第28話:【魔界貴族】と【天界】の攻防に巻き込まれる話
【女神】から処刑宣告をされた私はラミアを連れて逃げ出そうとした。
しかし、【守護天使】に行く手を阻まれ追い詰められる。
そのとき、巨大な爆発音が巻き起こった。
「はぁ、こんなときに【魔界貴族】って……。面倒事ばかりがわたくしを襲うのね……」
【女神】は不機嫌な顔をした。
――バゴーン
爆発音と共に天井に大きな穴が開き、上から黄色の肌の色をした、豪華な服を着た悪魔が降りてきた。
「おやおや、お取り込み中でしたか。すみませんね、突然お邪魔して……。お久し振りです、【女神】様……」
黄色の肌で端正な顔をした金髪の悪魔は礼儀正しくお辞儀をする。
「あら、【ベリアル公爵】じゃない。【ベルゼブブ】のジジィの腰巾着が何か用でも?」
【女神】は低い声でそう言った。
「なあに、【天界】もずぅーっと空に浮かんでばかりでは何かと退屈なのではと思いましてね。刺激を差し上げようと参上したまでですよ」
【ベリアル公爵】と呼ばれた悪魔は余裕の表情で答えた。
「ふうん、【魔界貴族】はここ数百年でユーモアの勉強をしたんだ? 感心ねぇ……」
【女神】はベリアルに手をかざす。
【女神】→【ベリアル公爵】
【女神スキル発動】
中級光系魔法
光のレーザーがベリアルの体を貫通した。
しかし、ベリアルはニヤニヤとした笑顔のままだった。
「随分とそちらは喧嘩っ早くなったじゃあないですか、この服結構イイやつなんですよ。さあて、私も暴れたいのですが、部下の仕事を横取りしたくありませんので……」パチン
ベリアルは腹に穴が空いても平然として指を鳴らした。
「ベリアルの旦那ぁ、【女神】の首をオレが取っちまっても良いんですかい?」
「…………コロス」
肩の筋肉が異常に盛り上がった、上半身が裸の真っ白な体をした悪魔と体中を包帯でグルグル巻きにしていて、黒いローブを羽織って、黒い剣を持っている悪魔が穴から降りてきた。
「【アモン侯爵】と【ハルファス伯爵】。ふうん、【魔界貴族】の屈指の武闘派まで連れてくるんだ。人数を集めたらわたくしを殺せるとでも?」
【女神】はそう言った瞬間に姿を消した。
――バキンッ、ボコッ
【アモン侯爵】と【ハルファス伯爵】は【女神】に一瞬で間合いを詰められて、強烈なパンチとキックを受けて壁に吹き飛ばされた。
――ガシャーン
「わたくしは、慈悲深く寛大。【天使】と【人間】には決して直接手を上げたりはしない……。でもなぁっ、【悪魔】と【魔族】は別なんだよ! 泣くまで、折檻してやるからなっ!!」
【女神】は目を開けられないくらいまばゆい虹色の光を放ちながら叫んだ。
「ちっ、相変わらずの馬鹿力が……」
「コロス、殺殺殺っ!」
【アモン侯爵】と【ハルファス伯爵】は立ち上がった。
【女神】と2人の【魔界貴族】の戦いが始まった。
強烈な魔法と苛烈な技の応酬に、建物はドンドン破壊されていった。
そうこうしている間に、紫色の下級悪魔と、赤色の大悪魔の集団が穴から城内に侵入して、こちらも【守護天使】を中心とする天使の戦士たちと戦いを始めていた。
「くっ、何とか脱出しなくちゃな……。ラミアを抱えたままで【魔界貴族】クラスと戦うのは無理だぞ……」
私は戦場になった城内で、下級悪魔と大悪魔をやり過ごしながら、脱出を目指した。
「おや、君は……。【バルバトス公爵】の首を切り落とした娘さんじゃあないですか……」
ベリアルが私の行く手を塞ぐように瞬間移動した。
「…………!?」
私は全感覚を集中して警戒していたにも関わらず、目の前にベリアルが現れたことに驚いた。
「ああ、貴女の気配を感知する技術は完璧でしたよ。大したものなので、悲観しないでください。私のこれはこういう【技】なので……」
ベリアルは興味深そうに私を見た。
なんだよ、コイツも馬鹿みたいに強いぞ……。
強さの底が知れない……。
「【ベリアル公爵】だっけ? なんだ、【バルバトス公爵】の復讐に来てるのか?」
私は努めて平常心を保とうとした。
「ああ、バルバトスさんですか? アレは【魔界貴族】に相応しくないので【処分】しましたよ。無様な姿を晒していましたから……。ところで、貴女は面白い物を持っていますね……」
ベリアルは私の胸の辺りをじっと見た。
なんだ、いやらしい視線を送るな。
見るなら、ラミアの胸を見ろ、ほれっ。
「ルシア様、何をするのですの?」
ラミアは私をポカポカ叩いた。
「ははっ、失礼。レディにこういう視線を送るのはマナー違反でしたね。いやいや、【魔界】でも評判の【呪いの力】なんですけどね。そこの【天使】さんから、貴女に受け渡しが行われたように見受けられたので……。どうやって頂こうかと考えてました」
ちっ、やっぱり【ラミアの力】を狙っているのか……。
【女神】の噂に踊らされていることを言っても無駄だろうな。
「ふうん、でもこれは私の物だから。あと、気を付けた方がいいよ、私を殺すと【力】が無くなるって【女神】様が仰っていたから……」
もちろん、そんなことは知らないが、私は一応そう言った。
「なるほど、確かに【勇者】の【加護の力】は死ぬと消滅すると聞いたことがあります。ご忠告どうもありがとうございます。ふーむ、困りましたね。実は私は【呪いの力】について少々疑ってまして……。無理やり取り出すのはかなりリスキーな気がしているのですよ」
ベリアルは腕を組みながら私に話しかける。
相変わらず、スキはないか……。
それにしても、コイツは【女神】の罠にも半分気が付いているようだ。
「そこで、私から提案したいのですが、貴女……【魔界貴族】になりませんか? 今なら【女伯爵】の地位をプレゼント差し上げますよ。見たところ【天界】から追われていたご様子でしたし、バルバトスさん以上の強さなら歓迎しますよ」
ベリアルはニッコリ笑って手を差し出した。
コイツ、何を言っている?
私を悪魔の仲間になれと勧誘しているのか?
「お断りだ! 悪魔の手下に成り下がる訳がないだろ。ここを通さないなら力づくで通させてもらうぞ」
私ははっきりと宣言した。
馬鹿にするな、お前らの仲間になるはずが無いだろ。
しかし、一戦交えるとして、逃げを優先しなきゃな。
「まぁ、そうですよね。すぐにコチラを信用しろというのも無理な話。この話はまたにしましょう。どうぞ、お通りください。私からは貴女に手を出したりしませんし、部下にも伝えておきますから」
ベリアルは道を開けた。
コイツ、どこまで本気なんだ?
食えない奴だな。
「…………っ」
私は何か罠があるのではと警戒してすぐには動けなかった。
「ああ、警戒されているのですね。大丈夫ですよ、私にそろそろ仕事が回ってきますので」
べリアルは不敵に笑っている。
【女神】→【アモン侯爵】、【ハルファス伯爵】
【女神スキル発動】
最上級光系魔法
――ズゴォォォォォォン!
【女神】の放った巨大な光のレーザーに飲み込まれて、アモンとハルファスは白目を向いて倒れた。
「それでは、私は仕事に行きます。逃げていただいて結構ですよ」
べリアルはそういい残して、姿を消した。
――ザシュ
【女神】の胸に赤いレイピアが突き刺さる。
「べリアルっお前……。わたくしを……最初から……」
【女神】が後ろを振り返ると、べリアルがレイピアの柄を握っていた。
「おやおや、【女神】様ともあろう御方が油断とはいけませんねぇ。そろそろ、引退されては如何でしょうか?」
べリアルは冷たい目をして笑って、レイピアを引き抜いた。
「あの2人は当て馬か? 相変わらず、やることが小物臭いっ! こんな傷など直ぐに……」
【女神】は力を傷口に集中した。
【女神スキル発動】
超高速回復
「…………!?」
【女神】の傷口は塞がらなかった。
「私を舐めないでくださいよ。このべリアルのレイピアは特別製でして、回復魔法や回復術を受け付けない【呪いの傷】を付与します。さあて、今の貴女と私はどちらが強いでしょう?」
べリアルは再び【女神】にレイピアを向けた。
――ザシュッ
今度は【女神】の肩にレイピアが突き刺さった。
「くっ……」
【女神】は苦悶の表情を浮かべる。
「流石ですね。先程と同様に動きを読んで攻撃しているのですが……。急所には届かない……。まぁ、いつまでもつかわかりませんが」
べリアルはレイピアを構えた。
【女神スキル発動】
光系拘束魔法
――ギンッ
光の輪がべリアルを捉える。
しかし、べリアルが少し力を込めると……。
――バリーン
光の輪が粉々に砕け散った。
「ふむ、体力、魔力が完全でしたら危なかったかもしれませんね。やはり、平和な【天界】でかなり腕が鈍ったようですねぇ」
べリアルは余裕の表情だ。
そこからはべリアルが優勢の一方的な戦いだった。
【女神】は血塗れになり、満身創痍になった。
【守護天使】達は赤い大悪魔の集団に手一杯で助けられない状況の様だった。
「こっちに悪魔の攻撃がこない……。奴の言ったことは本当だったのか? これなら、逃げられそうだ」
私は逃げるチャンスだと思い、走り出そうとした。
「待ってください、ルシア様。【女神】様を助けてあげてもらえませんか?」
ラミアは遠慮がちな声を出した。
何を言っているんだ?
お前を【失敗作】呼ばわりした奴だぞ。
「ああいう、御方で、ルシア様を殺そうとしていることもわたくしは許せません。しかし、わたくしをこの世に作り出してくれた創造主様でもあるのです。どうか、慈悲をかけて頂けませんか?」
ラミアは真剣に私の目を見て訴えた。
本気で言ってるな。
お前、どこまでお人好しなんだよ。
私をさっきまで殺そうとしてたんだぞ。
「…………、仕方ないな。アホ堕天使め」
私はそう呟いて、ラミアを降ろした。
【聖戦士スキル発動】
闘気結界
私はラミアをバリアで覆った。
「そこを動くなよ。ちょっとやそっとじゃ壊れないから」
私はそういい残して、べリアルの方に足を踏み出した。




