第54話:【リメルトリア共和国】に到着した話
エリスの許可を得て【リメルトリア共和国】の救出に向かった私達はフィリアが作った乗り物、【ウィンディアン】に乗り込んだ。
【ウィンディアン】は無茶苦茶な動きをしながら【リメルトリア共和国】に着陸した。
「さぁ、着いたぜ。ここがオレたちの国、【リメルトリア共和国】だ!」
メフィストは私達に自分の国を紹介した。
文明が進んでいるとは聞いていたが、ここまで違うとは……。
【ウィンディアン】の窓から見える光景に私は絶句していた。
まず、建物が高い。そこら中の建物が数十メートル程の高さがある。
光沢のある材質で見るからに頑丈そうである。
所々に明かりを発する様々な形のオブジェが置いてあり、常に夜のように暗い【魔界】は真昼のように明るかった。
地面もきれいでツルツルしている。黒い光沢があり、こちらも如何にも硬そうに見えた。
そこを、歩いている住民たちは本当に種族がバラバラで悪魔と天使が仲良く一緒にいたりしていた。
あれっ、住民は人質状態なのでは?
「ああ、本当に人質になっているのは【リメルトリア共和国】の議員達だけよ。ただ、一般の国民も国外に出ることは禁じられているし、ほらご覧なさい所々に武器を持った兵士たちが監視をしているでしょ」
フィリアが現状を説明した。
なるほど、フィリアの武器とよく似た物を持っている兵士たちが何人かいるな。
何回か光の弾丸が撃ち出された様子を見たが、かなりの速度だったので使われると面倒そうだった。
「兵士たちが、帯同している銅装飾銃は、中々の威力だぜ。下級悪魔程度なら一撃で絶命しちまうくらいだからな」
メフィストが兵士の武器について説明をする。
ふーん、武器の威力が使用者の力に依存しないのか。
誰でもコンスタントに同じ威力が出せるのは兵士が持つ武器としては最適かも。
「フィリア殿、我々は監視のど真ん中に陣取っていますが、ここからどうしますか? このまま通行人を避けながら進まれるつもりなのですか?」
グレイスがフィリアに話しかけた。
「それは流石に無理があるわ。【ウィンディアン】はしばらく上空の安全地帯に待機させるつもりよ。実はあと50秒後にこの辺りは真っ暗になるの。その瞬間にここから出ていって、あの建物の裏側に移動しましょう」
フィリアが透明の板を触りながらそう言った。
暗くなるって、どういうこと?
――プツンッ
突如、周りで爛々と輝いていた光が一斉に消えた。
周りは暗くなり、何も見えなくなった。フィリアの言った通りだ。
「早く! 急がないと、すぐに復旧するわ」
フィリアの声に私達は急いで【ウィンディアン】から降りて、建物の裏側に向かって走った。
――カッ
私達が建物の裏側に身を隠してすぐに、明かりが再び点灯した。
なんだったんだ、一体?
「姐さんのあの透明の板はこの国のあらゆるカラクリと繋がってんだ。遠隔操作でちっとの間だけ明かりを消すなんてお手のものってことよ」
メフィストが私の疑問に答える。
つまり、フィリアが作ったものなら遠くから操れるということか……。
だったら、その【ガーディアン】とかもそれで何とかすればいいじゃないか。
「それは無理。【ガーディアン】と【自動迎撃システム】はそう簡単には操作出来ないようになってるの」
フィリアが今度は私の疑問に答えた。
ふーん、よくわからんがまぁいいや。
「さっ、この地下への階段へ早く入っちまってくれ」
メフィストはいつの間にか地面に出来たドアを開いて、私達を誘導した。
次から次へと忙しいところだな。
私達は言われるがままに、階段を下っていった。
「薄暗くて怖いですわぁ」
ラミアが私の右腕にしがみついてきた。
また、お前はどさくさ紛れに……。はぁ、足元に注意しろよ。
「長い階段ですね。かなり深い……」
グレイスは常に剣を抜けるように警戒しながら歩いていた。
「もうすぐ着くぜ。すまねぇな、面倒ばかりかけさせちまってよ」
メフィストは謝罪した。
大丈夫だ、乗り掛かった船だから最後まで付き合うさ。
「着いたわ、あたし達の最後の砦にね」
フィリアは階段を下りて、しばらく歩いた先の行き止まりでそう言った。
「行き止まりですわ」
「行き止まりですね」
「まっ、何かあるんだろ」
私もいい加減慣れてきた。
「ご明察よ。少し待ってて」
フィリアは透明の板を再び触りだした。
――ウィィィン
行き止まりと思っていた壁が突然スライドして動き出した。
ああ、隠し扉的なやつね。
本当にこの人はいろいろ作ったんだなぁ。
「これで、ちっとだけ落ち着けるぜ。ルシア姐さん達も仕事終わりにすぐ出発だったから疲れたろ」
メフィストは私達を中に誘導した。
中は真っ白な壁に囲まれた部屋で、テーブルや二段ベッドが設置してあった。
なるほど、隠し部屋で休憩できるようにしていたのか。ここを拠点として救出作戦を実行するのだな。
「コーヒーと紅茶どちらがお好みかしら?」
フィリアが私達に質問をした。
「私はコーヒーで」
「わたくしもルシア様と同じがいいですわ」
「むっ、それでは私も先輩と同じものを」
私達はリクエストを伝える。
「メフィスト、あたしは紅茶で」
フィリアはメフィストに命じて飲み物を持ってこさせようとした。
「へいへい、ちっと待ってな」
メフィストは素直に応じて、カップを5つ持って虎の形をしたオブジェの前に立った。
へぇ、良くできた人形だな。本物みたい。
――ポチッ、ジャァァァァ
メフィストが虎の顔の額にあるボタンを押すと虎の口からコーヒーが出てきた。
いや凄いけど、なんで虎なの?
「飲みながら聞いてちょうだい。明日、ルシアさんには【リメルトリア】の軍事施設である【ガガール基地】に潜入してもらいたいの。貴女達の身分証を偽造しておいたから、潜入は簡単に出来るわ」
フィリアはそこまで言うと、私に何枚か書類を手渡した。
「それは【ガガール基地】の地図よ。そして、4枚目に載っている絵を見てほしいんだけど……」
フィリアは私に4枚目の紙を見るように促した。
「あー、随分とキレイに描かれていますね。まるで本物みたい。でも、なんですかこの黒っぽい箱は?」
私はフィリアに質問した。
「それは、この国の軍事的なカラクリ全てに影響を及ぼしている核みたいなものよ。その紙に書かれている図のように、箱を開けてもらって、コレを挿入して来てほしいの。もちろん誰にも見つからないようにね。どんな手段を使っても構わないから」
フィリアは私に赤くて小さな棒状のものを手渡した。
「はぁ、まあやってみますけど。姿を消せるバリアみたいなものが張れるならそれを使えば早いんじゃ……」
私はフィリアに疑問に感じたことを話した。
「もちろん、それが出来れば楽なんだけど。【ウィンディアン】のボディーの特殊金属とエネルギー効率が織り成す魔力係数の関係で……」
とにかく無理っぽいらしい。
というわけで、私が【リメルトリア共和国】に来て最初にする仕事は【ガガール基地】への潜入任務となった。




