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第7話:抽選会場で不運なことに勇者のパーティーと再会した話

【天武会】のための訓練が始まった。

【勇者候補】の3人は1週間でかなりの成長を遂げた。

そして、【天武会】に出場するために必要な4人組の最後の1人は王女のエリスになった。


――ボルメルン帝国、サルッセ教会――


私とラミアとエリスは【天武会】のエントリー受付がある今回の開催国、ボルメルン帝国のサルッセ教会に来ていた。


「あら、ラミア。今日は帽子をかぶっているのね。どうかしたの?」

エリスはラミアに話しかけた。


「えっエリス様、おはようございますですの。ぼっ帽子ですか……、えへへへ。イメチェンですわぁ」

ラミアは笑って誤魔化していたが、女神の名のもとに集まる【天武会】で、女神に見つかることが怖いのだろう。


まったく、怖いなら留守番してろと言ったじゃないか、何が『どこまでもお供したいですぅ』だ。

大体、追放されたんだったらその時点で縁が切れただろ、毅然としてれば良いんだ。

そんな、変装なんかして、その方が恥ずかしいじゃないか……。

ん、あれはアレクトロン王国の【勇者候補】?

おや、アレックスたちがいるじゃん……。


【俳優スキル発動】

ヘアメイク+衣装チェンジ+メガネ=男装


私は咄嗟に髪をオールバックにして、メガネをかけてタキシードを着た。


「ルシア様? どうしましたの、その格好……」

ラミアが私に話しかけてきた。


「いっイメチェン……」

誰にだって会いたくない者の一人やふたり居るものだ。

変装なんて、恥ずかしいことでもなんでもない。


「カッコいいですわ。もしかして、わたくしのためにそんな……。別に男の人にならなくっても、ラミアはルシア様のことをお慕いしてますわ」

ラミアが面倒な勘違いをしている。


「あれ? あんた、その格好……。ははーん、アレクトロン王国の勇者に見つかりたくなかったのね。大丈夫よ、もしもの時は誤魔化してあげるわ」

エリスは空気を読んでくれた。

すまん、恩に着る。


今回は16ヵ国参戦ということで、トーナメントを4回勝ち抜けば優勝ということになる。

ルールは4人のパーティーで戦い、【勇者役】の頭に付けられるサークレットを先に破壊した方が勝ちである。

しかし、相手を死亡させた場合は、そのチームは失格となる。


ちなみに【勇者役】は各試合毎に変更可能である。

優勝した場合、4人の内の代表者1人が晴れて勇者になることができるのだ。


『それでは、第144回【天武会】の抽選を始めます』

抽選会が始まり、各国の代表者が続々と抽選を受ける。


『ダルバート王国、代表者、前へ出てください』

エリスが代表者として、抽選を受けた。


『ダルバート王国、1番です』

1回戦の第一試合になったか、対戦相手は……。

パルナコルタ王国か……。

強力なパルナコルタ騎士団を抱えている軍事大国だな。

勇者の人数も5人くらい居たし、【天武会】もベスト4以上の常連だ。


初戦から厄介な国と当たってしまったな。

エリスもくじ運が悪いなぁ。

まぁ優勝するつもりなんだから、いずれ強い所と当たるし、そこまで文句はないが……。


「いやぁ、ごめんねー。1回戦から強い所と当たっちゃったよー」

エリスが抽選会の壇上から戻ってきた。


「気にしないでください。どうせ優勝するならどこと当たっても一緒ですから」

私はエリスにそう言った。


「そっか、そうだよね。絶対に優勝しよう!」

エリスは大声で優勝宣言をしたので、周りから変な目で見られた。


「エリス様、声が大きいです」

私はエリスを諌めた。


「ごめん、ごめん。ついつい、気合入っちゃってさー」

エリスは手を合わせて謝罪した。


「今年はやる気ですね、ダルバート王国は、王女様自ら抽選を受けられるとは……」

エリスは後ろから声をかけられた。

げっ、アレックスかよ。

ティアナやロザリアもいるじゃん。


「あら、アレクトロン王国の勇者アレックスさんじゃないですか。今年はあなたが【勇者候補】の指導を?」

エリスは顔色変えずに返事をした。


「ええ、去年は準優勝でしたから、確実に優勝するために僕が担当するように王から勅命を受けまして……」

アレックスは髪をかき上げてそう言った。

この、カッコつけマンが……。


「あなたが、アレックスさんですわね……」

ラミアがアレックスに声をかけた。

おいラミアよ、何を考えている。


「えっ、そうですが……。失礼ですが、どこかで面識がありましたか? あなたのような美人を見忘れるわけがないのですが……」

アレックスよ、ラミアの胸をチラ見するな。


よく考えたら、ラミアの容姿はアレックスのどストライクのような……

なんか、すげぇカッコつけてるわ。


「ええ、初対面ですわ。わたくしはルシアさっ……きゃっ痛いですわ……」

このアホ堕天使、本当にいい加減にしろ!

私は咄嗟にラミアの腕をつねった。


「えっ、ルシア?」

アレックスは素っ頓狂な上げた。


「いいえ、違います。ルシアールです。このラミアは、隣の男、【勇者専門の家庭教師】ルシアール3世の助手なのです」

エリスは真顔でアレックスに私たちを紹介した。


さすがに王女様ともなると機転が利くなぁ。

しかし、アレックスに私の変装はバレないのかな?


「どうも、初めまして、ルシアールです」

私はアレックスに声色を変えて挨拶した。


「あっ、どうもご丁寧に。ちょっと知人に名前が似てたもので、取り乱しました」

ああ、よかった、全く気がついていない。


「初めまして、私はティアナっていいます。家庭教師をされているのですか? 強そうですねぇ」

ティアナがアレックスを押しのけて私に挨拶をした。


なんだ、お前はそんな声が出せるのか。

いつもの私に対する態度と随分違うじゃないか。


「ティアナさん、自分だけズルいですよ。どうも、ロザリアです。ダルバート王国の【勇者候補】さんは幸せですね。こんなステキな方に指導してもらえるなんて」

ロザリアは目をキラキラさせて私を見てきた。


そんな、媚びるような態度をとるキャラだっけ。

しばらく会わないうちにキャラクター変えたの?


「ちょっと、ロザリア! あたしがルシアール様と話しているのよ、遠慮しなさい」

「いいえ、ティアナさん。ルシアール様は私に興味を向けてくださってます」


ナニコレ、どんな状況だ。

っていうか、お前ら揃いも揃って私に一切気が付かないって、それはそれでどうなのよ。


「ラミアさん……。あなたのような美しい方を見るのは初めてだ……。今度、僕とお茶でもどうですか?」

アレックスよ、どさくさに紛れてラミアを口説くな。


「嫌ですわ! わたくしには、ルシアール様がいますので」

ラミアは私の腕を掴んでそう言った。


「「「……!!!」」」


「なに、あの女がルシアール様の彼女ってわけ……。ブスじゃん」

「ええ、ルシアール様と釣り合っていません」


「きっ君、大勇者である僕より、そのメガネくんを選ぶのかい? 趣味が悪いよ」

アレックスたちはブツブツと文句を言い出した。


「すみません、あたしたちはこれで引き上げますので……」

エリスは変な空気を察してここから逃げ出そうとした。


「ルシアールくん、君の所とは決勝までぶつからない。せいぜい勝ち上がってきたまえ、僕のチームにボコボコにされるがいい。そしたら、ラミアさんも君に愛想を尽かすだろう」

アレックスは私を追放した時と同じ表情になった。


「ええ、決勝までは行きますよ。勝つのは我々ですが……」

私はムカついたので、余裕たっぷりにそう返した。


「やっぱり、君は僕の一番嫌いな奴によく似てるよ……。叩き潰す!」

そう言い残して、アレックスたちはどこかに行ってしまった。


「すみません、エリス様。せっかく色々とフォローを入れてもらったのに、安い挑発に乗ってしまいました」

私としたことが、感情的になるなんて。


「いいえ、あんたはよく言ったわ。むしろ、恨みがある相手に対する態度だとしたら紳士的なぐらいよ」

エリスはニコリと微笑んだ。


「ルシア様ぁ、ごめんなさい。ルシア様を酷い目に遭わせた人間だと思ったらつい……」

ラミアは涙目で謝罪した。


もういいよ、私の代わりに怒ってくれたんだろ。

まぁ気をつけてほしいけど、少し嬉しかったよ。

ほら、頭を撫でてやるから元気だせ。


「ルシア様ぁ、やっぱりわたくしのことをー」

ラミアが飛び付いてきたので、私はヒラリと避けた。

調子に乗るなよ。


「あんたたち、いつまでコントを続けてるの? 早く帰るわよ。あの子たちも自主練だけじゃ、物足りないでしょうし、あたしも特訓したいわ」

エリスの呼びかけに応じて私たちはダルバート王国に戻った。


それから更に1回戦が開催される日まで猛特訓を私はエリスたちに施した。

誰一人音を上げることなく厳しい訓練に付いてきてくれたおかげで、彼女たちのレベルは更に何段階もパワーアップしてくれた。


そしていよいよ【天武会】の1回戦が始まったのである。






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