第23話:【バルバトス】の館をジェノスと探索する話
【バルバトスの館】の前に辿り着いた私とジェノス。
ジェノスが門を破壊したせいで、現れた大量の悪魔を始末しつつ、私達は建物の入口に辿り着いた。
――【バルバトスの館】、1階――
「ルシアちゃんが、頑張ってくれたからさ、楽に館の中に入れたよ。いやあ、こんな建物の中で大量の雑魚を相手するのは面倒だからねぇ」
ジェノスはニヤリと笑った。
なるほど、確かにあの紫色の悪魔と屋内で戦闘すると意図せずラミアに危害が及ぶかもしれなかったのか。
「ジェノスさん、二手に分かれるって言ってましたけど、どうしますか?」
私は急いでラミアを見つけたかった。
「そう焦りなさんな、ほらっ階段が見えるだろ? この建物は2階建てだからさ、1階と2階に分かれるっていうのはどうだい?」
ジェノスは階段を指さして提案した。
「わかりました。では、私は……」
どちらに行けばいいのか尋ねようとした。
――ドゴーン
階段の2階から赤い巨体が飛び降りた。
ラミアを攫った赤色の悪魔かと思ったが、体格が違う。
「おやおや、早くも【大悪魔】の登場だ……」
ジェノスは赤色の悪魔を見据えてそう言った。
「この館に真正面から侵入する馬鹿共は初めてだぞぉ。バルバトス様も大変お怒りである。よってお前たちはこのルベルトが処刑する。グォォォォッ!」
ルベルトと名乗る赤色の悪魔が力を込めると床が震え、大量の赤色のオーラが吹き出した。
これは、並の【勇者】のパーティーだと手に負えないレベルだぞ。
とはいえ、私とジェノスの2人ならなんとか倒せるだろう。
「んじゃあ、ルシアちゃんは2階に行ってきてよ。コイツとは僕が遊んでるからさ」
隣でジェノスがそう言ったと思っていたら、いつの間にか階段の手前にいるルベルトの顔に手を当てていた。
「おっお前、いつの間に……。そっその顔知っているぞ、何故お前自らこんなところに……」
ルベルトはジェノスの顔を確認するなり明らかに動揺していた。
「んー、余計なおしゃべりがルシアちゃんに聞かれると面倒だからねぇ。とりあえず、離れよっか?」
ジェノスの手のひらが漆黒に染まる。
ジェノス→ルベルト
【???スキル発動】
漆黒闘気掌
――バキャァァァン
破裂音と共に凄い勢いでルベルトは吹き飛んで行った。
「じゃっ、僕はアレの相手をしながら1階を探すから。上を頼んだよー」
ジェノスは手を振りながら私に声をかけた。
なんて技だ、あれは……。
軽く放っているが、破壊力が人智を超えている。
普通の人間ならミンチになってるぞ……。
「あっ、はい……」
私は言われるがままに階段を登った。
――【バルバトスの館】、2階――
私は2階に上った。
それにしても、外はあんなにうじゃうじゃ悪魔が居たのに、館内はさっきのルベルト以外に遭遇していない。
これはこれで、不気味だな。
とりあえず、さっさとラミアを見つけよう。
【探偵スキル発動】
形跡追跡
【仙人スキル発動】
全感覚醒
私は控室の時と同じように全神経を集中してラミアを探した。
「……!?」
――ドゴォォォン
突如私の後ろから拳が振り下ろされた。
危ないな、感覚を鋭敏にしていなかったら当たっていたかもしれない。
「外が煩いと思ったら侵入者ですか……。下等悪魔共を蹴散らしたぐらいで調子に乗らないでくださいよ」
赤色の悪魔が私を攻撃してきた。
こいつは……、ラミアを攫った奴だ……。
「見つけたぞ、ラミアはどこだ?」
私は赤色の悪魔を睨んだ。
お前は絶対に許さないぞ……。
「ラミア? ああ、バルバトス様に献上したあの天使の娘ですね。彼女なら今頃、バルバトス様に尋問を受けてますよ……。フフフ」
赤色の悪魔は楽しそうに微笑んだ。
「じゃあ、バルバトスとやらの場所まで案内してもらおうか……。そうしたら、命の保証はしてやるぞ」
私は剣を構えて、言い放った。
「フフッ、この大悪魔リベルトを脅迫とは、人間という生き物はユーモアのセンスがありますね」
リベルトと名乗った悪魔は余裕の表情だった。
どうでもいいから、早く教えろよ。
ちっ、やっぱり攻撃してくるのか……。
リベルト→ルシア
【悪魔スキル発動】
業火の拳
リベルトの拳が炎を纏って私を襲う。
これは、まともに受けるとヤバいかもなぁ。
ルシア→リベルト
【魔法使いスキル、剣士スキル同時発動】
中級氷系魔法+竜神斬り=氷狼一閃
私は氷の【魔法剣】でリベルトの腕を切り裂いた。
――ザシュッ、ビキビキビキ
リベルトの腕から血が吹き出し、更に肘から拳にかけて凍りついた。
「ぐっぐはっ、私の腕がぁぁぁぁっ!!」
リベルトは悲鳴を上げた。
「私に慈悲の心が残っている間に、【バルバトス公爵】の場所を教えた方が良いんじゃないか? 残念だけど、私はユーモアのセンスが無くてね、冗談は言わないんだ」
私はリベルトに剣を突きつけてそう言った。
「グァァァァァッ! 許しませんよ! あなたはコロス、コロス、コロス、コロス、ゴロジデヤルゥゥゥゥ!!」
激昂したリベルトは血走った目で私に攻撃を仕掛けてきた。
リベルト→ルシア
【悪魔スキル発動】
業火の連砲
リベルトは口から灼熱の巨大な火弾をいくつも連続して吐き出した。
ちっ、逆に凶暴にしてしまったか……。
「ゴロジデヤルゥゥゥゥ!!」
必死の形相で暴れていたので、私も中々間合いが詰められずにいた。
『そんな話は知りませんわ……』
戦いながらも私は神経を研ぎ澄まし、気配を探っていた。
そして、どこからかラミアの声が聞こえた。
『やめてください、本当に知りません……』
ラミアが危ない、どこにいるんだ……。
私はリベルトの攻撃を避けながらラミアの声の方向を探っている。
『あっあん、そんなところを……、ひゃんっ』
くっ、このままでは……、ラミアがっ……。
この辺りだ……。
ラミアっ、今いくぞ!
『そこはダメですの……、お止めくださいまし……』
「ゴロジデヤルゥゥゥゥ! クソガァァァ」
「この部屋だ! 邪魔をするなぁぁぁぁ!!」
ルシア→リベルト
【仙人スキル、魔法使いスキル同時発動】
流水乱舞+中級氷系魔法=流氷魔乱舞
――バキ、メキメキ、バコン、ズガァァァァァン
リベルトは氷の彫刻になって、ドアを破って吹き飛んだ。
『はぁん、本当にダメですのぉ』
「ラミアぁぁぁぁ、助けに来たぞ!」
私は部屋に飛び込んだ。
「ほれ、はよう喋らんか。今度は足をくすぐってやるぞ……。こちょこちょ……」
真っ白な卵のような顔をして、豪華な服を着た男がラミアの足をくすぐっていた。
「本当にやめてくださいまし。きゃはん……、くすぐったいですの」
ラミアは腕を縛られて宙に吊るされて、足をバタバタしている。
「…………無事だよな?」
私は目の前の光景に唖然とした。
「ルシア様ぁ、くはぁん、ふぅん、来てくれましたぁんのね、はにゃん」
ラミアはくすぐられながら私に気が付いた。
「なんじゃ、折角ワシが直々に尋問をしとるというのに……。ん、リベルト、何故お前は凍りついておるんじゃ? ふざけとるのか? それともまさかそこにおる人間に負けたとは言わんよな」
タマゴ顔の男はやっとこちらに気が付いたようだ。
こいつが【バルバトス公爵】なのか?
「ラミア、とっとと帰るぞ。今助けてやるからな」
私はラミアに近づこうとした。
「この【バルバトス公爵】の部屋に勝手に上がり込んで何しとるんじゃ、小童っ!」
叫び声が聞こえた瞬間、私の腹の前にバルバトスの手のひらがあった。
何だこいつ、さっきのジェノス並に速いぞ……。
バルバトス→ルシア
【上級悪魔スキル発動】
煉獄掌
バルバトスの掌底が紅蓮の業火に包まれて、私の腹部に迫ってくる。
これは、少しでも当たるとアウトだな。
スピード勝負ならこの技だ!
ルシア
【仙人スキル発動】
仙舞影歩
私は残像を幾重にもかさねて、バルバトスの掌底を避けた。
「うーむ、妙な技を使うな。生意気な……」
バルバトスはイライラとした口調になった。
バルバトス→ルシア
【上級悪魔スキル発動】
真・最上級炎系魔法
バルバトスが両手を私に向けて、目を見開いた。
――カッ
部屋中が真っ赤に光った。
――ゴォォォォォ
私は咄嗟に残像を残して避けることができたが、壁が完全にドロドロに溶けていて見る影もなかった。
今のはなんだ?
大魔道士が魔力を調節したとかそんな次元の魔法じゃないぞ。
炎というより、閃光、いやもっと熱くそして強い……。
これが、【魔界貴族】とやらの力なのか?
私があまりの威力に戦慄していると、バルバトスはいつの間にか目の前にいた。
「終わりじゃ、小童っ!」
完全に捉えられた……。
逃げ道がない……。
ごめん、ラミア、エリス様、マリア、ルーシー、ターニャ……。
バルバトス→ルシア
【上級悪魔スキル発動】
真・最上級炎系魔法
「ルシア様ぁ!! ルシア様ぁぁぁぁぁ!!!」
ラミアが必死の形相で叫んだ。
――パァァァァッ
ラミアの体から虹色の光が吹き出した。
まばゆい光に私は思わず目を閉じた。
「ん? これはラミアの翼?」
私が目を開いたとき、ラミアの巨大化した黒い翼に私は包まれていた。
ラミアの翼ってこんなに大きくできたのか……。
というか、バルバトスの魔法が消えた?
何が今起こったんだ?
訳がわからん……。
「ご無事でよかったですわ。ルシア様……」
ラミアは宙に吊らされながらも私の顔を除きこんで微笑んだ。
お前、こんなギリギリまでこんな便利な翼を出さなかったのか?
でも、まあ……。
ありがとう、助かったよ……。
「ヒヒヒ、見たぞ、見たぞ。あれぞワシの求める力だ……。ワシの魔法を消し去りよった。ヒヒヒヒ」
バルバトスは上機嫌そうに笑った。
戦いはまだ続く……。




