずと言っていいほど置いてあるが、それはもう見る影もなく赤黒く、伏せては数メートルも前も見えなくなっているほどに敵戦火に荒れた土地。砂浜に沿って作られた道路は今や見る影もなく、対空砲の砲台となり防衛線を築き上げている。
しかし、遮蔽物のない兵器は敵航空戦力において格好の的である。数刻前に設置された対空砲は今や半分にまで数を減らしている。ほぼ壊滅といってもいい。海洋上では上陸作戦の準備をしているとも聞く。正直、ここを守ることはできそうにない。正直今すぐにでも逃げ出したいところだ。しかし、いったいどこへ、いい年して独り身でいるわけで、それは残すものがなくとても気楽でいいわけだが、逆に言うと周りに頼りにできる人間が自分の同僚に比べて半分もいないということでもあり、助かる保証もない。
「畜生、こんなことになるんだったらバーの娘を何人かひっかけるんだった」
「後先心配して慎重になるからだな」
「そういうお前も独り身じゃねぇか、俺と同じだよキルト」
「俺は許嫁がいるんだお前と一緒にするんじゃない」
そういえばそうだった、俺のバディのキルトはいわゆるいい家の出で、大企業の社長の娘が許嫁として将来共にするパートナーが保証されているんだった。羨ましいもんだな。しかし、、、
「今死んだら俺と同じ独り身で死ぬんだ、同じだよ」
「俺は少なくとも悲しんでくれる身内がいるんだ、葬式は俺の方が若干華やかだろうさ」
「ははっ、負けたよ、何か欲しいものはないか?」
「なら、明日まで生きていられる保証が欲しいね」
「俺にそれができると?」
「さぁね、ただ、少なくとも俺の背中を預けているのはお前だってことだな」
「なるほど、それでは身を粉にして任務を全うさせていただこうかな」
島中に警笛が鳴り響く
水平線から閃光が瞬いたかと思った時には頭を抱えたくなるほどの耳鳴りと異臭、そして砂をかぶっていた。
空には太陽を覆うほどに大きい鳥がいるかのようにフォーメーションを組んで飛来する爆撃部隊、いかに対空砲を備えているといってもすでに航空戦力のない我々の部隊では追い払うことすらもできないだろう。しかしそれでもやらなければならない。それが任務だ。砲撃の痕に身を隠し敵を待つ。砲撃と砲撃の合間にディーゼルの音が波に揺られ近づく。いつ砲撃が自分に当たるかわからない恐怖と闘いながら今か今かと敵を待ち構える待ち構える。
砲撃が止んだ、いまだ上陸部隊の姿は見えない、
「砲撃が止んだな、まだ生きてるかキルト」
「どうも運だけはいいみたいでな、見ての通り五体満足だ」
「それはよかった、周りの被害はどんなもんだ?」
「結構ひどいな、対空砲に関しては、まぁ隠しもせず野ざらしでおいてたらそんなもんかなって感じ、周りは、、、見ないほうがいいな」
「すまん、もう見た」
「どうせすぐに見ることにな、、、早く移動するぞ」
「え、それは」
「いいから早く!!」
キルトが切羽詰まったように言う、俺は戸惑いながら言われるがままにキルトについていくことにした。方向としては山のほう、元砂浜に比べたら見通しが悪い草むらをかがみながら足早に突っ切って森に入っていくその時、海岸線をなぞるように砂埃に覆われ、遅れるように唸るような音が響く。何が起こったのかわからなかった。混乱しているとその元凶がその姿を見せつけるように、そして優雅に姿を表す。
「ありがとうキルト、あそこにいたら今頃ハチの巣だった。今は草むらにいてさっきまでいたところはグチャグチャだ」
「A-10 サンダーボルトだ」
切羽つまった状態から現状を理解するように状況を反芻する。
想像以上に落ち着きがなくなっているようで、発する言葉に一貫性は無い。
キルトから言われたA-10 サンダーボルトの名前は、過去に空軍の方で持っていると聞いたことがある。
どうやら対空砲で蜂の巣になってもパイロットは無傷で帰ってくるという強靭なボディを持っているらしい。となればさっきの唸るような音は主要兵装のアベンジャーだろう。戦車の装甲を貫くこともあるらしい。
幸いなことに足は遅く、レーダーで認識した段階で要撃機を上げる時間は十分にあることだろう。
まあ、上げるものもその場所も資材もどこにも無いんだが。
気長に待ってほしいください OTZ




