第58話:危うく修羅場に発展しそうになる話
フィアナに襲われそうになった私はなんとか難を逃れる。
翌日、私は武器工場にフィアナと共に視察に行ったがなんとそこでラミアとグレイスが働いていた。
「ラミア、グレイス、君たちはここで働いていたんだな」
私はなんとか平静を保ちながら返事をした。
「ルシアール様ぁ、なんかよそよそしいですの」
ラミアは相変わらずの雰囲気で私に近付いてくる。このアホ堕天使、状況で察しろ!
「なんだ、貴様らは知り合いか?」
フィアナは眉をひそめてラミアを眺めた。
「知り合いなんて、淡白な関係じゃないですの! 恋人……モゴモゴ」
ラミアがそこまで言いかけたとき、グレイスが口を塞いだ。
「ラミア先輩、仕事中に私語はいけません。持ち場に戻りましょう」
グレイスがラミアをズルズルと引きずって、遠くに離してくれた。
ふぅ、戦闘用にハンドサインを作っておいたがこんな時に役に立つとはな。
これで、少しは誤魔化せたかな?
「はっはっは、ルシアールよ。私の耳には先程、【恋人】という言葉が聞こえたのだが、気のせいだよなぁ」
フィアナの気配が変わった。笑っている顔だが目は笑っていない。
一言で言えば【殺気の塊】。非常に厄介な感じである。
くっここで一戦交えては全てが水の泡だ……。どうすれば……。
「あっはい。元恋人ですね。それがなにか?」
私は敢えて開き直ってみた。
実際には恋人でもなんでもないが、言い訳すると非常に面倒なことになりそうだったし。
「もっ元か。そうかそうか、いや、すまない。私という者が居ながら浮気なんてするはずがないよな/// 勘違いして悪かった」
フィアナから殺気が消えた。
えっ、いつの間にかこの人の頭の中では私と付き合っていることになっているのか?
まさか、もうとっくに面倒なことになってたのか?
しかし、ラミアとグレイスがここで働いているとは思わなかったな。大丈夫か?
まぁ、2ヶ月共にクエストをこなしてわかったが、グレイスは非常に真面目で優秀だ。
私絡みのこと以外では、私以上に常識人だし……。彼女は大丈夫だろう。
ラミアは……。まぁ、愛嬌があるからな……うん。
武器工場の視察を終えた、フィアナは作戦会議の為に【ガガール基地】の2階にある大会議室へと向かった。
――【ガガール基地】、大会議室――
「知ってのとおり、【魔界貴族】の阿呆共は地上の人間達に喧嘩を売り返り討ちにあった。それも幸運なことに【ベルゼブブ大公】までも討ち取られている。この機が好機でないなら、いつが好機なんだ。今こそ、虐げられてきた我々が団結し力を示す時ではないのか!」
フィアナは基地内の兵士達を集めて演説をした。
こりゃあ、相当気合が入っているな。
「しかし、我が姉であるフィリアは日和った事を言う。我々はひっそりと生きていくべきだと。争いは新たな争いしか産まぬと。力があるのに使わないのは、力に対する冒涜だ。私達にはより広い世界で生きていく権利がある! 無敵のガーディアンと無敵の防衛システム、最強の攻と防がこの国にはある。ガーディアンを国外で使用できれば、現在の【魔界貴族】の領土など容易く手にはいるのだ。お前たちに与える仕事はあのいけ好かないメフィスト=フェレスを捕まえて、【魔集輪】を手に入れることだ!」
フィアナは興奮気味な口調で兵士たちに指示を出した。
「はっ、しかしですね。我々は既に議員共を人質にしております。さすがにフィリア殿やメフィスト殿も見捨てるというマネはしないのではないでしょうか?」
黄色い肌の色の悪魔の兵士が挙手をして、フィアナに話しかけた。
「たわけがっ! メフィストの阿呆はともかく、我が姉はこの国、いや天地魔界最高峰の頭脳の持ち主だぞ。期限まで手をこまねいて何もして来ない訳がない! 必ず、人質を解放するために手を打っているに違いない。既にこの国の中に潜入している可能性もある。それならば、我々が受け身になる道理はないだろ? 奴らが手を打つ前に殺る。【魔集輪】も手に入れる。それだけだ」
フィアナは厳しい表情で叱咤した。
うげっ、さすがにフィリアが何らかの手を打っていることぐらいは予測しているみたいだな。
私も油断しているとすぐに疑われる。気を引き締めなければ……。
【魔集輪】というのが、メフィストが持ち出したという特殊な【指輪】という奴か。
しかし、あの口ぶりだと【指輪】を手に入れた瞬間に戦争をおっ始めるつもりだな。
作戦会議という名の士気向上のための集いは特に具体的な話もなく終わってしまった。
それもそのはず、【魔集輪】がなくては戦闘を外で行うことはほぼ不可能なのだから、今作戦を立てる意味合いがないのだ。
しかし、これから血眼になった兵士たちがメフィストを探そうとするだろう。
フィリア、メフィスト、無事でいてくれ。
――【ガガール基地】、【兵士長室】――
作戦会議を終えて、昼食を取った私とフィアナは兵士長室に戻ってきた。
しかし、先程の演説……、下手したら既にフィアナは私のことも疑っているのかもしれない。
「ルシアール、二人きりだな/// その、こうして二人でいる時間が幸せなんだ。ずっと、このままなら良いのにな///」
フィアナは私のことを見つめて、そんなことを言っている。うーん、とりあえず大丈夫か。
私は、フィアナの仕事中突っ立っているだけというある意味苦行を強制されていた。
フィアナが時々雑談をふってくるが、下手なことは言えないので当たり障りのない返事ばかりしていた。
「なぁ、ルシアール。貴様は遊び人だと報告を受けたが、思ったよりも紳士的な奴だな。もちろん、そういう風に見せるのがお前の手口なのかもしれないが……。こうやって焦らされると私はもう……///」
唐突に、フィアナは立ち上がり私に飛び付いてきた。
いやいや、焦らしてなんてないから。かっ顔が近いから。目ぇ瞑んなくて良いからぁぁぁぁ!
誰か助けてぇぇぇぇ、襲われるぅぅぅぅ!
――コンコン
「フィアナさん、ミランダですわ。開けてくださいまし」
ドアの外から声が聞こえた。
「ちっ」
フィアナは舌打ちをして、椅子に腰掛けた。
たっ助かったぁぁぁぁ。
――ウィィィン
「ごきげんよう、フィアナさん。あら、こちらの殿方は見ない顔ですわね」
黒いローブに身を包んだ女性の天使が部屋の中に入ってきた。
この人も堕天使なのかな?
それにしちゃ、ラミアやこの国の他の天使と違って翼の色が真っ白なのは変だな。
というか、この天使は今、ミランダって名乗ったよな。
ミランダというのはフィリアの親友で共に国を作ったメンバーの一人。そして、裏切りを先導した首謀者にして、リメルトリア兵団の参謀長の名前だ。
フィリアからの話によると、彼女は慎重で疑り深い性格のようだ。
これは、気を付けなくては……。
「ああ、昨日から入ってきた新入りのルシアールだ。なかなか使える男でな。私の護衛にしている」
フィアナは私のことをミランダに紹介した。
「あら、貴女程の方が護衛など必要ですの? ふーん、中々の美形ですわね。フィアナさんが面食いとは、わたくし知りませんでしたわ」
ミランダは私の顔をマジマジと見つめて、そう言った。
「なっ、私が彼を護衛に置いたのはそのような不純な動機は一切ないぞ///」
フィアナは顔を真っ赤にして反論した。
いや、不純な動機しか感じられなかったが。
「冗談ですわ。お気を悪くされないでくださいまし。くすっ、それにしても貴女もそのような表情をされるのですね。良いものが見れましたわ」
ミランダは悪戯っぽく笑った。
「ふっふん。相変わらずだな参謀長。それで、今日は何の用事だ?」
フィアナは不機嫌そうにミランダの用件を聞こうとした。
「ふふっ、そんなに怒らないでくださいまし。共にフィリア様を裏切った者同士。仲間ではありませんか。それとも、後悔されてますの? 大好きなお姉様を裏切られたことを?」
ミランダは飄々とした態度だった。
「ふん、軟弱者のフィリアなどに未練はない。私は用件を言えと言っている」
フィアナはさらに機嫌の悪い口調になった。
「失礼致しましたわ。今週、この国に移住した人間の中にフィリアの息のかかったスパイが紛れていると情報が入りましたの。人数は3人。調査が必要ですわ」
ミランダはチラッと私の顔を見て、フィアナに報告をした。




