第37話:英雄達の活躍を目の当たりにする話
第三部隊の最初のミッションは丘にある、地点Kまで進軍することだ。
私達、新生ダルバート王国は道中で【ビフロン伯爵】と戦闘して勝利した。
「さて、他のパーティーの様子はどうなんだ?」
ビフロンの口振りだと、【魔界貴族】の幹部は一人だけではなさそうだ。
レオンやフィーナが苦戦をしているなら助太刀をしなくては……。
あそこで戦っているのはレオンのパーティーか……。
相手は……、【ザガン男爵】。
青い巨人というような外見だな。そして、素早い……。
私達は自分の持ち場で下級悪魔の相手をしつつ、いつでも助太刀に行けるように、レオン達の様子を伺った。
今、【ザガン男爵】に立ち向かっているのは、先程レオンを引きずって行ったフレイヤだな。
「デカブツ、スピード勝負でウチと張り合うつもりか? それは、無理やで」
フレイヤは槍を真っ直ぐに構えた。
フレイヤ→【ザガン男爵】
【槍使いスキル発動】
流星突き
フレイヤの槍は流星のように瞬き無数の突きでザガンを圧倒した。
とんでもないな……、全てが急所を捉えている。
「ごの程度の攻撃で、オレをごろぜるものがぁ!」
ザガンは激しい槍のラッシュにも耐えているみたいだ……。
「レオン、お膳立てはこのくらいでええやろ?」
フレイヤはレオンに声をかけた。
「十分だよ、フレイヤ。後はオレに任せるんだ……」
レオンは剣を構えた。
当たり前だが、若干前傾姿勢になるのが特徴的なグレイスと同じ構えだな。
レオン→ザガン
【勇者スキル発動】
光竜一閃
――ズバンッ
ザガンは頭から股まで一気に切り落とされ、真っ二つになった。
あれは、光系魔法を使った魔法剣だな。
しかも剣に込められている魔法力が最上級魔法クラスだ……。
レオンは大魔導士も極めているに違いない。
【ザガン男爵】を一方的に倒してしまった、やはりアレクトロン王国最強のパーティーというだけはある。
よく見たら他のパーティーメンバーが大悪魔を3体も倒しているし……。
「ルシア先輩、あちらでフィーナさんのパーティーが戦闘をしているみたいですよ!」
グレイスが私の肩を叩いた。
【魔導教授】のパーティーの戦いか……、確かに見たい……。
この辺りの悪魔はほとんどやっつけたし、フィーナさん側に少しだけ移動するか……。
「お供させていただきます!」
グレイスはキレイな敬礼をした。
はぁ、もっと肩の力抜いていいぞ。
「ルシア様ぁ、ここから出てもよろしいですの?」
ラミアがバリアの中から私に声をかけた。
そうだな、もう出てもいいだろう。私の近くから離れないようにしろよ。
「はいっ、ルシア様!」
ラミアは私の腕にしがみついた。
もう少し離れろ!
私達はフィーナのパーティーに近づいてみた。
予想通り、【魔界貴族】の幹部と戦闘を繰り広げていた。
それにしても、圧巻だな。
フィーナのパーティーは全員が60歳以上という、平均年齢がぶっちぎりで世界一のパーティーだ。
しかも、フィーナ以外は見た目は思いっきりお爺さんなんだよな。
「ふぉっふぉっ、ジジイとワシらのことを侮ることなかれ。ワシらの姫様、フィーナちゃんには指一本触れさせんぞ!」
「おうよ、ワシ達の50年物のチームワークをみせようじゃあないか」
「なんじゃあ、よう聞こえん……」
3人の老人がフィーナの前に並んだ。
まさか、伝説の3人の【ケンロウ】の戦いが見ることができるなんて……。
【賢老】ジューダス、【拳老】ファルロン、【剣老】ギルディの3人は賢者、武闘家、剣士として全員が超一流だ。
相手は……、黒い鎧に傷だらけの真っ白い顔の悪魔……、【アミー子爵】か。
あの剣は2メートルぐらいあるな。振り回されたらかなりの威力だぞ。
「ふっ、老人をいたぶる主義は無いが、せめて一撃で葬ってみせよう!」
アミーはフィーナ目掛けて大剣を振り下ろした。
――ガキンッ
ギルディの細身の剣がアミーの大剣を受け止める。
ギルディはツルツルの頭を輝かせ、枯れ木のような腕にも関わらず、力でアミーにまったくひけをとらなかった。
「何を言っとったか、よぉわからんが、年寄りに優しく攻撃しようとか言うたんかのぉ?」
ギルディは余裕の表情だった。
「ギルディ、避けろよ!」
ジューダスは長い白髪を後ろに結んで両手に魔力を集中した。
ジューダス→【アミー子爵】
【賢者スキル発動】
最上級雷系魔法
強力な雷撃がアミーに直撃した。アミーは苦悶の表情を浮かべる。
「くははっジューダス、ナイスだ。血肉涌き踊るっ!」
ファルロンの筋肉が大きく盛り上がり、老人とは思えないくらいの体格になった。
ファルロン→【アミー子爵】
【武闘家スキル発動】
猛虎衝撃波
ファルロンは跳び上がり、上空から両手で鋭い突きを放った。
拳圧が巨大な衝撃波となり、アミーを吹き飛ばし、アミーは地面にめり込んだ。
しかし、これだけの攻撃を受けてもアミーはよろよろと起き上がろうとする。
「貴方たち、よく頑張ったわねぇ。妾がトドメを刺してあげる……」
フィーナはゆっくりとアミーの目の前に立った。
「信じられん老人たちだ……、せめて【勇者】フィーナと刺し違えて死んでやる!」
アミーは前傾姿勢で剣を構えて突撃した。
フィーナ→【アミー子爵】
【大魔導士スキル発動】
中級炎系魔法+中級雷系魔法=最上級閃熱系魔法
フィーナは右手と左手にそれぞれ別系統の魔法を作り出し、両手を合わせて合体させた。
フィーナの両手から灼熱のレーザービームが繰り出された。
レーザーはとてつもないスピードでアミーを貫いて、上半身を鎧ごと灰にしてしまった……。
これは、以前見た【バルバトス公爵】の魔法に似ているな。
もっとも、仕組みは全然違いそうだが……。
それにしても、国家的英雄クラスの【勇者】のパーティーの戦闘力はやはり別格だ。
「すごかったな、レオンさんも、フィーナさんも……。いい勉強になった」
私はグレイスに話しかけた。
「ルシア先輩も全然負けてませんよ。私はまだ力不足ですが……」
グレイスは私の隣でそう呟いた。ふん、おだてても何も出ないぞ。
「ルシア様、悪魔達が撤退を始めたみたいですわ。初戦はこちら陣営の勝利ですわね」
ラミアが嬉しそうな顔をした。
ふむ、更に援軍を出すと予想したが随分とあっさり引き下がったな。
何か裏が無ければよいが……。
「ルシア、早く持ち場に戻るわよ。K地点までこのスキに早く動いて陣地を確保しなくちゃ」
エリスが私を呼びに来た。
そうだな、敵が背中を見せていて、動かない手はないもんな。
私達は隊列を整えて、再びK地点を目指して動き始めた。
そして、30分後……。
第三部隊は無事にK地点に陣地を形成することに成功した。
しかし、我々に【魔界貴族】の熾烈な魔の手が迫っていることには、まだ誰も気付いていなかった……。




