第63.5話:ルシアの知らない武器工場の話(グレイス視点)
ふむ、ルシア先輩は行ってしまわれたようだな。
先程のフィアナ兵士長という女……。相当の手練のようだ……。
それを何食わぬ顔で近くに立っているとは、やはりルシア先輩は凄い人だ。
あの女も先輩を信頼しきっているようだし、先輩は大丈夫そうだ。
「グレイスさん、わたくしの方は順調に事が進みましたわ。そちらはどうですの?」
「ラミア先輩、もうすぐ終わりますよ。これで、武器工場で作られた武器をメフィスト殿の用意したシェルターに運ぶ事ができますね」
私はラミア先輩に返事をした。
そう、私達に課せられた任務は運搬の準備。詳しい仕組みは分からないが、倉庫にある完成した武器が保管されている箱に札を貼ると、フィリア殿が用意したカラクリがその箱を運搬してくれるらしいのだ。
なので、私とラミア先輩は手分けをして全ての箱に札を貼っていた。
★
私達は任務を終えて、仕事場で仕事を続けていた。
ふむ、任務完了した場合は少しでも怪しまれたら逃げ出せと言われている。
そして、この赤いボタンを押せとも。私はポケットにある、フィリア殿から渡されたカラクリを握りしめた。
「おいっ! 貴様ら新人の女だな? ミランダ様から命令が出ている。しばらく牢屋に入ってもらうぞ!」
人間の兵士が、ドワーフと悪魔の兵士を引き連れてこちらに歩いてきた。
ふむ、まいったな。思った以上に早く私達は怪しまれてしまった。
ポケットのボタンは押したが、助けが来るまで時間は掛かりそうだ。
不肖、ルシア先輩の弟子。グレイス=アル=セイファーがここはラミア先輩だけでも守ってみせます!
グレイス→リメルトリア兵(3体)
【魔法剣士スキル発動】
氷狼一閃
私は銃を撃たれる前に、相手の腕を狙って氷系魔法を纏わせた剣の一撃を放った。
――ビキビキッ
「だぁーっ、うっ腕がぁ」
「氷……」
「うっ動けんっ! こっこいつらがスパイだー!」
「ラミア先輩っ、逃げますよ!」
私はラミア先輩の手を引いて駆け出した。
――ピュゥゥゥゥン
――ピュゥゥゥゥン
光が私達を狙って、後ろから放たれる。
くっ、このままだとやられるのは時間の問題か……。
こんな時は……。
グレイス
【剣士スキル発動】
嵐車斬り
ルシア先輩からコツを習って精度を上げた、この技は地面を破壊して埃を巻き上げる。
これで、しばらくは目くらましになる。
私は必死で駆け出した。
「はぁ、はぁ、グレイスさん。わたくしの事は置いて逃げて下さいまし」
ラミア先輩が、息を切らせてそう言った。
それだけは出来ない。貴女はルシア先輩の大切な女性だ。
私には、貴女を命を懸けて守る義務がある。
「ここまでだ、抵抗するなら殺しても良いと許しを得ている」
前方にも天使の兵士と悪魔の兵士が銅装飾銃を構えて立ち塞がる。
くっ、もはやこれまでか……。いや、刺し違えてでも、ラミア先輩を……。
私は剣を上段に構えて、捨て身の必殺技を出す覚悟を決めた。
「ふんっ、馬鹿な奴め!」
――ピュゥゥゥン
「おーうグレイスちゃんにラミアちゃん、すまんな。かなり遅れちまったようだ」
メフィストは胸に2箇所ほど穴が空いているが、何食わぬ顔をしていた。
「きっ貴様はメフィスト=フェレス。やはり、貴様の手引きか!」
「メフィストが来たぞー! 至急応援を頼む!」
兵士達は慌てふためいていた。
「そーんなに、慌てなさんな。オレが、優しいのは知っているだろ?」
メフィストは拳を鳴らしながらそう言った。
「くっ、ほざけぇっ!」
――ピュゥゥゥゥン、ピュゥゥゥゥン
――ピュゥゥゥゥン、ピュゥゥゥゥン
2人の兵士は銃を乱射したが、メフィストは平気な顔をして兵士に近づいた。
――ゴンッ、ゴンッ
メフィストの拳が、兵士の頭に直撃して、兵士達は倒れてしまった。
シンプルに殴るだけで倒してしまうとは……。
「じゃあ、嬢ちゃん達。オレに付いてきな」
メフィストは体中穴だらけになって、血を吹き出していた。
しかし、一瞬で穴が塞がってしまった。何回見ても凄い体質だ。
私達はメフィストに助けられて無事に隠れ家まで逃げることができた。
ルシア先輩、私達は大丈夫です。健闘を祈ります!




