第29話:【ベリアル公爵】と限界以上の力を振り絞って戦った話
【ベリアル公爵】達、【魔界貴族】が【天界】制圧に乗り出した。
【女神】は【アモン侯爵】と【ハルファス伯爵】を倒したが、【ベリアル公爵】にスキを突かれて満身創痍となった。
「それでは、【天界】の統括者の首を頂きましょうか。さようなら、【女神】様……」
ベリアルは【女神】の首をレイピアで狙った。
――ガキンッ
ベリアルのレイピアが【女神】の首元から宙を舞った。
「おやおや、これは予想外ですねぇ」
ベリアルは私の顔を見た。
ルシア
【召喚士、霊術師スキル同時発動】
風精霊憑依
ルシア→【ベリアル公爵】
【風精霊憑依体スキル発動】
霊幻剣・神風
『お前に、【女神】は殺らせない……』
私は虚ろな視線をベリアルに送りながら剣を振った。
「ほう、バルバトスさんを倒したのも頷ける。人間でここまでの強さとは。しかし、私の体に剣や魔法の類は……」
ベリアルは余裕の表情で何か言いかけた。
――グシャッ
ベリアルの胸から血が吹き出す。
ベリアルから余裕の笑みが消え、あり得ないという表情で自分の血を眺めた。
「馬鹿な、私の体はあらゆうる攻撃を受け流すはず……。人間が私の実態を捉えたとでも……」
ベリアルは私を睨みながらそう言った。
『霊幻剣は次元を超越し、生命力に直接ダメージを与える……』
私は意識が朦朧としながら、ベリアルを見据える。
確実に仕留めたと思ったが、浅かったか……。
「しかし、その力にはタイムリミットがあるように見えます。でなければ、バルバトスさん程度を討ち漏らすなんてありえませんから」
ベリアルは冷静さを取り戻し、レイピアを拾った。
ちっ、その通りだ……。
【風精霊憑依体スキル発動】
霊幻波動刃・旋風
私の手から強力な風のエネルギーで出来た刃が無数に繰り出される。
「ほう、素晴らしい威力の技だ。しかし……」
ベリアルは姿を再び消した。
「当たらなくては意味がありませんよ……」
私の背後に現れたベリアルはレイピアで背中を刺そうとする。
【風精霊憑依体スキル発動】
霊幻鎧・突風
私の体から風のエネルギーが吹き上がり、堅固な鎧を形成する。
――ガキンッ
ベリアルのレイピアは弾かれた。
『…………その技……何度も……み……た』
まず……い、制限……時間が……迫っ……て来て……いる。
「貴女を危険人物として認識しましょう……」
ベリアルはレイピアに黒いオーラを集中させた。
【ベリアル公爵】→ルシア
【上級悪魔スキル発動】
漆黒一閃
ルシア→【ベリアル公爵】
【風精霊憑依体、聖戦士スキル同時発動】
霊幻剣・神風+闘気増幅=大霊幻剣・神嵐
――ズバンッッッ!
私とベリアルの体が交差する。
――バタン
私は地面に伏してしまった。
――ブシュゥゥゥ
ベリアルの右肩から下が切り落とされて大量に青い血が噴出した。
「まさか、この戦力で撤退することになるとは……。貴女の顔は忘れませんよ……」
ベリアルは冷たい視線を私に送って、悪魔達に撤退の指示を出した。
くっ……、風精霊憑依中にスキル同時発動は無理があったか……。
痛っ……体中に針が刺さってるみたいな感覚だ……。
だが、痛すぎて……意識が飛ばない……のは……幸運か?
紫色の悪魔と赤色の悪魔が空に消えて、ベリアルの姿もいつの間にか消えていた。
「【女神】様! 立ち上がってはいけません。応急処置はしましたが、回復魔法が未だに受け付けない状態なのですから」
【守護天使】の1人が【女神】を制止する。
「バカなことを言わないでちょうだい。見たでしょ、はぁはぁ……あの女の人間離れした【力】を……。今、消さなくては必ず災いが起きる! 【女神】として……はぁはぁ……見過ごせない!」
【女神】は息を切らせながら私の方に歩いてきた。
「おやめくださいまし。ルシア様は、わたくしのお願いを聞いて【女神】様を守ろうされたのです! 目の前で命を救った【恩人】を殺すようなことが、どうしてできますの?」
ラミアは私の前に庇うように手を広げて立った。
「退きなさい、ラミア。はぁはぁ……貴女は特別に生かしてあげるから。そうよっ……確かに、わたくしはこの女に救われたっ! わたくしが【女神】でないなら、感謝をして、頭を下げるでしょうね。でもね……、この女が【恩人】ということと、この女の【危険性】は別問題なの! わたくしだって、やりたくてやってんじゃないの! わかって頂戴!!」
【女神】は悲痛な表情で叫んだ。
何か、【魔王の血】に異様な恐れがあるみたいだな。
くっ、体よ……動け……。
「わかりませんわ。でしたら、わたくしはルシア様と共に死にます。先に殺してくださいまし」
ラミアは私に覆い被さった。
「そう、【天使】だけはこの手で殺したくなかったけど……仕方ない……」
【女神】は無表情でそう言い放ち、右手を私達にかざした。
【女神】→ラミア、ルシア
【女神スキル発動】
中級光系魔法
「さようなら……。わたくしを恨みなさい、貴女たちにはその権利があるから……」
【女神】の右手から光のレーザーが放たれた。
あーあ……、折角目標が出来たのになぁ。
まっ、仕方ないな……。
私は目を閉じた………………。
――ドォォォン!
爆発音が私の体から離れた場所から聞こえた。
何が起きたのか?
「やあ、助けに来たよー。ルシアちゃん」
ジェノスの声が突然近くで聞こえた。
なんで、ここに居るんだ?
「ちっ、一番会いたくない顔が来たね。なんで、あんたがその女を庇うんだい?」
【女神】はジェノスを凄い形相で睨み付ける。
「セリシアちゃん、お久し振り! 相変わらず、綺麗だねぇ」
ジェノスは馴れ馴れしく【女神】に話しかける。
セリシア?
【女神】様の名前か?
「その名を呼ぶな。ここはあんたの来る場所じゃない! 帰んな!」
【女神】は声を震わせてそう言った。
ジェノスは何者なんだ、【女神】と旧知の仲のような感じだが……。
「うん、長居はしないよ。部下の目を盗んでこっそり来たからさ。じゃあ、ルシアちゃん達は僕が連れて帰るから……」
ジェノスはニコニコしながら、私とラミアの肩に手を触れた。
「バカか? そいつは【魔王の血】を引いた上に【加護の力】を手に入れているのだ! あんたにも不都合が起きる可能性だってある! あと数日経てばその女は……」
【女神】は動揺していた。
「【勇者】として登録されるよね。因みに、あと4日だよ。セリシアちゃんが作ったシステムじゃん。【加護の力】を受け取った者は一週間後に自動的に全世界の【勇者登録書】に名前が記入される。その後は死んじゃったら死因も記入されるんだっけ?」
ジェノスは【勇者】のシステムを話し出した。
「そっそうだ。わたくしが、この女を殺せるのは……」
「【勇者登録書】に記入される前だよねぇ。だって、【女神】が世界発信で【勇者】殺しは出来ないもん」
ジェノスは【女神】に被せて話をした。
なるほど、確かに【勇者登録書】はそういうシステムだったな。
私も例外ではなく登録されるのか。
だから、【女神】は焦っていたわけだ。
「僕の予想通りルシアちゃんは【天界】に行ってしまったから、君がこういう行動に出ることは予測出来てたよ。君は【ノーティス】を毛嫌いしてるからねぇ。でも、大丈夫だよ。ルシアちゃんは絶対に【最強の勇者】になるから、心配無用だ」
ジェノスの体が少し熱を帯びてきた。
「待て、ジェノティス!」
【女神】が叫んだ瞬間、私達は城内から姿を消した。
――???大陸、???の一室――
気付いたとき、私は豪華な部屋のベッドに居た。
隣にはラミアが眠っていた。
ここは、何処だ……。
ジェノスはどこに私を運んだのか……。
体の痛みは消えているみたいだ。
私は記憶を辿ったが何も思い出せなかった。
ただ、助かったという感覚が上ってきて急激に脱力した。




