第30話:【ラミアの力】の正体を突き止める話
【べリアル公爵】と戦い、悪魔達を退けた私は満身創痍で倒れてしまった。
【女神】は動けない私を殺そうとしたが、間一髪のところでジェノスに助けられた。
――???大陸、???の一室――
「うーん、とりあえずジェノスさんを探そうかな」
私はベッドから下りて、立ち上がった。
――コンコン
扉を叩く音がする。
「失礼します」
女性の声が聞こえた。
――ガチャ
「体の調子は如何でしょうか? ルシア様……」
赤紫色の髪をした、妖艶な感じの赤いドレスを着た女性が部屋に食事を持って入ってきた。
「えっえーっと、あなたは一体? ここはどこですか?」
私は少しパニックになって質問をした。
「私はレイラと申します。ジェノス様の忠実な部下といったところでしょうか。ここは、ジェノス様の別荘のようなものですね。ジェノス様がこちらに運ばれて貴女は丸一日、寝ていらっしゃいました。ラミア様は先程まで起きて看病をなさってらしたのですが……」
レイラと名乗る女性は丁寧な物腰で私に接していた。
しかし、身の振り方から察するに、かなりの腕利きのように見えた。
「そう、警戒なさらずに。ジェノス様から丁重に扱いなさいと指示を受けております。1日中何も口にされていないので、空腹かと思いまして、お食事をお持ちしました。お口に合うかわかりませんが、どうぞ召し上がってください」
レイラに勧められて、私は腹ペコということに気が付き、食事に手をつける。
こっこれは……、なんて美味しいんだ。
サラダもスープもパンもお肉も旨すぎる。
「ガツガツ……」
私は一心不乱に食べ始めた。
「クスッ……。っとコホン、失礼しました」
レイラはその様子を見て少し吹き出した。
がっついてすみません。
「あっ、ごめんなさい。あまりに美味しかったものですからつい……」
私は頬を赤らめて、頭を下げた。
みっともない所をジェノスの部下の人に見られちゃった。
「いえいえ、お気になさらずに。そう言って貰えると作った甲斐がありますから」
レイラは微笑みながらそう言った。
そうかな、じゃあ遠慮なく……。
旨いなぁ……。
「お食事が終わりましたら、ジェノス様のお部屋に向かって頂いてもよろしいでしょうか?」
レイラはそう私に尋ねた。
「ええ、構いませんが。私、一人でですか?」
私は寝ているラミアを見た。
「もちろん、ラミア様と御一緒でも構いませんが、お休みの様ですので……」
レイラはラミアを見ながら答えた。
それもそうだな。
ジェノスには何度も助けられてるし、挨拶は早めにしなくては。
「わかりました。それなら今から行きます」
私はレイラに返事をした。
「ありがとうございます。それではご案内しますね」
レイラの案内で私はジェノスの部屋に向かった。
――ジェノスの私室――
「やあ、ルシアちゃん。無事で良かったねぇ。それでさ、ルシアちゃんに話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
ジェノスはニッコリ笑って私を見た。
何のことだろう。
想像もつかないな。
「君の【加護の力】の封印が既に解けかけている……」
ジェノスは真剣な顔になって、私にそう告げた。
「えっ……」
突然の宣告に私は戦慄した。
ラミアが施した封印は、まだ6日くらい猶予があるはずだ。
「君は【天界】でも無茶な戦いをしただろ? 体に掛かっている負担はそりゃあ酷かったよ。普通の人間、いや魔族や悪魔だって耐えられないだろうねぇ」
ジェノスは私が気を失っている間に体を診察でもしたのだろうか?
「確かに、私は【精霊憑依】を使うと疲労感が強くて意識を毎回失います。今回は体に激痛を感じて、少し意識が保ちましたけど……」
私は症状を伝えた。
今回みたいな激痛を伴うことは無かったから確かに面食らったな。
「うん、君は自分の実力以上の力を出そうとした結果、体中に微細な傷を無数に負っていたんだ。あんなこと続けたら再起不能になっちゃうよ。それはまぁ、置いといてねぇ。その無茶のせいで封印術が解けかかっているんだ……」
ジェノスは【加護の力】の封印をどうして知っているのだろう?
しかも、封印が解けかかっているだって?
「早く封印が解けると不都合があるのですか? それと、なんでジェノスさんは私のことを色々と知っているのですか?」
私はわからないことだらけだった。
「ああ、すまないねぇ。僕ぁ、潜在的な能力を見抜くことが得意でさ、身体的なことなら大体のことが見るだけでわかってしまうんだ。君が受け取った【加護の力】は強大な上にかなりのじゃじゃ馬みたいだ。しかも、君は万全ではない体調だろ、そんな時に封印が……」
「うっ、体が熱い……。何だこれ……、頭が痛い……。うわぁぁぁぁっ!!」
ジェノスの話の途中で私の体調は急変した。
全身が燃えるように熱く、頭は針が刺さっているみたいに痛かった。
「ルシアちゃん! やっぱり解けてしまったか……。いいかい、よく聞くんだ。僕も君に付与された【勇者のスキル】まではわからない……。ただ、得体のしれない力を手にした時は、まず【認識】すること! そして、正体が掴めたら何としてでも【抑制】するんだ。それが出来れば、最後は力を【支配】し、【発動】出来る状態に持っていきなさい」
ジェノスのアドバイスを薄れゆく意識の中で私は聞いていた。
【認識】っていったって、ヒントは全ての【勇者】が力を制御出来ないで死んでしまったことぐらいだ。
あとは、【バルバトス公爵】の強力な魔法が消え去ったこと……。
消える……、消滅……、突然の死……、未来が無くなる?
この力の正体はまさか……。
【未来を消滅させる力】なのか?
そして、この熱と痛みは……、魔力の暴走に似ている……。
つまりこの力は恐らく魔法だ。
でも、炎、氷、風、地、雷の属性ではない。
その上、光でも闇でもない……。
回復魔法みたいに属性が【無い】のか?
ということは、【ラミアの力】の正体は…………。
【無属性消滅魔法】
未来を消し去る力と予測する。
制御出来なかったら自分自身の未来を消し去ってしまうのだろう。
仮定だが、正解していると信じて【認識】しよう。
しかし、この力を抑えるのはかなり大変だぞ。
まずは、一点に力を集中した方がいいだろうな。
ただ、今の状態で力が少しでも外に漏れると、そのまま暴走して私の命は無いだろう……。
集中しろっ、そして私の全魔力で【ラミアの力】を包み込んで移動させるんだ。
移動場所はそうだな……、右手がいい。
私は何とか暴走している【力】を私の魔力で抑圧して右手にゆっくりと移動させる。
ぐっ、力が抑えられない……。
いつもなら、これくらい平気なのに……。
無茶をした影響なのか、魔力の流れが悪い……。
もう……駄目だ……。
『ルシア様……。ずっとお慕いしていますわ』
ラミアの声が頭の中に入ってくる。
この【力】はお前の存在証明のようなもの……。
そうだな、【力】はラミア自身だ……。
ちょっと大人しくしていてくれ、私が全部受け入れるから……。
右手に全ての力を集めたとき、私の体の熱と痛みは消えた。
そして、右手の甲が銀色に輝いて黒い2つの翼の紋章が浮かび上がった。
げっ、なんかラミアの翼みたいなのが浮かび上がったんだけど……。
受け入れるってそういう意味じゃないぞっ。
これを見たラミアが異様なテンションになりそうで嫌だなぁ。
後で包帯巻いとこう。
うん、力のオンオフはそこまで難しくないな。
これなら、使いこなせそうだ。
「あれ、ルシアちゃん。もう力の【支配】まで進んじゃったの? セリシアちゃんが嫌がったのもわかるなぁ。普通はあのまま【力】の暴走に耐えきれずに気絶するか、スキルによっては死んじゃうよ。それをこんなスピードで自分の物にするなんてさ……天才というか、鬼才だねぇ」
ジェノスは私が【ラミアの力】を従属させたことを察知したみたいだ。
「まぁ、一応は……。でもジェノスさんのアドバイスが無かったら危なかったかもしれません。体調も良くなかったし、突然だったのでパニクりました」
私は実際、ギリギリだった。
【ラミアの力】の正体も賭けだったし……。
それに……。
「ふふっ、それでも君は賭けに勝った。これで晴れて【勇者】になれた訳だ。おーい、そろそろ入ってきなよ!」
ジェノスは扉の外に声をかけた。
――ガチャッ
「ルシア様ぁぁぁ! ご無事で良かったですわぁぁぁ!!」
扉を開けるなりラミアが私に飛び付いてきた。
まったく、ワンパターンな奴め。
ほら見ろ、お前は【失敗作】なんかじゃなかったろ。
「ところでさ、ラミア。ダルバート王国の勇者兄弟はお前の【加護の力】を受け取ってないよな?」
私は一番気になった点を質問した。
この点があったから私はスキルの正体を掴むのに苦労したのだ。
「えっと、お二人とも食中毒で亡くなられてますよね? わたくしの【力】を渡された【勇者】の方々はその日の内にお亡くなりになられていますから……」
ラミアはキョトンとした顔だった。
いやっ、だってあの時意味深な顔してたじゃん。
「あの時はその……、わたくしのせいで亡くなられた【勇者】の方々を思い出して悲しくなっちゃっただけですわ」
くそっ、その反応さえ見なければもっと確信を持てたのに……。
まあいいけどさぁ。
こうして私は【ラミアの力】である【無属性消滅魔法】を身に付けた。
そして、3日後、世界中の【勇者登録書】に【ルシア=ノーティス】の名が記されたのだった。




