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転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて、勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい  作者: 冬月光輝
最終章:魔王と勇者と神々を超えし者編

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第73話:ヘルメスにお願いをする話

「ふぅ、僕に頼みごとだってぇ? そりゃあ、びっくりだねぇ。てっきり前みたいに【天界】に戻るように説得に来たのかと思ったよー。なんせ、僕ぁ奪うしか能のない根暗な神だからさぁ」

 ヘルメスはそう言ったかと思えば姿を消した。

 なっ、どこに消えた!


「でっ、頼みがあるっていうのは君かい? ふむふむ。――へぇ、こりゃあ驚きだな。君には【勇者】と【魔王】の両方の力が同居してるんだねぇ。こりゃあ、女神(セリシア)のやつは放っとかないだろうなぁ」

 私の影から半身だけ体を出した、ヘルメスがじろじろと観察しながら頷いていた。

 くっ臭い……、洗ってない犬の臭いを凝縮したような感じだ……。


「こら、ルシア。あんまり失礼なことを考えちゃあ駄目よぉ。貴女はすぐに顔に出るからヒヤヒヤするわぁ。一応神様なんだからぁ、敬意を持ちなさぁい」

 フィーナは私に注意をした。

 ……フィーナだって、一応神様とか言ってるじゃん。


「ああ、楽にしていいよ。それで、ルシアとやらの頼みごとは何かな? まぁ、やるやらないは置いといて聞いてあげるよ。ミノタウロスを静かにさせた礼としてねぇ。アイツは可愛いんだけど、五月蝿くて昼寝の邪魔になるときがあるんだよなぁ」

 ヘルメスは愚痴っぽく話した。だったら、あんなもん飼うなよ。


「あっありがとうございます。実は――」

 私は理由を話した。



「――というわけで、教え子を救うためにはヘルメス様の力が必要なんです!」

 私はヘルメスに頭を下げた。


「セリシアも相変わらずエグいねぇ。僕は、ドン引きしてるよ……。君も大変だねぇ。力を持つってことは、それだけで恐れられるし、さらに大きな力に狙われる可能性も出来る。良いことないよねー」

 ヘルメスは同情しているみたいだった。


「まぁそうですね。面倒なことも多いと思います。でも、その分守れる範囲も広くなるってことを最近知りました。前は趣味で自分を高めてましたが、今は他人(ヒト)の為に強くなりたい……。そう思っています。なので、私の力は私の誇りです!」

 私は強くなって後悔はしていない。例え女神に忌み嫌われようとも……。


「なるほど、君という人間がわかったよ。どうも、悪い奴じゃないらしい。力にもなってやりたいと思った。――でもねぇ、ターニャだっけ? 彼女の力を取り除くことは確かに僕なら可能だ。でも、今それをやると非常にまずいんだ……」

 ヘルメスは影から出て来て立ち上がり、真剣な顔で私を見据えた。うっ、臭いがダイレクトに……。

 私は顔を背けたい衝動を必死に我慢した。今は出来ない理由というのはなんだ?


「つまりさぁ、今それをやっちゃうと僕ぁ、セリシアにしこたま怒られるんだろうなーって思うんだ」

 ヘルメスは真顔だった。


「はぁ、怒られる……だけですか?」


「うん、怒られるだけだね」


「「……」」


 私はなんとか飲み込もうとした。しかし、どうしても飲み込めない。


「なんとかなりませんか? だって怒られるだけでょ?」


「無理言わないでくれ。君ら人間と違って神同士の遺恨って1000年以上続いたりするんだよ。しかも、セリシアはあの性格。恨まれたら何されるかわかったもんじゃない。タダでさえ地上暮らしもよく思われてないのに」

 ヘルメスは両手を挙げて、降参のポーズをした。


「じゃあ、今はっておっしゃいましたが何時なら良いんですか?」

 私は声を荒げてしまった。


「そりゃあ、ターニャとやらがバハムティア=ジェイ=ノーティス、つまり魔王を討伐した後なら良いよ。セリシアにとって強い勇者が不用品になるだろうし、力を失うなら万々歳と思ってくれるかもしれないしね」

 ヘルメスは人差し指を立てて私に説明をした。

 なるほど、強い勇者が必要のない世界になれば良いのか……。

 つまり、魔王が居ない、勇者の存在理由がない世界……。そうなれば、ターニャを救える。


「でもねぇ、僕の見立てだとターニャは恐らく殺される……。というかあの魔王に勝てる奴など存在しない。セリシアは自信過剰でポジティブな上に相手の力を測るのが苦手だから気づいてないだろうけど。ジェイノスは歴代の魔王の中でナンバーワンどころか神々の力をも凌ぐ力をももっている。まっ、セリシアのことだからターニャが死んでももっと強い勇者を作れば良いやって思ってオシマイだろうね。あいつは魔王が勝手にやっているゲームに乗せられてることに気付いてないんだ」

 ヘルメスは自分の見解を話した。そうか、ターニャじゃあ敵わないか……。だったら……。


「わかりました。それでは私が魔王を討伐しましょう。そうしたら、女神がターニャにこだわる理由が無くなるのなら私は何としてでもやり遂げてみせます」

 私は魔王討伐を宣言した。まぁ、国からの命令があればいつでも行こうと思っていたし、いい機会だ。


「あのさぁ、僕の話を聞いてた? 奴だけは別次元の強さなのよ。君もそこそこに強いことくらい、僕ぁ読み取れてる。無理は止めなさい。自分が長生きすることだけ考えた方がいい。人間の一生は短いんだ。ターニャとやらだって、今助かっても、あと数十年かそこらでどうせ死ぬんだから」

 ヘルメスは私を無謀だと止めた。私は自分の一生と引き換えでも、その数十年が欲しい。


「ふふふ、いいじゃなぁい。ヘルメス、魔王が居なくなれば貴方だってピリピリした女神から解放されるのよぉ。貴方はルシアは魔王に勝てないと決めつけている様子だけどぉ。妾の見解は違うわぁ。天地魔界で唯一、奴を倒せる可能性が有るのはルシアだけよぉ」

 フィーナは私を援護射撃した。そこまで言われると、ちょっと恥ずかしい……。

 

「ほう、フィーナがそこまで推すのなら約束してあげてもいいかな。君の生死に問わず、魔王を討伐することが出来たらターニャのことを助けようじゃあないか」

 ヘルメスは少しだけ私に関心を持ったようだった。

 よしっ、あとは魔王を倒すだけだ。


「良かったわねぇ、約束してもらえて」


「ええ、フィーナさんのおかげです。さぁ、こうしちゃいられない! 急いで魔王の奴を倒してきます!」

 私は遺跡の外へと走り出した。


「えっちょっと、待ちなさい!」


――後ろからフィーナの声がする……。なんだろう?


――ビュゥゥゥゥン


 フィーナが宙に浮きながら私に近づいて来た。急いでるのだが、まだ何かあるのかな?


「貴女、急いでるところ悪いけど……、魔王の居場所を知っているの?」


「あっ……」


 私の頭は真っ白になった。


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