第55話:リメルトリア兵士として【ガガール基地】に潜入する話
【リメルトリア共和国】に到着した私達はフィリアとメフィストの隠し部屋に向かった。
そこでフィリアから私にだけ与えられた仕事は【ガガール基地】に潜入任務である。
――翌日、【リメルトリア共和国】、【ガガール基地前】――
「はぁ、またこんな格好をするとは思わなかったなぁ」
私は今、男装をしている。
【ベルゼブブ大公】との戦いの様子は、結構な人数が見ているらしく、私の顔も割れているとの懸念があったからだ。
そして、私は首にカードをぶら下げている。
私の顔のリアルな似顔絵(写真というらしい)が付いていて、【リメルトリア兵団員№253:ルシアール=ダルメシアン】と書かれている。
私の身分証というやつらしい。
いろいろと細かいセリフ回しを覚えさせられて、日常生活に支障のないようにちょっとした訓練をした。
私に与えられた日数は3日……。
明々後日のこの時間にはあの黒い箱にこの赤い棒を突っ込まねばならない。
因みにラミアとグレイスも別のミッションを与えられるらしい。
「ん、誰だお前は見かけない顔だな」
銅装飾銃を構えた金髪のガッシリとした体型の男性の天使が基地の入口で私に話しかけた。
「はっ、本日よりこちらの基地の勤務になりました。新人のルシアール=ダルメシアンです。こちらが私のIDカードです」
私はグレイスのように背筋を伸ばして、敬礼し、首にぶら下げているカードを天使に見せた。
「新人? ああ、そういえばそんな連絡が来たって、兵士長殿が言っていたな。IDも問題ないな。よしっ通れっ! 兵士長の部屋は突き当りを左に曲がったところだ! 失礼のないようにな」
天使はカードをよくわからないカラクリにかざしながら、そう言った。
ふぅ、良かった。怪しまれてないな。
「待て!」
私が天使の横を通り過ぎる寸前に私は呼び止められた。
えっ、何かまずいことしたかな?
私は背中の汗がすごいことになっていた。
「ぷっお前、剣なんて時代遅れなもんを使ってんの? 支給されるこっちを使いなよ」
天使は銅装飾銃を見せながら、私が腰に身に着けている【エリスの剣】を指さした。
これは、エリスが【勇者】になったお祝いにくれたものだからなぁ。愛着があるし……。
「えっ、まぁ気に入ってますから……。はははっ」
私は笑って誤魔化した。
「ふーん、剣に愛着があるなんて兵士長と同じで変わり者だなぁ。まっ、オレたちなんて訳ありばっかりだからな。別に好きにすりゃいいけど。お前、新人ということはこの国に来て日が浅いんだろ? 慣れるまで大変だろうが、頑張んなよ」
天使はそう言って、私のケツを叩いた。
くっ、この天使も悪い奴じゃないんだろうけど、ケツは止めてくれ。
私は、言われるがままに通路を進んで兵士長室に進んだ。
ええーっと、これが自動ドアとかいうやつなんだっけ?
ノックしていいんだよな?
――コンコン
「新入りだな? 入れ」
中から女の人の声が聞こえた。
――ウィィィン
ドアが開くと、中にはフィリアと同じ銀髪のボブヘアカットのエルフが座っていた。
もっとも、こちらは身長は私やグレイス程ではないがスラリと高く、目つきが鋭い感じだったが……。
この人がフィリア曰く裏切り者の1人、【フィアナ=ノーティス】か。
フィリアの妹らしい……。
「本日より、こちらでお世話になります。ルシアール=ダルメシアンです。よろしくお願いします」
私は背筋を伸ばして、挨拶をした。
「すまなかったな、ゴタゴタがあったから新入りの処遇を決める手配が遅れたようだ。ほう、その佇まい中々腕が立つと見た。お前の経歴も見させてもらったぞ。ルシアール=ダルメシアン。27歳、独身。職業、剣士。アレクトロン王国、ダルバート王国を相次いで追放される。追放の理由は女性関係にルーズ過ぎるから。4股、5股は当たり前で、王家だろうが、貴族だろうがお構いなしに手を出した挙げ句、全てがバレて追放される……」
フィアナは書類を声に出して読んだ。
フィリアの奴は私の経歴になんてことを書き込んだんだ。
これでは、まるで私がヤリ○ンじゃないか。
「フッ、中々好き勝手に生きてきたようだな。だがな、ここでは規律と節度を守ってもらうぞ。これから大きな戦いになる。貴様も大事な戦力になれるように精進せよ」
フィアナは私を蔑むような視線で睨んだ。
まぁ、女性だったらその態度は当然だよな……。
「はっ、生まれ変わったつもりで頑張ります!」
私はフィアナの目を見て、当たり障りのない返事をした。
「……なっ///」
「きっ貴様! 私にも色目を使うとはいい度胸じゃないか!」
フィアナは急に怒りだして剣を抜いた。
ええーっ、なんで私は怒られてるの?
――ズバッ
そして、フィアナは容赦なく私に剣を振るった。
結構、速いぞ……。
――ガキンッ、ギンッ
私は咄嗟に剣を抜いて、フィアナの剣を弾き飛ばしてしまった。
いっイカンイカン……、つい本気を出してしまった。
「だっ大丈夫ですか。怪我はありませんか?」
私はフィアナに怪我がないか確認した。
「くっ/// きっ貴様、かなり強いな。加減したとはいえ、私の剣を弾き飛ばしたのは貴様が初めてだ……///」
フィアナは顔を真っ赤にしてそう言った。
まっまずい、かなり怒らせてしまったみたいだ……。
「すっすみません。今のは本当に偶然でして……。ほっ本当にごめんなさい」
私はもう必死でフィアナに顔を近づけて謝った。
「ひっ/// かっ顔を近づけるのを止めろ/// 私の胸をキュンキュンさせることは許さんぞ! もうわかったから、後のことはメルヴィンに任せる。頼むからこの部屋から出ていってくれ/// はぁはぁ……」
フィアナは顔をさらに赤くして、息を切らせながら命令した。
――ウィィィン
「へっ兵士長殿、お呼びでしょうか?」
自動ドアが開き、身長の低い髭の生えた屈強そうな男が入ってきた。
ホビット族か、久しぶりに見たな。鍛冶屋をやっているときは、よく装飾技術の腕を競ったものだ。
「はぁ、はぁ、メルヴィン。こいつは新入りだ。兵士用の宿舎に案内してやれ」
フィアナはホビットの兵士にそう命じた。
「承知しました。おーい、新入り。ついてきなー」
メルヴィンに言われるがままに、私は付いていった。
「おい、貴様!」
フィアナが私を呼び止めた。
なっなんだろう。バレてしまったか?
私は恐る恐る、振り向いた。
「なっなんでもない/// そのっ、怪我などしないように気を付けろよ///」
フィアナは伏し目がちにボソボソとした声で話した。
はっはぁ、気を付けます。
私は一礼して、メルヴィンと共に部屋を出た。
「オメー、あの鬼の兵士長に何をしたんだ? あんな乙女チックな表情見たことないぞぉ」
メルヴィンは歩きながら、私にそう話しかけた。
「へっ、なんにもしてませんよ。フィアナ兵士長は怖い方なんですか?」
私は手を横に振って、否定した。
「怖いのなんのって。あのフィリア様までも追い出しちまう程だからなぁ。最近は特にピリピリしてんだ。戦争を起こす準備をするってな。オメーもとんでもねぇ時にここに来たな。おっとオラがこんな事言ってたって秘密にしといてくれよ」
メルヴィンは人差し指を口に持っていって、口止めしてきた。
ふむ、兵士全員がフィリアを追い出したことに納得しているわけではないのか。
「もちろん、内緒にしますよ。メルヴィンさん、あの部屋は何ですか?」
私は今回の目的の部屋を指さした。
「んー、あれかぁ。ありゃあ、中央コントロールルームだ。ここの設備はぜーんぶ、あそこで管理されてんだ」
メルヴィンは人懐っこい顔をニコニコさせながら私に説明してくれた。
「ふーん。だからあんなに警戒厳重なんですね」
私は興味があまりないフリをした。
見たところ、兵士が常に2人は入口前に居るみたいだ。
私はメルヴィンに連れられて、小さな部屋に入った。
こっこれは、フィリアから聞いたエレベーターというやつか。
自動で上下の階層に行くことができるカラクリか。
――ビィィィィン
おっ凄い凄い、ドンドン上がっていくな。
私は少し感動した。
――ウィィィン
5階に着いたらしく、ドアが開いた。
「主に4〜7階が兵士達の宿舎になっている。オメーの部屋はオラの隣だ。この513号室がオメーの部屋だ。ほれ、ここにオメーのカードをかざせば部屋の扉が開くようになってから。明日から仕事開始するからさ、今日はゆっくりしてろ。なっ。わかんねぇことがあったら何でもオラに聞いてくれ」
メルヴィンは親切に部屋の説明をして、自分の部屋に入っていった。
ふぅ、せっかくだし少し落ち着くか。作戦も考えなきゃならないし……。
私の【リメルトリア兵】としての短い生活が始まった。




