第49話:【魔界貴族】との死闘が終わってその後の話
第49話
第1部隊、第2部隊を壊滅させた【ベルゼブブ大公】と私は戦い、勝利した。
この瞬間、【魔界貴族】との死闘が終わったのである。
「圧巻だったな、ちょっと寒気がしたぞあの強さには……」
レオンは目を見開いて私を見ていた。
「ええ、でも見た目ほど二人の力に差があったわけじゃあないわねぇ。最初の一撃……、あれを受けてから明らかにベルゼブブは動揺していたわ……。そこから、最後の一撃必殺までの流れは全て計算しつくされていたみたい。上手くスキを突いた勝利ってことよ」
フィーナは戦いを分析した。
フィーナの分析はその通りで、奇襲から一気に消滅魔法で決めるまで私の頭の中に作戦があった。
失敗していたら負けていたかもしれない。
「どちらにしろ、数々の英雄を討ち倒した化物をルシアが単独で倒したことは事実だ……」
レオンは腕を組みながらそう言った。
「そうねぇ、妾達ができることと言えば一つよね。あの化物は三人でギリギリ倒せたことにしておくの」
フィーナは私の目を見ながらそう言った。
へっ、それはまぁ構わないけど……。
「貴女、鈍いわねぇ。あんな化物を一人で倒したなんて皆に知れたら、とんでもないことになるわよ。過ぎた力を持つ者は迫害される……。これは、悲しい真理なの……」
フィーナは真剣に私に説明した。
迫害される……、私が……。ダルバートにも居られなくなるということか……。
「うーん、考え過ぎかもしれないけど、君の力を恐れる者たちが沢山出てくるかもしれない。もちろん、ダルバート王国の仲間たちは君を庇ってくれるだろうが、他国から因縁をつけられる可能性は捨てられない」
レオンは私を心配してくれている様子だった。
「おっお二人は私のことが恐くないのですか?」
私は一番気になっていることを質問した。
「ふっ、義妹のことを恐いと思うわけないだろ。君の人格についてはよーく知っている。この世界に何かしてやろうとか思うはずがない」
レオンは自信満々にそう言った。
義妹はやめてください。
「さっきも言ったけど、妾は人を見る目に関しては自信があるのよぉ。でも、一つアドバイス。今回は緊急事態だったけど、今後はあまり【魔王のスキル】をひけらかさない方が良いわ。あらぬ疑いを掛けられちゃうかもしれないから……」
フィーナは私にアドバイスを送った。
うむ、それもそうだな。自重しよう。
「まぁ、【女神】は今回の戦いを必ず覗き見してるでしょうから意味のない警戒かもしれないけど……」
フィーナはさらに付け足した。
あー、【女神】にも気をつけなきゃなぁ。
「るっルシア様ぁぁぁ。ぷはぁ……」
ラミアが砂の中から出てきた。
お前、そんな所で何してんだ?
「そんなぁ、ひどいです。バリアの上に沢山の砂が覆い被さって埋められちゃったのですわ」
ラミアは砂を払いながら訴えた。
あーっ、ラミアには消滅魔法を使う為に近くに居てもらったんだった。
まさかバリアを覆い被すほど砂が舞い上がるのは予想外だったよ。すまん。
「ええーっと、ではですね。この前、ティアナさんやロザリアさんにされたようにハグをしてくれたら許して差し上げますわ」
ラミアはどさくさ紛れに唇に指を当てながら変な要求をしてきた。
はぁ、なんでそんなこと……。でもまぁ、お前が近くに居てくれたおかげで勝てたのも事実だし……。
仕方ないなぁ……。
――ギュッ
「ありがとうな、お前には……、そのぉ、感謝しているよ……」
私はラミアを抱きしめて呟いた。
「るっルシア様……。ラミアは幸せ過ぎてどうかなってしまいそうですの……。ぐすん」
ラミアは私の胸に顔を埋めながら泣きそうになっていた。
はぁ、大げさな奴だし、相変わらず泣き虫だなぁ。ほらっ、これで終わりだ。
「ちょっと短すぎますのぉぉぉ。もう少しだけーお願いしますのぉぉぉ」
ラミアは不満を言った。
「おいっ、ルシア。貴様、グレイスというものがありながら浮気とはいい度胸だな」
レオンは私に詰め寄った。
いや、色々とおかしいって……。
弁解するのすら変じゃないか……。
「へぇ、貴女ってそっち系だったの? 確かに見た目が良いから、選びたい放題できるわねぇ」
フィーナは頷きながら声をかけてきた。
いや、そっち系ってよくわかんないけど違うから。
誤解ですって……。
「わたくし達の愛は永遠ですの。ねぇ、ルシア様ぁ」
ラミアは私の腕にしがみついてきた。
お前は、いい加減にしろ!
こうして、私達が話している間にエリス様達や、他国のパーティーの生き残り達が続々とやってきた。
みんなは勝利を喜び、お互いを称えあった。
しかし、犠牲者が多かったことも事実である。
英霊達が眠るこの丘に記念碑が作られたのは、そう先のことではなかった。
そのような背景もあることから、特に祝勝会というムードもなく、事務的な手続きの後、私達は解散となった。
「うぉぉぉぉ! グレイスぅ、必ず毎日手紙を送るんだぞ! ぐすん」
レオンはダルバートに共に向かう、グレイスに涙ながらに話しかけた。
この人、本当に悲しそうだな。
「はいはい、わかりましたから。離れてください」
グレイスは顔を背けて冷淡な態度をとった。
「それじゃあ、帰るわよ。忘れ物はない? レオンさん、フィーナさん、ご達者で……」
エリスはダルバート王国を代表して、二人の【大勇者】に頭を下げた。
レオンさん、フィーナさん、色々と勉強させて頂きました。そして、私へのお気遣い……、感謝の念に堪えません……。
私も二人に大きく頭を下げた。
「君の行く末を楽しみにしてるよ。グレイスを泣かしたら承知しないからな!」
「困ったら、いつでもジプティア王国に来なさい。悩みは解決できないかもしれないけど、美味しいシチューぐらいはご馳走してあげるわよ」
レオンとフィーナは微笑みながら私達を見送った。
やはり、英雄と呼ばれる【勇者】達は強さだけじゃない。
私も精神をもっと磨かねばならないな。
ボルメルン王国の計らいで手配してくれた、ダルバート王国行きの馬車に乗り、我々は帰路につく。
「【天武会】が終わって、最初の仕事がこれってハード過ぎたよぉ」
ルーシーは疲れ切った顔をしていた。
確かに最初のクエストにしちゃあハードだったよね。よく生き残ってくれた。
「体が石になった時の絶望感が、本当にトラウマです。お化粧のノリがせめてもう少し良いときだったらと思いましたから」
マリアは髪型を直しながらそう言った。
えーと、そういう問題か?
意外と度胸があるのか、なにも考えてないだけなのか……。
「……zzzz」
ターニャは早くも眠りについていた。
うん、君はそういう子だよね。頼りになるんだけど……。
「あーっ、そうそう。ルシアにお父様が勲章を渡すって話。結構長く放置していたから、明日授与式をやりましょう。今回の件の功績も含めたら2個渡すことになるかも」
エリスは思い出したかのように言った。
勲章かぁ、そんなものを貰える身分になるとは思わなかったな。
「ルシア様ぁ、ボーッとしておられますけど、何を考えてましたの?」
ラミアは私の肩を揺らした。いや、大したことは考えてないだけどさ……。
「いやあ、アップルパイを作ってもらう約束をお前としてたからさ、戻ったら食べたいなぁって……」
私は頭に浮かんだことを話した。
甘いものが食べたい、それしか考えられなくなっていた。
「あっアップルパイですの? はい、ルシア様が仰られるなら幾らでもお作り致しますわ」
ラミアが笑顔で答えた。やった、私には勲章よりも甘いアップルパイの方が嬉しいかも……。
エリス様には内緒だが……。
「それでは、不肖ながら私もラミアさんを手伝わさせて頂きます! さあ、着いたら材料を買い込みにいきましょう!」
グレイスが気合の入った声でそう言った。
いや、程度って大事だからね。大量にっていうのはやめてくれよ。
こうして、私達はダルバート王国に戻った。
エリスが言ったとおり、翌日に私はダルバート国王から勲章を2つ頂いた。
それから3日後、【女神】からの通達によりターニャに新たなる【加護の力】が渡されることが決まった。
2個目の【加護の力】を受け取るのにかかった日数としては最速とのことだった。
レオンやフィーナ、そしてアレックスも今回の功績で新たな【加護の力】を貰えることとなったらしい。
当然、私は除外されていた。
「もう、【女神】様も器が小さいですわ。どう考えてもルシア様の功績が一番大きいのに!」
ラミアは憤慨していた。
「いや、くれるわけ無いから。むしろ、渡すって言われたら罠を疑うところだったよ。まぁ、ターニャが貰えるだけでも私としては満足だな。ダルバート王国が差別されるかもって懸念もあったしね」
私は本心からそう言った。
まぁ、十分すぎる力は手に入ったんだし、【女神】がこちらに何かするとかよりはよっぽどマシだ。
「むぅぅ、ルシア様がそう仰られるなら良いですけど……」
ラミアは納得いかない顔をしていたが、言葉を飲み込んだ。
「まあ、アレだ。【加護の力】はお前のだけで私には十分だよ……」
私はラミアに宥めるためにそう言った。
「るっルシア様ぁ、わたくしはその言葉で胸が締め付けられ、ああっ立ちくらみが……」
ラミアはフラフラとしながら、倒れそうになった。
おいおい、本当に倒れそうじゃないか……。
私は慌てて右手を伸ばして、ラミアを支えた。
「あっ、ありがとうございますですの……。ルシア様……」
ラミアは私の顔をじっと見た。
なんだ、人の顔をマジマジと……。
――チュッ
ラミアは一瞬のスキをついて、私の唇にキスをした……。
なっなっなっ、何をやってるんだー!
はぁ? 信じられないんだが……。
わっ私の初めてなんだぞ!
20数年生きてきて、ずっと守ってきたのにぃぃぃ!
このアホ堕天使がぁぁぁぁぁぁ!
「えへっ、ご馳走さまですの」
ラミアは悪びれもしなかった。
バーカ、バーカ、お前なんかもう知らない!
こうして、私は大事なものをアホ堕天使に奪われてしまった。
思ったより、嫌な気持ちにならなかったのは、私の寛大さがなせる業だろう。
それに、これから起こることと比べるとこれは小さな出来事だと思う……。
第二章、【魔界貴族編】 完




