第20話:新しい【勇者】が誕生する瞬間を見物する話
【天武会】決勝戦、ダルバート王国チームとアレクトロン王国チームの死闘は、全員一丸となっての攻撃が決まったダルバート王国チームに軍配が上がった。
ダルバート王国チームは奇跡の優勝を果したのだった。
――【天武会】、観客席――
「ラミア、そろそろ控室に行こう。みんなが着いている頃だ」
私はラミアに話しかけた。
「えぇーもうちょっとこうしていたかったですわ。今度はいつルシアール様が気まぐれを起こすかわかりませんから」
ラミアは残念そうな顔をした。
まったく、ワガママ言わずに一番頑張ったみんなを褒めに行くぞ。
「あっ、ジェノスさん。ずっとそこに居たのですか?」
私は隣に座っているジェノスに気が付いた。
「ふふ、まあね。ただ、お邪魔かと思ってさ。黙って待っていたよ」
ジェノスはニヤニヤして私の顔を見た。
「……人が悪いですよ。つい、感極まってしまって恥ずかしいところを見せてしまいました」
私は顔から火が出そうだった。
涙がボロボロ出て、ラミアに変なこと言ったところまで全部見られてしまっていたのか……。
「僕ぁ、構わないけどねぇ。感情をさらけ出せるって羨ましいと思うよ。オジサンになるとこれが中々難しいんだよなぁ」
ジェノスは微笑みながら頭を掻いた。
「そうだ、ジェノスさんも一緒に控室に来ませんか? 私の友人ということで、みんなにも会って行ってくださいよ」
私はジェノスに同行を提案した。
「えっ? 本当に良いのかい? そりゃあ、嬉しいなぁ。今日の仕事を完全に休んで来た甲斐があったよー」
ジェノスは喜んだ。
「ジェノス様が来てくれれば、皆様もきっと喜びますわ」
ラミアもジェノスを歓迎した。
――【天武会】、ダルバート王国チーム、控室――
「優勝よ、優勝したのよー。ルシアール、遅いじゃない! 本当にありがとう! 夢じゃないかってずぅーっとほっぺたを抓っているけど、すっごく痛いから夢じゃないわー」
エリスはこれまでにないくらいのテンションの高さで喜んでいた。
本当に恐ろしい王女様だよ。
「ルシアール先生、見てくれましたか? やりましたよ。世界中に私のファンが出来たかもしれません。きゃっどうしましょう」
マリアもよくわからないキャラになっていた。
でも、涙でメイク取れてるぞ。
「ルシアール先生、ボクたち頑張ったよ。優勝なんて無理だって思ったけど……。うっうっ……」
ルーシーはボロボロ泣いていた。
最後までナイスガッツだ。
「……ルシアール先生、なんとかなったぞ。褒めろ」
ターニャは相変わらずふてぶてしい。
いくらでも褒めるさ、この天才がっ。
「みんな、凄かったよ。本当のことを言うと、私の作戦が失敗したときに負けるかもって思ったけど、私の思った以上の力で全員で優勝をもぎ取ってくれた。あんなに感動して涙が止まらなかったことはなかったよ」
私は本音でそう思った。
「皆様、すっごくカッコ良かったですわ。おめでとうございます。グスン」
ラミアはまた泣き出した。
「えぇと、僕ぁルシアールちゃんの友人のジェノスだ。先日はサインを書いてくれてありがとう。そして、【天武会】優勝おめでとう! 君たちの戦いは本当に1回戦から楽しく見させて貰ったよ。ここ何年の大会から見ても最高にナイスなチームだった」
ジェノスはみんなを褒めちぎった。
「あなたがジェノスさんね。話はルシアールから聞いてるわ。ダルバート王国で祝勝会やるけど、来る? ルシアールの友達なら歓迎するけど」
エリスはジェノスに話しかけた。
「えぇー。僕なんかを誘ってくれるんだ。だけど、ごめんね。部下に仕事を任せきりにしちゃってね。夜には帰らなきゃならないんだよ。遅れると、叱られちゃうんでねぇ」
ジェノスは残念そうな顔をした。
「そう、それは残念だわ。じゃっ、またダルバート王国に来ることがあったら連絡ちょうだい。歓迎するわよ」
エリスはジェノスにそう言った。
――コンコン
『そろそろ、表彰式を開始しますので、ダルバート王国チームの方は【新勇者】を決めて闘技場まで来てください』
「それじゃ、行かなきゃ。ルシアール達は観客席で見てってね」
エリス達はそう言って再び闘技場に向かって行った。
「よし、私達もまた観客席に戻ろう。どうしたんだ? ラミア」
私はラミアに話しかけた。
「はぁ、ルシアール様。わたくし、少し気分が優れませんの。申し訳ありませんが、表彰式が終わるまでここで休ませてくれませんか?」
ラミアは困った表情で私に言った。
なるほど、確かに【勇者】誕生の儀式の時は【女神】様も【守護天使】も闘技場に姿を現すからな。
見つかれば色々と面倒か。
ジェノスの手前、正直に言うことも出来ないしな。
「そっか、わかったよ。ゆっくりしてくれ。行きましょう、ジェノスさん」
私はジェノスと共に観客席に向かった。
――【天武会】、表彰式――
観客席に着いた私達は、表彰台に上がるエリス達を見ていた。
「それでさ、【新勇者】は誰にするんだい?」
ジェノスはひそひそ話をしていた。
「それはですね、もうすぐわかりますよ」
私は【勇者】誕生の儀式がもうじき始まるので焦らした。
『これより、【勇者】誕生の儀式を始める。【新勇者】となる者はこの魔法陣に入るように』
決勝戦で審判天使だった者が司会進行をしていた。
そして、ターニャが魔法陣に歩き出した。
「やっぱり、ターニャちゃんか。将来性が断トツだもんなぁ」
ジェノスは納得という表情で頷いた。
「ええ、さすがに王女のエリス様に【勇者】はさせられませんから」
私はそう答えた。
――ピカッ
空から一筋の光の柱が降りてきた。
そして、その柱から目もくらむような美しい女人と天使が舞い降りた。
【女神】と【守護天使】である。
「ターニャ=フリージアよ。見事【天武会】で優勝し、力を示した。そなたこそ勇者に相応しき者。【守護天使】から【加護の力】を受け取り、この世の邪を祓う【勇者】となれ」
女神様の高く威厳のある声が響き渡る。
そして、【守護天使】がターニャに近づき手をかざした。
――ブォァッ
【守護天使】は虹色に輝く光の珠をターニャの胸に向かって放った。
虹色の珠はターニャの体に吸収されていく。
「これにて、【勇者】誕生の儀式は終わりじゃ。ターニャよ、これからの活躍に期待しておるぞ」
そう【女神】様は言い残して、【守護天使】と共に光の柱を昇って消えてしまった。
ターニャは【勇者】になった。
「新たな【勇者】の誕生か。楽しみだなぁ」
ジェノスはニヤッと笑った。
その笑顔は今までとは少し違う感じがしたが、気のせいかな……。
「ターニャはいい【勇者】になりますよ。絶対に……」
私はジェノスにそう言った。
「ルシアール! 探したぞっ!」
後ろからアレックスの声が聞こえた。
アレックス達が3人揃って、私に声をかけてきた。
「何か用事ですか? アレックスさん」
私はまさかアレックスがここに来ると思わなかったので、驚いた。
「今回はそっちの運が良かっただけだ。勘違いするなよ。僕らのチームの方が強かったんだぞ」
まさか、そんなベタな負け惜しみの為にここに来たのか?
「アレックスさん、見苦しいですよ。ルシアール様のご指導の方が上だっただけです。お認めになられた方がよろしいかと」
ロザリアが後ろからアレックスを嗜める。
「黙れ、ロザリア。【大勇者】たるこの僕がこんな田舎者みたいな奴より下だとぉ! あり得ないだろぉぉが!! まさか君があの男に情報を渡したのではないか? そうに違いない!!」
アレックスは喚き散らした。
――バチンッ
ティアナがアレックスの頬を平手打ちした。
「取り消しなさい、アレックス。仲間を疑うとは何事よ! 何年、あなたに付き従っていると思ってるの? ルシアール様は素敵な方だけど、だからと言って仲間を裏切るようなことするわけないじゃない」
ティアナは激昂した。
「僕に手を出すとはいい度胸だなティアナ。覚悟は出来てるな?」
アレックスは拳を振り上げた。
――ガシッ
「やめてください。アホ勇者、じゃなかった、アレックス先輩。私達が負けたのは、実力不足以外になにもありません。ターニャさん達は強かったです。彼女達を侮辱しないでください」
グレイスが後ろからアレックスの腕を掴んだ。
「グレイスか……、お前もよく僕の前に顔が出せたな。アレクトロン王国の面汚しが! セイファー家の名も落ちたな」
アレックスは吐き捨てるように声を出して、どこかに行ってしまった。
後を追うようにティアナとロザリアが、そしてグレイスは私の目を見て一礼して去っていった。
「随分と君は人気者なんだねぇ。唖然としちゃったよ」
ジェノスは面白そうなものを見た表情をした。
「やめてください、あまり関わりたくないと思っているのですから」
私は本心からそう言った。
「ふーん。まっ、運命ってのは悪戯好きだからねぇ。嫌だと思っていても逃れられない関係ってのはあるけどね」
ジェノスは不吉なことを言う。
「意地悪な言い方をしますね。そんなことより、表彰式も終わりましたし、私はまた控室に行きますが……。ジェノスさんはどうしますか?」
私はジェノスに話しかけた。
「そうだねぇ。長居をしても、申し訳ない気がするから帰ろ……。ん? ルシアールちゃん。上を見てごらん」
ジェノスは上空を指さした。
空には以前ラミアを襲った悪魔と似たようなのが数え切れない数でこちらに向かっていた。
これが新しい戦いの前兆になることを私はまだ知らなかった。




