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第6話:新しい仕事を頑張った一週間の話

私が誘拐犯から助けた茶髪の女性はダルバート王国の王女エリスだった。

エリスの望みは年に一度、新しい勇者を決める武術大会の【天武会】で優勝するための戦力だった。

私はエリスからの依頼で【勇者候補】たちの指導者となった。


――ダルバート宮殿、鍛錬場――


私は早速、彼女たちの力を見せてもらうことにした。

どうやって見るかというと私を仮想の敵とした、模擬戦だ。


「それじゃあ、私を敵だと思って全力で仕留めてくれ」

私は丸腰で【勇者候補】である3人の前に立ちふさがる。


「はい、よろしくお願いします」

「よっしゃー、頑張るぞー」

「早く終わって寝たい……」

3人は動きやすい服に着替えて戦いの準備をした。


かくして、模擬戦がスタートした。

『でも彼女たち、結構やるのよ……』

私は戦いの中でエリスの言葉の意味を知った。


まずは【魔法使い】のルーシー、驚いたことに彼女は【最上級炎系魔法】を修得していた。

魔法を当てる精度も中々である。

ただ、他の系統の攻撃魔法は初級しか使えなかったのは難点であった。

集中力が乗ってきた時の爆発力は目を見張るものがあるが、スロースターターな所も今後の課題だろう。


次に【神官】のマリア、彼女は大人しそうな印象とは裏腹に度胸と大胆さがあった。

普通は【神官】は後衛でダメージを受けた仲間の回復に専念するのだが、彼女は隙があれば前線に出てきて、攻撃にも参加する。

攻撃と言っても【中級風系魔法】程度だったが……。

マリアは【神官】じゃないほうが良いんじゃないか?


最後に【仙人】のターニャ。

彼女は戦の才能があり、はっきり言って天才の部類だ。

難易度の高い仙術を使いこなして、肉体を強化して戦うのが得意であった。

体術は我流ゆえに読み辛く、常にフェイントを入れて相手を誘導する技術を最高レベルで修得していた。

難点はやる気のイマイチ感じられないことと、諦めの速さである。


一時間ほど戦い続けて、戦力の把握が終わった。

うん、確かに思ったよりも強かった。

でも、このままだと、優勝どころか一回戦負け濃厚だろう。

まぁ、それを何とかするのが私の仕事なわけだが。


よし、じゃあ模擬戦終了だ。

5分休んだら、訓練再開するから……。

あのう、返事が聞こえないんだけど……。


「はぁ、はぁ、もう動けませんー。魔力も空っぽです」

「ふひぃ、先生……なんで、息一つ切らしてないの? ボク……もう……」

「zzzz……」


三人共バテて大の字で倒れてる。

というか、ターニャよ、地べたで寝るな。

若いのに体力無いなあ。


「ルシア様、ちょっと厳しすぎるのではありませんか? このまま訓練を続けると体を壊してしまいますわ」

ラミアは見かねた顔をして私に注意する。


なるほど、ラミアから見ると少々厳しめに見えたか。

助手としてのアドバイスありがとう。

でもなぁ、これに付いてきてもらわないと間に合わないんだ。

うーん……しかし、ラミアの言うとおり、体を壊しては元も子もないか。


【薬師スキル発動】

スタミナの素作成

魔力の源作成


ほら、これを飲むんだ。

苦いとか、言うな。

普段、甘いものばかり食べてるからだぞ。


「凄いです。疲れが吹き飛びました」

「うわー。ナニコレ、元気満タンだよ」

「苦い……目が覚めた……」

3人の体力と魔力が回復した。


「よし、それじゃあ、基礎訓練の前に鍛錬場を100周しよっか。【天武会】じゃアイテムは使用不可だから、体力が無いのは問題だよ」

私はそう言いながら走り始めた。


誰一人として、文句を言わずに付いてきた。

へぇ、体力はまだまだだけど、根性はあるみたいだ。

よしっ、あと95周頑張るぞ。

ラミア……もうバテたのか、情けない。


「先生ぇ、走るのって意味あるのですか?」

マリアは私に話しかけてきた。


「走る意味というか、体力をつける意味なら大アリだ。どんなに強いスキルを覚えても、体力不足で使えなかったら意味が無い。逆に大したスキルを覚えてなくても、体力さえあれば、勝利するチャンスは幾らでもあるからな」

私は体力の重要性を話した。


これは常識中の常識で勇者のパーティーのメンバーは【戦士】だろうが、【魔法使い】だろうが体力だけはある。


勇者に義務付けられていることの一番重要なことは生き残ることなのだから、仲間もタフじゃないとならないのだ。


だから、私が決して体力信者とかそういうことではない。

まぁ、【天武会】に出てくるような連中は当然基礎体力向上の訓練を積んでくるから、そいつらを出し抜くためにはちょっと無茶をしてもらうけど。


「100周やっと終わりましたー」

「きっついなあ。ボクの足、パンパンだよ」

「……喉乾いた」

3人は全員100周をクリアした。

1人か2人は脱落すると思ったんだけど。

エリスが後一人を見つけたいという気持ちと、私に指導を頼んだ理由がよくわかった。


「それじゃ、次からは訓練前に100周走っといてね。さあ基礎訓練を始めよう」

私は早く訓練をして、鍛えたいという衝動が抑えられなかった。

なんだ、ラミア、私が鬼だって?

馬鹿なことを言うな、体力回復はさせてるし、優しすぎるくらいだ。


基礎訓練は一人ひとり個別に戦い方を教える。


「マリア、回復魔法を使う瞬間スキだらけだぞ。もっと、早く。そして、周りを警戒するんだ」


「ルーシー、すぐに大技を使うな。使うのは相手の体力をなるべく消耗させてからだ。初級魔法をもっと上手に使えるようになれ」


「ターニャ、読み合いに自信があるのはいいが、予想外の攻撃がくるとまるで対処できてないぞ。時には、小さなダメージを無視して突っ込むくらいの気合を見せろ」


私は【魔法使い】、【神官】、【仙人】のスキルを実演しながら戦闘での心構えを教えた。


3人は本当に飲み込みが早く、1週間の訓練で飛躍的に成長した。

【天武会】の1回戦まであと10日、問題はあと一つだ。


「最後の一人でしょ、もちろん探してるわよ。最近兵士たちの警戒が強くて、あたしは外に出られてないけど……。中々居ないのよねー。この国の強い人は勇者兄弟のパーティーの一員だったし」

エリスは頭を抱えてそう言った。


「ですが、明後日の対戦相手を決める抽選会までには4人パーティーでエントリーしなくてはなりませんよ」

私はエリスを急かした。


「わかってるわよ! うーん、仕方ないわね。時間が無いのは確かだから、最後の手段しか無いわね」

エリスには何か考えがあるみたいだ。


なんだ、心当たりはあったんじゃないか。

まあ、確かにあの3人程の素材は中々見つからないのはわかる。

でも、時間が無いから人数合わせのそこそこの戦力でいいんだ。

私だって現状は理解している、どんな人が4人目でも文句は言わないさ。


「じゃあ、4人目はあたしね。明日から訓練に出るから」

エリスは恐ろしいことを口走った。


「駄目です。エリス様は、馬鹿なのですか?」

私は思わず暴言を吐いた。


「あんた、さっき文句言わないって言ったじゃない」

エリスは屁理屈を言った。


「確かにルシア様は、仰ってましたの。エリス様が出たいならよろしいんじゃありませんか?」

ラミアは無神経なことを言う。


エリス様もラミアもわかってないようだが、【天武会】は危険なんだ。

そもそも、勇者になりたいが神に選ばれなかった者たちが一番を目指して戦う大会だから、試合と言っても全員が殺気立っている。


相手を死なせればその国が失格になるルールだが、それでも勢い余って死人が出ることも少なくない。

私は断固として反対した。

優勝できないならまだしも、一国の王女に何かあれば当然指導者たる私の責任が問われるに決まっている。


「それでも、あたしは出るわ。もう決めたの。国民の安全が守れなくって何が王族よ、何が王女よ。お願い、絶対にあの子たちの足は引っ張らないわ。どんな特訓にも耐えてみせるから」

エリスは真剣な顔で懇願した。


「ルシア様、エリス様は本気ですわ。簡単には諦めそうにありませんの」

ラミアは無責任なことを言う。

でも、本当に簡単には諦めなさそうだ……。

よし、いいことを考えた。


「わかりました。それじゃ、1日、【勇者候補生】たちの訓練に混じってください。最後まで付いてこれたら参加を認めましょう。ただし、今、彼女たちは【回復アイテムは無し】で訓練を最後までこなしています。エリス様も同じ扱いで訓練をしてもらいます」

私はエリスに無理難題を出した。


「いいわよ。じゃあ、今日の訓練よろしく」

エリスはあっさりと了承した。


訓練が始まった、3人はエリスの参加に驚いていた。


「それじゃ、最初に鍛錬場200周ね」

私は指示を出して、エリスを観察した。

さて、何周で音を上げるか……。

……意外と走れるなあ。

…………あれっ?

……………………まさか。


なんと最初に200周を終えたのはエリスだった。

あの王女様、体力すげぇな。

そりゃ、城の兵士から毎回逃げ切れるわな。


次は私との模擬戦だ。

王女様は剣士なのか、まぁ性格的には合っているな。

うぉっ、木刀で地面が抉れた。

剣術の練度はかなり高いみたいだな。

いかんいかん、普通に褒めてしまった。


即興のパーティーなのに、味方に指示を出してる。

ふむ、確かに3人は個々の力もコンビネーションも悪くなかったが、司令塔のような人物が居なかった。

生まれながらに人の上に立っている人間の才能なのか、的確に仲間を動かしてるな。


あーあ、訓練が終わってしまう。

えっ、合否はどうなのかって?

合格に決まってるよ、悔しいな。


「エリス様、凄かったですね」

ラミアは私に話しかけた。


「そうだな、まんまとやられたよ。後で聞いたら陰で私の訓練を見て、走って体力をさらにつけようと色々努力してたんだってさ」

私はラミアにエリスのことを話した。


王女という立場なのに無茶をする。

でも、私はエリスに素直に好感をもってしまった。

そして、何としても彼女たちを優勝させたいと思った。


そして、いよいよ【天武会】のエントリー受付と抽選会が始まった。








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