第38話:【魔界貴族】の魔の手に迫られる話
第三部隊は迫りくる悪魔達を撃退し、進軍を再開した。
そして、最初の目的であるK地点への到達を達成した。
――ボルメルンの北の丘、K地点――
「これで、あたし達の最初の作戦は成功ね。幸先がいいわ」
エリスが私に話しかけた。
「ええ、だといいのですが……」
私は曖昧な返事をした。
「どしたの? 浮かない顔してるじゃない。何か心配事?」
エリスが私の顔を覗き込んだ。
ああ、顔に出てしまっていたか……。
「どうも、敵の動きに違和感が……。私達が包囲網を作成しようというのは敵から見ても明らかなはず。本来なら進軍中にそれを阻止しようとするのがセオリーです」
私はエリスに自分の思ったことを話した。
「ええ、だから幹部が3人もこちらを止めに来たじゃない。他の部隊も似たように攻撃を受けたって報告されてたわ」
エリスはそう答えた。
「それなんですよ。連中は3つの部隊に一度だけしか戦闘を仕掛けていない。もし、包囲網形成を阻止することが目的なら継続的にこちらを攻撃しますよね? ですから違和感を感じたんです。初戦の後、私はさらに大きな援軍が来ると思っていました。しかし、一回の中途半端な攻撃をしただけでこうもあっさり引き下がられると……」
私は次の台詞を言おうとした。
「罠なのか心配かい?」
後ろからレオンの声が聞こえた。
うわっ、いきなり現われないでください。
「はっはい。それも大規模で我々の予想を越えた何かが起こるような気がします」
私はレオンに進言した。
どうも、キナ臭い……。
「ふむ、君は我が妹が師と仰ぐほどの人間だ。わかった、周囲に偵察を出そう。君のところのターニャも有能そうだから借りてもいいかい?」
レオンは私の進言を聞き入れた。
ターニャかぁ、あの子は有能なんだけど嫌な顔しそうだな。
「わかりました、ターニャにレオンさんのところに向かうように伝えます」
私はそう答えて、ターニャのところに歩いた。
「……気が進まない。少し寝ようと思ったのに」
やっぱり……。というか、こんなところで寝ようとするな!
隊長命令なんだから従いなさい。
「……仕方ないな」
ターニャはそう呟いて、レオンのところに向かった。
大丈夫かな……。
私の進言は杞憂だったのか、K地点に到着して30分ほど経ったが何も起こらなかった。
考えすぎだったか……。
「まだ不安そうな顔をされてますね、ルシア先輩。私達が有利なのは間違いないですし、例え罠だとして先輩なら軽く乗り越えられそうですが……」
グレイスが私に声をかけた。
「有利だと思い込んで油断して死にかけたことは何度もあったよ。生存率を上げるために警戒心は常に忘れないほうが良い。まぁ、それでも私は肝心なところで抜けているからピンチになるけどね。ははっ」
私はひねくれ者だ。上手く行き過ぎると素直に喜べない癖がある。
我ながら考え過ぎな上にマイナス思考なのはわかっているが……。
「なるほど、勉強になります! 私の考えが甘かったです」
グレイスは背筋をピンと伸ばして、そう答えた。
この子は私への想いがちょっとアレなところを除くと基本的には真面目だな。
――シュバッ
少し先から、風を切る音が聞こえた。
レオンの命令で偵察に行っていた、ターニャが猛スピードでこちらに近づいてくる。
「……ルシア先生、急いで撤退だ。私たちはあの要塞を包囲したのではない。包囲させられていたんだ。レオンにはもう伝えた、急がないとまずい!」
ターニャは息を切らせて、私に報告した。
この子がこれだけ焦っているとは……。理由を聞いている時間は無いな。
「よし、わかった。撤退す……」
私は撤退の指示をだそうとした。
――ゴゴゴゴゴッ
突然、地面が揺れだした。地震か?
いやっ、あっちに巨大な黒い柱がせり上がって出てきたな。
何だあれは、よく見たら他の部隊のいる場所の外側にも柱が見えるぞ。
――カッ
要塞の方向が突然光りだした。
要塞からどす黒い光が空に照射されている……。
あれは、まさか……、しかしこれほど大規模でそんなこと可能なのか?
逃げろっ、このままじゃ全滅する……。
そして、空から黒い光が丘一面に降り注がれた。
「何よ、この光……、きゃあ、どうなって……」
エリスは光に触れて石化した。
くっ、やはり【呪術の光】だったか。
「ルシア先輩、これはど……」
グレイスも石化してしまった。
くそっ、これは避けきれない……。
んっ、石化しないな……。
「どういうことだ? 光に触れても何ともない……。ルーシーもマリアも石になっているのに……」
私は状況が掴めなかった。
どうやら、光が降ってくるのは止まったみたいだが……。
「ルシア様ぁ」
「……ルシア先生」
ターニャとラミアがこちらに駆け寄った。
おおっ、無事だったか。
「……偵察に出たとき、変な柱のようなものを見つけたんだ。レオンに報告すると、大規模な呪術の為の道具かもしれないと言われた」
ターニャが私に説明をした。
しかし、これほど広範囲に渡って石化の呪いをかけるなんて……。
魔力のケタが違う……。
ルシア→エリス
【神官スキル発動】
呪い浄化魔法
私はエリスに呪い浄化の魔法を使った。
しかし、予想はしていたが効果はなかった。面倒な呪いだな……。
どうすればいいんだ……。
まずは私とターニャ、そしてラミアが助かった理由を考えるか……。
うーん、やっぱり考えられる理由は……。
私はひとつの仮説をたてた。
それは天界の力を手にしたから助かったという考えだ。
つまり、私とターニャは【加護の力】があるしラミアは元【守護天使】。
天界の力の影響で呪いが効きにくい体質になったのかもしれない。
つまり【勇者】だけは無事なのでは……、と考えている。
「ルシア、ターニャ、君たちは無事か……。すまない、オレのミスだ……」
レオンがこちらに走ってきた。
やはり、【勇者】であるレオンは無事か……。
「いいえ、レオンさんのせいではありませんよ。私も違和感があったのにこの惨状を予測出来ませんでした」
それが、一番悔しい……。
私は結局みんなを守れなかった……。
「ぐっグレイスぅ……。どおじでお前までぇぇぇ。ぐすっ」
レオンは石化したグレイスの前で崩れ落ちた。
いの一番に走ってきたと思ったが、グレイスが心配だったからか。
レオンが無事で私の仮説は更に信頼度を増したな。
やっぱり【勇者】だけは無事なのだろう。
ならば、そろそろ……。
「あら、やっぱり貴女たちも無事なのね。どうやら、【勇者】だけは効かない呪術のようねぇ……」
フィーナがこちらに歩いてきた。
うん、フィーナも無事ならその通りだろうな。
「ええ、私もそう思います」
私はフィーナに同調した。
「仲間が石に……」
「フィーナさん、どうすれば……」
「くっ守れなかったわ」
「おおっ、無事な人が居たか」
第三部隊の【勇者】達が集合した。
動ける人数が一気に減った……。
その上、石化を治す手立てもわからない。
「ふーむ、この呪術は中々複雑ねぇ。ジプティアの妾の研究室なら解析して治し方を導くことができるけど……、それよりはもうひとつの方法が手っ取り早いわ」
フィーナが石化した人達を観察しながらそう言った。
もうひとつの方法、なんだそれは?
「方法はシンプルよ。術者を殺せばいいの。簡単でしょ」
フィーナは方法を伝えた。
なるほど、確かにそれはシンプルだな。
「それでは、やはり要塞に潜入せねばなりませんね。しかし、これだけの石像となった仲間達を放置するわけには……」
私は一番気になっていることを言った。
「ええ、そおねぇ。じゃあ貴女、2人選びなさい。妾とそこで泣いてる青二才以外からね。潜入するのは5人も居れば十分よ。残りの【勇者】達には仲間を守らせましょ」
自分とレオンは一人で動いても平気ということか、確かに一騎当千とは彼女らことを言うのだろう。
私に2人選ばせるというのは、私の補助となる人物を選べということだな。
なら、決まっている。
「ターニャとラミアを連れていきます」
私は即答した。
この状況で【消滅魔法】まで使えないのは痛すぎる。
あと、私との連携を考えると教え子のターニャ以上の適任はいない。
「ターニャ? ああ、あのルーキーね。ラミアってあの子? あの子は【勇者】じゃ……。まぁ、いいわ。貴女に一任したのだから口出しはしないわよ」
フィーナは実に冷静だな。伊達に年を取ってないということか……。
「貴女、失礼なこと考えてる暇があったら、あの若造を連れてきなさい」
フィーナは見透かした顔をした。
怖っ、頭の中まで読めるのか……。
術者を殺せばグレイスを治せると聞いた、レオンはすぐに立ち直った。
「術者も何もかもオレが殺してやる! グレイスっ、必ずお兄ちゃんが助けてやるからな!」
レオンは剣を抜いて自らを鼓舞した。
こうして、私とターニャとラミアにレオンとフィーナを加えた5人は【魔界貴族】の要塞へと進んだ。




