第8話:【天武会】1回戦、教え子達の初陣をラミアと一緒に応援する話
【天武会】の抽選の結果、私達のチーム、ダルバート王国の1回戦の相手は強豪パルナコルタ王国に決まった。
私は猛特訓をエリス達に施して、ついに1回戦当日を迎えた。
――【天武会】、ダルバート王国チーム控室――
「よし、今日までよく苦しい特訓に耐えてくれた。君達は本当に強くなったぞ! 何かあったら特訓の日々を思い出すんだ」
私は【勇者候補】達に声をかけた。
「うぇぇぇ、吐きそうです……」
「勘弁してー。もう走れないよー」
「……しっ死ぬ……ぐっ……zzzz 」
おいっ、誰が今思い出せって言った。
あるだろう、タイミングが……。
まったく、緊張感のない奴らだ。
「ごめん、遅れちゃった。あれ、なんであの子達顔が青いの?」
エリスが剣と鎧を装備してやってきた。
「ああ、気にしないでください。エリス様も初陣で何かと不安な部分もあると思いますが、自分の力を信じてください」
私はエリスに声をかけた。
「ええ、もちろんよ。あんたが作ってくれた【作戦】もあるし、負ける気がしないわ」
エリスはピースサインを私に送る。
私は最初の戦いは緊張しまくって、動悸が収まらなかったものだが、この人は本当に剛胆だな。
「あのう、ルシア先生。質問なのですが、何故今日は男装をしているのでしょうか?」
「あっ、それボクも気になったー」
「……先生にそんな趣味があったのは意外だ」
マリア、ルーシー、ターニャは私の男装にやっぱりツッコミを入れた。
はぁ、やっぱり、気になっちゃうよねー。
だってアレックス達が偵察に来てるんだもん。
多分、強豪のパルナコルタを見に来たんだろうけど……。
「これは【伝説の家庭教師】、ルシアール3世の衣装なのよ。ルシアはみんなの士気を高める為にあえてこの衣装を着てるの。だから、この服装の時は、ルシアール先生と呼びなさい。これは王女命令です」
エリスは口から出まかせを言った。
そんな訳のわからん理屈に引っかかるわけがないだろ。
「ルシアール先生、私達の為にありがとうございます」
「そんな理由が……。ルシアール先生、ボク頑張ります」
「……ルシアール先生、か」
素直か!
お前らは本当にいい子だな。
――【天武会】1回戦、試合会場――
ダルバート王国チーム
ターニャ(勇者役)
エリス
マリア
ルーシー
パルナコルタ王国チーム
ダン(勇者役)
ピエール
アーシェ
キャシー
両チームの4人が闘技場の中央に集まった。
審判は天界の女神から派遣された審判天使である。
「それでは、【天武会】1回戦第一試合を開始する。正々堂々と戦うように! 一同、礼!!」
審判天使の号令で試合が開始された。
今回の【勇者役】はターニャに頼んだ。
4人の中で体術が最も得意なターニャならサークレットを守るのも1番適していると考えたからだ。
ただ、ターニャは近距離戦を得意とするので、サークレットを守るあまり、こちらの攻撃が少し消極的になるリスクもあった。
一応、今回の戦いの大まかな作戦は伝えている。
ただ、状況は戦況によって変わるので、それを実行できるかどうかは彼女達の運次第である。
おっ、早速エリスが動き出したか。
エリス→ピエール
【剣士スキル発動】
十字斬り
エリスがピエールに剣技で挑んだ。
しかし、ピエールは剣の動きを見切って受け止めた。
ピエール→エリス
【剣士スキル発動】
竜神斬り
ピエールの強力な剣技をエリスはかろうじて受け止めたが、吹き飛ばされてしまった。
流石、世界に名高いパルナコルタ騎士団の一員。
剣士のレベルが高い。
しかも、パルナコルタ王国の今回のパーティーの構成は全員が剣士という火力重視の偏った構成だ。
どう見たって短期戦しか考えていない。
ならば、こっちは、【神官】のマリアの回復魔法で体力を確実に回復して、長期戦に持っていくのがセオリーだろうな。
マリアが早速、エリスの側に駆け寄った。
その瞬間、ピエールとアーシェがマリアを狙った。
パルナコルタ王国の狙いは最初から回復役のマリアだったのだ。
「狙い通り」
思わず私はニヤリと笑った。
マリア→ピエール、アーシェ
【神官スキル、武闘家スキル同時発動】
風系初級魔法+正拳突き=真空正拳突き
――ブワッ、ズドーン
真空波と共に繰り出される拳がピエールの顔面を捉えた。
ピエールは吹き飛ばされて白目を向いて失神した。
アーシェは拳は受けなかったが、猛烈な風によって吹き飛ばされた。
マリア【武闘家】はピエールを倒した。
私は今回、セオリー通り長期戦狙いをしようと全く考えていない。
1回戦は4人についての情報が全く知られていない、つまり奇襲が一番上手くいくのだ。
だから、マリアには訓練の2日目から【武闘家】に転職してもらった。
そして、私の得意技である【スキルの同時発動】の初歩を教えておいたのである。
後はマリアには【神官】の服装で来るように伝えておいた。
案の定、パルナコルタの連中はマリアを回復役と勘違いしてくれたので、奇襲は成功したのである。
おやっ、アーシェが立ち上がろうとしているな。
ふふっ、ダメじゃないか、そんなにゆっくり起き上がっては。
ルーシー→アーシェ
【魔法使いスキル発動】
最上級炎系魔法
全てを燃やす巨大な爆炎がアーシェに直撃した。
アーシェは炎に耐えきれずに倒れてしまった。
よし、作戦成功だ。
マリアは必ず複数からの攻撃を受けると思っていたので、カウンターが成功した場合、ルーシーに最大級の技で追撃するように指示を出したのだ。
開始5分で2人を倒せた。
しかも、ルーシーの最上級魔法も見せることができた。
これで、こちらの戦力が実際よりも上とか思ってくれるとありがたい。
しかし、ルールは相手のサークレットの破壊だ。
油断は大敵だぞ。
4対2になっていてこちらが有利になると思いきや、中々そうはいかなかった。
キャシーは早々と戦闘不能に持っていけた。
しかし、最後の1人、パルナコルタ王国の【勇者役】のダンは次元が違う強さだった。
ダンの剣士としての腕前は最高クラスと言って良かった。
つまり普通に熟練の勇者のパーティーに居るレベルである。
彼を【勇者役】にしたのは、最悪彼一人でも敵を殲滅出来るからなのか。
ダンの強さは予想外だったな。
ここからは、特訓の成果が出せるかどうかだ。
頑張ってくれ。
ルーシー→ダン
【魔法使いスキル発動】
初級氷系魔法
ルーシーは素早く、何度も初級魔法を使ったが、ダンには当たらなかった。
「いいぞ、ルーシー。練習通りだ」
ダンの避けた方向にエリスとマリアが突撃する。
ダン→エリス、マリア
【剣士スキル発動】
剛剣衝波斬
ダンの奥義とも呼べる、重く早い剣技がエリスとマリアを襲った。
エリスとマリアは凄まじい衝撃に吹き飛ばされてしまった。
そして、ダンは一人孤立しているターニャの元に向かった。
――バリン
サークレットの割れる音が鳴り響き、決着がついた。
「パルナコルタ王国、サークレットの破壊を確認。よってダルバート王国の勝利!!」
審判天使の宣言で我々の2回戦進出が決定した。
ターニャはエリスとマリアが目隠しの代わりをしていた瞬間に仙術で蜃気楼を発生させておいたのだ。
ダンの攻撃は空振りに終わり、そのスキを付いてターニャはダンのサークレットを破壊した。
ここまで、上手く作戦を実行するとは。
やっぱり、彼女達は大したものだ。
――【天武会】、ダルバート王国チーム控室――
「お疲れ様、素晴らしい戦いだった。感動したよ」
私は戻って来た4人を称賛した。
「先生の作戦のおかげですよ」
「ほーんと、先生の言ったとおりになったから驚いちゃった」
「……私はほとんど何もしてない」
マリアとルーシーとターニャは口々に感想を言った。
「いやあ、緊張したわ。あたしって、結構こういうプレッシャーに強いと思ってたんだけど、まだまだね」
エリスは最も動いたにも関わらずケロッとしていた。
「エリス様、お疲れ様ですわ。水をお持ちいたしましたの」
ラミアはエリスに水を渡した。
「サンキュー、ラミア。ちょうど喉が乾いていたのよねー」
エリスはラミアに礼を言った。
「それじゃあ、皆はここで休んで居てくれ。私は第二試合を見てくるから」
私はエリス達にそう言うと、ラミアを連れて第二試合の見学に言った。
なんせ、第二試合の勝者と私達は戦うのだから、偵察に行かないわけにはいかない。
――【天武会】、観客席――
「ラミア、この辺に座ろうか」
私はラミアと共に観客席に腰掛けた。
えーっと、第二試合はブルズ共和国とルバト王国か。
へぇ、ルバト王国はかなり魔法使いも剣士もハイレベルだな。
これは、圧勝かな。
ブルズ共和国は回復魔法で何とか凌いでいるけど、火力が弱いから苦しそうだ。
……また回復魔法か、まあ、あれだけ押されていたら仕方ないか。
…………いつまで、戦うんだ?
あっ、また回復魔法で復活してる。
まさか、この戦いは…………。
「ルバト王国、サークレット破壊確認。ブルズ共和国の勝利!!」
あれだけ、火力で押していたルバト王国が結局負けてしまった。
ブルズ共和国は回復魔法を中心に持久戦に持ち込む、耐久パーティーか。
正直、ブルズ共和国はダルバート王国と同じで優勝からは遠のいていた国だから意外だった。
あのゾンビのように復活してくる感じは精神的にも効くんだよな。
見に来ておいて良かった。
【天武会】2回戦の第一試合は、【ダルバート王国vsブルズ共和国】に決定した。
2回戦は1週間後である。




