第41話:【バラム公爵】に一騎打ちを挑まれる話
【グレモリー公爵】を倒した私達は【魔界貴族】の要塞の入口まで辿り着いた。
要塞前では【革命の聖戦士】バムワルが100体以上の悪魔を討伐していた。
「ぐはぁ、はぁはぁ……。なんじゃぁぁぁ、ワシの体をやすやすと貫きおって……」
バムワルは膝を付いて、胸の穴からボタボタと血を流した。
そういえば、聞いたことがある。バムワルの体を覆っている闘気は最上級魔法をも弾く程に強靭だと。
耐久力ナンバー1は彼だとも言われていた。
あの黒い光は何なんだ……。
――ビュゥゥゥン
更に続けざまにバムワルを漆黒の光が襲う。
ルシア→バムワル
【神官スキル発動】
初級風系魔法
私は咄嗟に突風をバムワルに向かって放って吹き飛ばし、光がバムワルに当たることを避けた。
「ほほう、頭のキレるやつがいるじゃあないか……。最短であの男を救ったか……。興味深い」
要塞の中から出てきたのは、身体中が赤紫の金属の鎧で覆われている悪魔だった。
背中に大きな剣を背負っている。
書類には載ってないな、しかしバムワルを一蹴した実力から推測すると……。
「ふふ、我が名はバラム! 【魔界貴族】の【バラム公爵】とは我のことよ。そこの女、貴様に興味がある。我と【一騎打ち】に応じるなら、その勇気に免じて残りの者はここを通してやっても構わんぞ」
【バラム公爵】と名乗った男は私を指さしてそう言った。
ここに来て、また【公爵】か。
【一騎打ち】、バムワルの怪我も早く手当てしなくてはならなそうだし……。選択の余地はないか。
「わかった、【一騎打ち】応じよう。レオンさん、フィーナさん、先にバムワルさんを連れて要塞内に行ってください。バムワルさんには治療が必要ですし、時間もありません」
私はレオンとフィーナに先に行くように促した。
相手が素通りさせると言っているなら、この機を逃さない手はない。バムワルが重症なら尚更だ。
ターニャにはもしものときのために残って貰おう。
「しかしだな、やつも【グレモリー公爵】並かそれ以上の強さだ。君だけが戦うというのは……」
レオンは私を心配した。
「大丈夫です、負けませんから! すぐに追いつきますよ!」
私ははっきりと口に出した。
無駄に温存すると、さっきのレオンのようになる。本気で行くぞ。
「ふははは、その自信有り気な姿。ますます気に入った。さあ、早くかかってこい!」
バラムは笑いながら、手招きした。
【召喚士、霊術士スキル同時発動】
炎精霊召喚+霊体憑依=炎精霊憑依
私の髪の色が真っ赤に染まり、身体中から炎が迸る。
『早く、行ってください……』
私は目が虚ろになりながら、レオン達に声をかけた。
しかし、いつもみたいな気だるくて意識が遠のく感じはないぞ。
「貴女には、驚かされてばかりねぇ。頼んだわよぉ」
フィーナはフワリと浮いてバムワルの元に飛んでいった。
「やっぱり、グレイスを嫁に……。それじゃ、ここは任せるよ」
レオンも走り去った。嫁云々は諦めて……。
「ほほう、思い出したぞ。精霊を憑依させる女がバルバトス殿を屠り、ベリアル殿に手傷を負わせた話を。貴様がその女だったか……。雑魚が2人ほど残っているようだが、まぁいいだろう」
バラムは私に向かって、右手から漆黒の光を照射した。
【バラム公爵】→ルシア
【上級悪魔スキル発動】
漆黒魔闘閃
――ビュゥゥゥン
光が私を捉えようとする。
【炎精霊憑依体スキル発動】
霊幻鎧・業火
身体全体を炎の壁が覆い尽くし、私は防御した。
――ビシッ
微かに残った黒い光が私の頬を傷つけた。
これは、無防備で受けられないな……。
「やりおるな、我の一撃を受けて無事だった人間は貴様が初めてだ。そして、人間相手にこの剣を抜くのも初めてだよ」
バラムは背中の大剣を抜いて構えた。
【バラム公爵】→ルシア
【上級悪魔スキル発動】
暗黒剣技・獄獣
バラムは私の背丈ぐらいある大剣を木の枝のように素早く振り回し、私の急所を斬りつけようとした。
しかも、あの剣はベリアルのレイピアと同じ怪しい輝きがある。回復封じの呪いも付いてきそうだ。
ルシア→【バラム公爵】
【炎精霊憑依体スキル発動】
霊幻剣・紅焔
剣に炎精霊の力を集中させる。
剣は真っ赤に輝いて、エネルギーが充満した。
――ガキンッ、キンッ、ガキンッッ
文字通りの火花が金属音とともに迸る。
双方の剣技が一撃必殺の威力があるので、先に当てたほうが圧倒的に有利に立てる状況だった。
思った以上に早くて重い……。
まさか、霊幻剣を使ってこれほどまで粘られるとは……。
バルバトスよりは確実に強いな。
【バラム公爵】→ルシア
【上級悪魔スキル発動】
漆黒魔闘閃
バラムは至近距離から、漆黒の光を私に向かって照射した。
まっまずい、霊幻鎧も間に合わない。
私は反射的に体を反らして、光の直撃を避けた。くっ、体のバランスが……。
「フハハハ、いい反応と褒めてやりたいが、致命的だったなそれは!」
バラムは無防備な私の胸に剣を振り下ろした。
くそっ、このまま死ぬよりかは……。
私は精霊憑依を解いた。そして、右手をバラムに向かってかざす。
ルシア→【バラム公爵】
【勇者スキル発動】
初級無属性消滅魔法
私の右手から銀色の光弾が繰り出される、咄嗟に放ったために狙いが定まらなかったが、消滅魔法はバラムの右肩を貫通した。
そして、淡い銀の光がバラムの右肩から大剣までを包み込み消滅させた。
「……」
私は難を逃れてバラムを凝視する。
バラムは自分の腕と剣が突然に消滅して、暫く呆然としていた。
「あがが、貴様ぁぁぁぁ! 我に何をした!」
状況を飲み込んだバラムは動揺したのか、大声をあげた。
「見ての通りさ、私はどんなものでも消せるんだ。もちろん、お前自身もな。試してやろうか?」
私はバラムに右手を向けた。
もちろん、そんなに簡単に使わないが……。
「馬鹿な! 人間にそんな真似が出来るはず……。貴様は何者だ!」
バラムは動揺しているのか声が震えていた。
「私か? 私はルシア=ノーティス。【最強の勇者】になる予定の女だっ!」
私は剣を構えて前傾姿勢をとる。
もう一つだけ、試したい技があったからだ。
「【ノーティス】だとぉっ。きっ貴様、あのバハムティアの子孫か……。くっ、貴様だけはベルゼ様に会わせる訳にはいかん。ここで一騎打ちを挑んで正解だった! 我の全身全霊をかけて、貴様を殺す!」
バラムは残った左腕に黒い闘気を纏わせる。そして、バラムの左腕全体が漆黒の光で輝いた。
あれは触れるだけでお陀仏だな。
ルシア
【忍者、仙人スキル同時発動】
分身の術(2体)+仙舞影歩=夢現影舞
分身で増やした体を緩急をつけた動きで移動させ、無数の残像を出現させることでバラムを翻弄する。
さてと、スキが出来たら……。今度はきちんと魔力の調節をしなくちゃな。
ルシア→【バラム公爵】
【大魔道士、剣士スキル同時発動】
中級炎系魔法+中級雷系魔法+十字切り=真・鳳凰十字斬
真っ白に輝く閃熱を帯びた魔法剣がバラムを十字に切り裂く。
バラムの鎧は砕け散り、黄色い肌が露出して、胸が十字に裂かれた。
「ヒュー、ヒュー……、はぁはぁ……、やってくれたな……、ルシア=ノーティスよ……、貴様と戦えたこと……、誇りに思うぞ……、我の負けだ……」
バラムはそう言い残して、地に付し絶命した。
この男は正々堂々としていたな。悪魔にもこんな奴がいたとは……。
ふぅ、今回は軽い火傷で済んだ。
分身の術は便利だけど2体なら2体分のダメージが残るし、体力の消費も魔力の消費も倍になるからあまり多様できないんだよなぁ。
【天武会】の特訓のときは本当に疲れた……。
「……ルシア先生、終わったのか?」
ターニャとラミアがこちらに歩いてきた。
「ああ、終わったって、痛ったぁぁぁ」
私の体がギシギシと痛みだした。
くそっ、精霊憑依を使った反動が今頃……。
「ルシア様ぁ、大丈夫ですの?」
ラミアが心配そうにこちらを見ている。
うん、大丈夫じゃないかもぉ。
「……少しだけ、休んでいくか?」
ターニャが私にそう提案した。
そっそうしよう。このまま進んでも足手まといだ。
かくして、私達は要塞前で暫しの休憩をすることに決めたのだった。




