第39話:呪いを解くために要塞へと急ぐ話
【魔界貴族】の強力な呪術によって、各国の【勇者】を除いた人間は全員石化してしまった。
みんなを助けるためには術者を殺さなくてはならない。
私達は少数で要塞に潜入する作戦を開始した。
「気になったのですが、他の部隊との連携を無視して、私達だけで要塞に向かっても良いのでしょうか?」
私は今更、不安になってきた。
「ああ、問題ないよ。不測の事態なんてことになったら、各々の部隊で最善と思われる選択をすることに決めていたから。グレイスを一刻も早く助ける以上の選択はない!」
レオンはギラギラと殺気立った目つきで要塞へ歩みを進める。
ふむ、では他の部隊の人達も潜入するという結論を出しているかもしれないな。
「レオン様は、かなり厳しい表情をされてますわね」
ラミアは私に背負われて移動している。しっかりと掴まれとは言ったが顔をすり付けて良いとは言ってないぞ。
「優先順位としては、石化を何とか解除することが間違いなく一番ですよね。この戦力差を一刻も早く埋めなくては、勝機はありませんから……。しかし、まずは術者の特定をしなくてはなりませんよね?」
私は懸念しているのはこの点だ。
このままだと多勢に無勢は確実……。
だから、なるべく早い段階で術者を特定し討伐せねばならない。
「ふふっ、それは妾に任せなさい。術者の魔力の痕跡、つまり【魔痕】の追跡は得意分野なの。もう大体の位置は特定してるわぁ」
フィーナがさらりととんでもないことを言った。
ひゃーっ、この人若作りも凄いけど、魔法関係の知識量や実力も世界一と言われるだけあるなぁ。
「あなた、また失礼なことを考えているでしょ。妾にはお見通しよ」
フィーナが横目で私を見た。
すっすみません……。
要塞を目指して5分が過ぎた、そろそろ【魔界貴族】も追撃にやって来るだろうな。
ああ、やっぱり来たか。
――ズガァァァァァン
突如、地面が爆発をした。
私達は咄嗟にジャンプして難を逃れる。
ふぅ、やはり【幹部】もお出ましか……。
黄色の肌色をした、体中にアクセサリーを着けた半裸の筋肉質の悪魔……。
【グレモリー公爵】という名前らしい。5体の大悪魔と20体くらいの下級悪魔を従えてるな……。
私は手早くラミアにバリアをかける。
「ヘイ! ミーの名前はグレモリー! デューク・グレモリーと呼んでイイゼ。ほほう、レオンにフィーナじゃねーカ。こりゃあ、抜け駆けして一番乗りできて良かったゼェ」
こいつは、パルナコルタで2人【勇者】を殺している……。
かつて戦った2人の【公爵】は強敵だったが、グレモリーはどうかな?
「フィーナさん、レオンさん。あいつは他の幹部よりも戦闘力はかなり上です。一対一の戦闘は避けましょう。固まって、大悪魔と下級悪魔を殲滅して、最後に奴を倒す作戦が良いと思われます」
私はレオンとフィーナに進言した。
「一対一は避ける? 妾がどうしてそんなことしなきゃいけないのよ? 即席パーティーなんて、録に連携が取れないんだから好きに暴れた方がマシよ」
フィーナの言うことも一理ある。
「フィーナさんの言う通りだ。オレの動きに上手くついて回れるのはフレイヤ達ぐらいさ。ルシアの言うことも、もちろんわかる。あいつは強い、オレもフィーナも慢心してるわけじゃないんだ。ただ、急増のチームワークは1+1を時にマイナスにするときがあるからね」
レオンは私の肩を叩いた。
うーん、確かに個人プレーが得意なのは私も一緒だしな。
「わかりました。グレモリーと戦うのは誰にしますか?」
私は先輩達の意見を尊重することにした。
どっちが戦うで揉めなきゃいいけど……。
「そおねぇ……。じゃっ、レオンにお願いしようかしら。妾は術者を見つけるまで出来るだけ力を温存しときたいしぃ」
フィーナはレオンに声をかけた。
「フィーナさんのご指名ならオレがやらない訳にはいくまい。もしもの時は……、ふっルシアよ頼んだぞ」
レオンは私に微笑みかけた。
頼んだぞって、そんな気ない癖に……。この人は負けるなんて一ミリも考えてない。
「【グレモリー公爵】、オレが君の相手をしてやろう」
レオンは剣を構えた。
「知ってるゼェ。【名家の大勇者】ダロォ。ユーはミーを楽しませてくれそうダゼェェェェェ。イエーイ」
グレモリーから黒いオーラが噴出された。
やはり、こいつも相当強いぞ……。
「ターニャ、準備はいいか?」
さあて、私達は大悪魔と下級悪魔を倒しておくか。
「……いいぞ。エリス様達を早く助けよう」
ターニャは相変わらずの口調だったが、今までにない覇気があった。
「じゃっ、頑張んなさい。妾も適当に流しとくから」
フィーナは両手に凄まじい魔力を集中させていた。
流すって感じには見えないけど……。
大悪魔が5体いるが、なるべく早めに片付けよう。
レオンと【グレモリー公爵】の戦いが始まった。
レオン→【グレモリー公爵】
【勇者スキル発動】
光竜一閃
レオンはいきなり大技を繰り出した。
さすがは歴戦の【勇者】、まずは相手の戦力を計るということか。
【グレモリー公爵】
【上級悪魔スキル発動】
闇のダンス
グレモリーはニヤニヤと笑いながら、妙なステップで踊り始めた。
どういう意図かわからないが、嫌な感じだな。
――ズバァァァン
レオンの剣がグレモリーを切り裂いた。
グレモリーは胸から血を吹き出していたが、躍りを続行していた。
――ズバッ、ザシュッ、ズバッ
レオンは圧倒的な剣技でグレモリーを圧倒していく。
「やっぱり、強ええヨォ! 人間の癖にやるナ! そんじゃあ、面白いことをやってやるゼェェェェェ。イエーイ!」
グレモリーの体から出ている血がウネウネと動き出した。
――グシャッ
辺りに飛び散っていたグレモリーの血が刃状に変化して突如猛スピードでレオンの体を貫いた。
「ぐっ、これは、お前の血か? その妙な踊りは……」
レオンは何かを察したみたいだ。
「イエース! ミーのダンスは、ミーのブラッドをフリーダムにムーヴさせるゼェェェ!」
グレモリーは血まみれで狂気に満ちた表情で踊っていた。
――ゾボォォォォッ
無数のグレモリーの血液が刃となり、レオンに襲いかかる。
レオン
【勇者スキル発動】
初級光系魔法
レオンは襲いかかる刃を光系魔法で迎撃する。
なるほど、剣で叩き壊しても血液が残ったら意味がないもんな。
光系魔法で血自体を消し去っている。
初見の技なのに冷静に対処するのは凄いな。
「ハッハッハ、やるジャン。ユーはベリーストロング! ミーのとっておきをプレゼントするゼェェェ」
グレモリーは自分の血液を右手に集めた。
【グレモリー公爵】→レオン
【上級悪魔スキル発動】
魔血無双弾
グレモリーの血の巨大な塊がレオンに向かっていく。
あれは簡単には消し飛ばせないぞ。
レオン→【グレモリー公爵】
【大魔導士スキル発動】
最上級炎系魔法
レオンは剣を地面に突き刺して、両手から最上級魔法を繰り出した。
ありったけの魔力を込めているのか、大きさが凄まじいことになっているな。
ルーシーの5倍くらいの規模だぞあれは……。
――ズドォォォォン
グレモリーの血の塊はレオンの炎系魔法と衝突した。
これなら、血も蒸発してしまうだろう。
「ユーはミーのブラッドをナメてるネェェ。その程度の温度じゃあ、ミーの血は……」
グレモリーはニヤリと笑った。
――ビュゥゥゥン
「蒸発なんて、シナイノサ」
血の塊が炎を突き破ってレオンに向かっていった。
「くっ、厄介な……」
レオンは咄嗟に剣を掴んで、血の塊を受け止めようとした。
――スパン、ズバッ、ズバッ
血の塊はあっさりと真っ二つに割れたと思いきや、2つの刃となりレオンの両肩を切り裂いた。
「ぐわぁ、くそっ。オレとしたことが、安易な防御をしてしまった……。しかもこの傷は……」
レオンは初めて焦りの表情を見せた。
レオン
【勇者スキル発動】
体力大幅回復
しかし、何も起きなかった……。
「プププッ。これはミーの最強の切り札ヨ。さっきから回復をしようとしてるみたいだけど……。ムリムリ、インポッシブルだゼェェェ! ミーの血で受けたキズは暫くの間、絶対に回復しないのダ」
グレモリーは勝ち誇った顔をした。
「じゃあ、トドメと行こうかナ」
グレモリーの血がまたもや、右手に集まった。
【グレモリー公爵】→レオン
【上級悪魔スキル発動】
魔血無双弾
あれは、まずいんじゃないか?
手出しするなと言われたが、そういう訳にはいかないぞ。
助けるにしたってどうすれば……。
【この程度の温度】とか言ってたし、もっと高い熱量のアレなら……。
ルシア→【グレモリー公爵】
【大魔導士スキル発動】
中級炎系魔法+中級雷系魔法=最上級閃熱魔法
私は見様見真似で先程フィーナが見せてくれた最上級魔法を放った。
――ズバァァァァァァン
閃熱のレーザーはグレモリーの血を飲み込み、完全に蒸発させた。
グレモリーは信じられないという表情をしてこちらを見た。




