エピローグその2:勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい
「そっかぁ、じゃあ【天武会】来年から無くなっちゃうのね」
エリスは魔界から帰るときに会った、フィリアの最後の言葉を聞いてそう答えた。
「というより、勇者自体が生まれなくなります。まぁ、フィリアから聞いた話ですと【天界】と【魔界】の領土問題というか、縄張り争いにずっと地上が巻き込まれていたらしいので、3つの世界を分断することで多少は平和に近づくのではということみたいですね」
私はエリスにこれからのことと、現状を話した。
「でも、相変わらず魔獣やモンスターはいるし、魔界から地上に移り住んでいる悪意のある魔族は残っているんでしょ、だったら勇者が居なくなる分、私達が強い人間を育成しなきゃね」
エリスは私に言いたいことがあるみたいだ。
「はっはぁ、そうですね。強い心と力のある者は多い方が良いですよね。私も同感です」
「んっ、じゃあ決まりね! ルシア=ノーティスは明日からダルバート王国の兵士達やパーティーに所属している者たちの育成係に任命するわ。補助にはそうねぇ、フィアナさんやグレイスを付けましょう! ビシビシ鍛えちゃって!」
エリスは私にダルバート王国の今後を担う人材の育成の責任者に任命した。
まぁ、断る理由がないからな。隠居するまでは頑張るかぁ。
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「……真・流水乱舞!」
――スカッ、ピシッ、バシンッ
「――ターニャっ、【勇者】の力が無くなったのに、凄いじゃないか! 今のは本気で避けられなかったぞ」
私はヘルメスに【加護の力】を抜き取って貰ったターニャと組手をした。
「……まぁ、あの頃の力の感覚が残っているからな。さほど、力が落ちた感じがしない。それに、先生も何故か一緒にヘルメスに勇者の力を抜き取って貰ったんだから条件は同じだろ……」
ターニャは眠たそうな表情でそう答えた。
そう、私は勇者の力を消してもらった。あの力は平和になりつつあるこの世界には不要だと感じたからだ。
「じゃあ、お前もそのうち指導する立場だな。先生って呼ばれるようになるんだぞ。私を助けてくれよ」
私は彼女の成長が嬉しかった。
「……面倒だな」
「もー、ターニャ。ルシア先生がそう言ってるんだからちょっとは喜びなよー」
「何言ってるんですか、ターニャは喜んでますよ。ちょっと顔が赤くなってます」
「……赤くなってない」
3人はいつもの調子で仲良さそうに笑い合っていた。
この子達がいるんだ、ダルバートのこれからは大丈夫だろう。
「ルシア先輩! この前、見つけた赤ん坊の話ですが……」
グレイスが魔王の城からダルバートに戻った際に岩陰で見つけた、産まれたての赤ん坊の話をした。
いやぁ、あれはびっくりした。
「んっ、親や身寄りになる者は見つからなかったのか?」
「ええ、ですから連れてきました。ほらっ」
グレイスは布に包まっている、赤ん坊を見せた。
「なんでだよっ、預ける場所ならどこにだってあるだろ?」
「いやあでもこの子、ルシア先輩に似て可愛いんですもの。もっと言えば、フィリアさんやフィアナさんに似ていますね。まぁ、男の子ですが……」
うーん、似てるかなぁ? 銀髪だけど……。
――ブォォン
「んっ? 今、この子から黒い光が見えた気が……」
「えっ、そうですか? 私には見えませんでしたが……」
グレイスはニコニコして赤ん坊を抱いていた。
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「なんで、私がこの子を引き取らねばならんのだ。私は独り身だぞ!」
私は赤ん坊を引き取るようにエリスに命じられて、抗議したかった。
「それは、ルシア様がこの子から魔王の力を感じるとか仰るからですわ。全部消したのではなかったのですか?」
「いやぁ、技を使った瞬間に産まれたとしたら、なんかのタイミングで魔法から逃れた可能性があるかもなぁ。あーあ、ヘルメスに勇者の力を抜いてもらったのは失敗だったかなぁ」
私は頭を掻きながら反省した。
「ですから、ルシア様がこの子が大きくなられるまで面倒を見る義務がありますわ」
ラミアが正論のようなことを言った。
「うーん、そうかなぁ。でも未婚の私が……母親っていうのは……」
私は抵抗しかなかった。
「じゃあ、ラミアがお母さんになりますわ。ルシア様はぁ、お父様になってくださいまし。お父様似ですわねぇ……」
ラミアは楽しそうだ。そんなの嫌すぎる。
「ばっバカなことを言うな。誰が父親だっ!」
「じゃあ、お母さんとお母様でもいいですわ」
「そういう問題じゃないだろ!」
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結局、私は赤ん坊を引き取った。このままだと、本当に行き遅れそうだ。
「ルシア様は凄いですわね。まさか、ベビーシッターの職業の経験もあるとは思いませんでしたわ」
「んっ、まぁ戦闘に関係ない職業も結構やったからなぁ。ライフセイバーとか。まっ、アレックスには嫌われたけどな」
「でもでも、ルシア様は誰よりも強い力を持ってますわ! これは素晴らしいことですし、財産ですわ」
「うーん。まぁ、88種類も職業を経験して確かに勇者よりも強くなったかもしれないけど、どうでもいいんだ。そんなことは……」
「どうでもいいのですの?」
「うん、そんなことより大事なものが沢山手に入ったからな。ラミアに、エリス様、ターニャ、ルーシー、マリア、グレイス、フィアナ。みんな私の宝物だよ。それに比べたら私の力なんて本当にどうでもいい」
「ルシア様らしいですわね。アップルパイを焼きましたの。召し上がられます」
「やったぁ! うん、これも私の宝物だなぁ。――モグモグ」
転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて、勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい
完
ここまで読んで頂いて本当に感謝感激です!
作品を完結させたのは、4度目ですが、この作品は特別の思い入れがあるものになりました。
ルシアのキャラクターがある程度出来上がって、第二話の後半シーンでラミアに迫られたところを書いたときに、ふと性別を変えてやろうと決めたときからの筆の進み具合が凄かったこと。
追放されたとか書いてるのに、当時は他の追放作品の序盤しか読んでなかったので武道大会を行ったときの大丈夫かこれは感は忘れられないですね。
反省というか、絶対にツッコまれると思うので先に謝ります。
88種類の職業を登場させることが出来なくて申し訳ありませんでしたm(_ _)m
何かご意見やご感想があれば、お気軽に書き込んでいただければ幸いです。
最後に、この作品を読んで頂いてまだ評価をされていない方にお願いします。
何点でもよろしいので、是非とも採点の方をよろしくお願いします。
これから先に新しい作品を作る上で大変励みになりますので何卒お願いします!




