第9話:【天武会】2回戦、秘密特訓とその成果をラミアと観戦する話
【天武会】の1回戦、ダルバート王国とパルナコルタ王国の試合が開始した。
開始早々、2人を戦闘不能にしたダルバート王国は【勇者役】のダンに苦戦しながらも、サークレットの破壊に成功し、2回戦進出を決めた。
「びっくりしましたわ。まさか、ブルズ共和国が勝ってしまうなんて……。色々な戦い方があるのですわね」
帰り道で、ラミアは感心したような声を出した。
「回復特化の耐久パーティーで、ここまで連携がしっかりしているのは見たことないなぁ。基本的に勇者って我が強いから、辛抱するのが苦手なんだ。ああいう戦術って攻めないっていう割り切りが一番大事だからね」
私はラミアに説明した。
「そうですわね。わたくしなら、我慢できませんわ。ルシア様、次の試合であんなに徹底して守られたら、エリス様達は勝てますか?」
ラミアは唇に指を当ててながら私に尋ねた。
「まぁ、戦い方を考えれば何とかやりようもある。ラミアなら次の戦いはどうする?」
私はラミアに逆に質問した。
「そうですわね。まず、【勇者役】はルーシーさんにしますわ。動きの素早いターニャさんとエリス様にとにかくサークレットだけを集中的に狙って貰います。他の人にダメージを与える行為は殆ど意味が無さそうですから。後はマリアさんには【神官】に戻っていただくのはどうでしょうか?」
ラミアは意外と真面目に答えてくれた。
てっきり、「わかんないですわぁ」とか言うと思ったのに……。
「うん、いい作戦だ。私も【勇者役】はルーシーにやってもらおうと思っていたし、基本的には正解だよ」
今日のラミアは助手らしいじゃないか。
私はラミアに合格点を上げた。
「わーい、ルシア様が誉めてくれましたわ」
ラミアはクネクネ動き出した。
まぁ、見境なく抱きつかないだけ成長したか。
「でも、それだけじゃ勝てない。ブルズ共和国は【勇者役】のガードを徹底してたからね」
私は一言付け加えた。
「何か他に手はありますの?」
ラミアは首をかしげて尋ねた。
「あるよ。ブルズ共和国の弱点を突く方法が……」
私は頷きながら答えた。
――ダルバート宮殿、鍛錬場――
「―――っと、こんな感じでブルズ共和国が次の対戦相手に決まった。まぁ、君達も1回戦を突破して気を抜きたいかもしれないが、次の相手は中々厄介な相手だ。練習メニューを帰りながら考えたから早速実行しよう」
私は遅れて来るという連絡があった、エリス以外に練習メニューの説明を始めた。
「ルシア先生、それで今日は何をするのー」
ルーシーが手をあげて質問した。
「対ブルズ共和国対策だよ。まぁ本格的な技の習得は全員に一度【転職】してもらってするとして、今日は動きの基礎だけ練習してもらう」
私はこれからの方針を話した。
「えっ、何に転職するのですか?」
当然の質問をマリアがした。
「ふふっそれはね……、【踊り子】さ」
私は全員を【踊り子】に転職させる予定でこれからの訓練を考えていた。
かくして、ダンスレッスンが始まった。
「ほら、腰の動きが固いぞ! もっとこうやって滑らかに、そうだ、その動きをあと100回! ワンツー、ワンツー」
私は踊り初心者に必死で振り付けの基礎を叩き込んだ。
「足をもっと上げる。腕の角度はこうだ! はいっ、もう一度最初から……」
慣れないことなので、中々踊りの基礎の習得は難しそうだった。
「あのう、ルシア様。エリス様の遅れる理由なのですが……」
ラミアは遠慮がちに話しかけた。
「今、忙しいから後にしてくれ」
私はラミアにそう言った。
時間がないから急がなくてはならないのだ。
この次のステップはかなりの修練が必要だからな。
もっと早く腰を動かせないかな。
――ガチャ
扉の開く音がした。
「ほう、エリスよ。【勇者候補】達はもう訓練を始めているのか。君の言う優秀な先生というのはどのような特訓をさせているのかな?」
白髪の壮年の豪華な服を着たふくよかな男性が鍛練場に入ってきた。
ん……、あれはまさか、ダルバート国王陛下……
あっ、訓練を見に来られたんだ。
エリスに連れられて……。
「「「ワンツー、ワンツー」」」
3人の【勇者候補】達は必死で腰を振っていた。
「「…………」」
ダルバート国王とエリスは絶句していた。
ああ、場が凍るってこういう状況のことを言うんだな。
「だから、先にお伝えしようとしましたの」
ラミアよ、すまない。
今度からはあなたの意見にも耳を傾けよう。
「くすっ、ルシア。これ、どういうこと? なんでこんなに愉快なことになっているの?」
エリスはケラケラ笑いながら私に質問した。
「えーっと、これはですね。次回対戦するブルズ共和国対策の訓練です。国王陛下、お初目お目にかかります。私はルシア=ノーティスと申しまして、エリス様に仕えさせて頂いております、【勇者候補】達の指導者です」
私は気まずくなりながら現状の説明と挨拶をした。
「ああ、ルシア君のことは娘から聞いてるよ。とても優秀な指導者だと。まぁ、我が国があのパルナコルタ王国に圧勝したと聞いたから実力は疑っとらんよ。先程の趣向には些か驚いたがね」
どうやらダルバート国王は怒ってないようだ。
良かったー。
また、無職になると思ったよ。
「ありがとうございます。エリス様には本当に私とラミア共々良くして頂いて感謝の気持ちでいっぱいです。必ずや、ダルバート王国を優勝させてご覧にいれます」
私は本心からそう言った。
出会ったばかりの追放者である私を信じてここまでしてくれたのだ、忠誠心を持って当然だろう。
アレックスには全く持てなかった感情だ。
「うむ、その心意気やよし。優勝を達成した後には何か恩賞を与えねばな。楽しみにしておるぞ」
ダルバート国王は上機嫌そうに頷きながら、鍛錬場を出ていった。
「ルシアったら、笑わせないでよ。でも、さっきの優勝宣言の啖呵良かったわよ」
エリスは笑いながら私に話しかけてきた。
エリスはさっきのダンスを見て笑ったのだろうな。
でも、一番練習が必要なのはエリスなんだ。
ああ、言い出し辛い。
どんな反応をするのか怖いな。
「えっ、あたしもアレをやるの。……いいわよ。ちょびっと恥ずかしいけど……」
エリスは頬を赤らめながら答えた。
「ワンツー、ワンツー」
【勇者候補】達のダンス特訓は早朝から夜まで続いた。
それから1週間、修練の半分はダンスの練習となった。
最初は恥ずかしがっていた4人だったが、次第にダンスの魅力に取り憑かれ、今では楽しそうに練習をしていた。
そして、2回戦当日がやってきた。
――【天武会】、ダルバート王国チーム、控室――
「ターニャ、ステップが遅れてるわよ」
「エリス様、この時の足の角度なのですが……」
「もっと、腰を滑らかに……」
「……コツが掴めた」
【勇者候補】達は、最終的な確認をしている。
「よし、昨日までの【踊り子】生活、よく頑張ってくれたよ。まだ、付け焼き刃だが、1つの踊りを極めることがこの戦いには必要だった。必ず勝って、準決勝進出一番乗りを果たそう!」
私はみんなにそう話しかけた。
ちなみに面倒だが、今日も男装してる。
「「「「オー!」」」」
全員が一致団結して手を上げた。
――【天武会】、2回戦、試合会場――
ダルバート王国チーム
ルーシー(勇者役)
エリス
マリア
ターニャ
ブルズ共和国チーム
メル(勇者役)
ケビン
レベッカ
バリー
「それでは、【天武会】、2回戦、第一試合を開始する。一同、礼!」
審判天使の合図で試合が開始された。
エリスとターニャは素早いコンビネーションで【勇者役】のメルを狙うがケビン、レベッカ、バリーの完璧な連携により、近づくことさえ困難であった。
攻撃力ではこちらが上なので速攻でメルにダメージを与えたいが、鉄壁の連携と回復魔法により、効果が薄い。
ブルズ共和国側の攻撃は、完全にカウンター狙いで、こちらのスキをついてルーシーに攻撃をしていた。
さあて、ここまでは予想通りの展開だな……。
「ああ、ルシアール様。先日の第二試合と展開が似てませんか? しかも、心なしかエリス様達の動きが1回戦より悪いような気がしますわ……。所々で反撃をされていますし……」
ラミアは不安そうに尋ねた。
「似てるけど全然違うよ。追い詰められているのはブルズ共和国さ。エリス様達の動きも思ったよりもいいし…、」
私はラミアに戦況を伝えた。
「でもでも、こちらの攻撃は全然届きませんし、相手はドンドン回復魔法でリフレッシュしていますわ」
ラミアは見たままを伝えた。
「ラミア、ああいう回復魔法中心の耐久パーティーを倒す方法は2通りあるんだ。ひとつはこちらも相手以上の耐久パーティーで挑むこと。完全に根気勝負になるけど、確実だ」
私はラミアに解説をする。
「でも、それはうちのチームでは、難しいですわ。マリアさんしか回復役がいませんから」
ラミアは即答する。
「そうだ、絶対に無理だよ。だからもう一つの方法を選んだ。それは、【魔法自体を使えなくする】だ」
私は今回の作戦の概要を伝えた。
ほら、ブルズ共和国チームはそろそろ違和感を覚えるはずだぞ。
「あれっ、ルシアール様。ブルズ共和国、急に動きが鈍くなりましたね。何かあったのでしょうか?」
ラミアは首を傾げた。
「これが、攻撃中や防御中の所々で織り交ぜた秘密兵器、【魔力封じのダンス】だよ。上手くいったみたいだね」
ダルバート王国チーム→ブルズ共和国チーム
【踊り子スキル発動】
魔力封じのダンス