第18話:決勝戦をラミアとジェノスと全力で応援する話
【天武会】の決勝戦がいよいよ始まる。
ダルバート王国チームは優勝して、新しい勇者を誕生させることが出来るのか?
――【天武会】、決勝戦――
ダルバート王国チーム
エリス(勇者役)
ルーシー
ターニャ
マリア
アレクトロン王国チーム
グレイス(勇者役)
クラウド
ゴンザレス
フレイヤ
今回の【勇者役】はエリス様に頼んだ。
【魔法剣士】のグレイスは間違いなく【勇者役】を狙いに来るはずなので、作戦どおりの状況を演出しやすいと考えたからだ。
あとは、やっぱり最後の戦いは彼女に大役を任せることが一番合っているという私の勝手な想いも入っている。
「いよいよ始まりますわね、決勝戦が……。わたくし、こんなに緊張したことありませんわ」
ラミアは少し震えていた。
「そうだね、私も自分がかつて魔王の幹部と大きな戦いをしたことがあったけど、その時の100倍は緊張しているよ」
私もドキドキが止まらなかった。
こっちは、こんなに緊張してるのに、水晶から見える彼女達の落ち着きっぷりときたら……。
素直に尊敬に値するレベルだと感じた。
「おーい、ルシアちゃん。お待たせ」
後ろから私は声をかけられた。
待ち合わせの約束をしていた、ジェノスがこちらにやってきた。
「ジェノスさん、ここでは一応ルシアールでお願いします」
私はジェノスに耳打ちした。
「はっはっは、ごめんごめん。そうだったねぇ。ルシアールちゃん、ダルバート王国チームが勝てるようにしっかりと応援しよう! ほら、コレを持ってきたんだ」ゴソゴソ
ジェノスは大きな袋から布を取り出した。
『絶対優勝! ダルバート王国チーム!!』
袋の中身は横断幕だった。
「昨日、部下と一緒に作ってねぇ。ほら、僕たち最前席だろ? これを見て少しでもダルバート王国チームが良いムードになれればと思ってさ」
ジェノスは頭をポリポリ掻きながらそう言った。
「うわぁ、あの子達の為に本当にありがとうございます。すごく喜びますよ。なぁ? ラミア」
私はジェノスの好意が嬉しかった。
「ええ、ありがとうございますわ。ジェノス様」
ラミアはジェノスにペコリとお辞儀をした。
「ラミアちゃんにまでお礼を言われたなら、作った甲斐があったよ」
ジェノスは上機嫌そうにニヤリと笑った。
「あっ、これを……。先日約束したサインです。あの子達も驚いてまして、エリス様なんか『物好きな方が居るのね』って言ってましたよ」
私はジェノスに約束したサインを手渡した。
「ありがとう! 家宝にするよ。エリス様達にもお礼を言っておいてね。いやぁ、たのんでみるもんだなぁ」
ジェノスはニコニコしながらサインを袋にいれた。
『試合を開始しますので、【勇者候補】の方達は中央にお集まりください』
「おっと、いけない。そろそろ試合が始まるから席に急ごう」
そして、私達は観客席へと足を進めた。
『【天武会】決勝戦を開始する。今回は女神様もご覧になられる。くれぐれも正々堂々と戦うように! 一同、礼!』
――【天武会】、観客席――
「危ないところだったねぇ。間に合ったみたいだよ」
ジェノスは席に座りながら言った。
「ふぅ、ちょうど始まったところで良かったです」
私はジェノスの隣に座る。
危なかった、遅れるところだった。
「みなさん、慎重ですね。いつもよりも間合いを広くとっているような気がしますわ」
ラミアは私の隣に腰かけた。
今回はグレイスと残りの3人を分断しなくてはならない。
それゆえ、相手の出方を見ながら作戦を実行することとなるのだ。
「ふむ、今回のアレクトロン王国チームはそれ程までに強いということかい? いつもの君なら奇襲の一つや二つ指示してそうだが?」
ジェノスは私に話しかけた。
「ええ、ジェノスさんもすぐに分かりますよ。あの赤髪の【魔法剣士】、グレイスは【別格】です」
私はジェノスにそう答えた。
実際、グレイスの戦闘力は並の【勇者】よりも強いかもしれない。
神々に選ばれなかったことが不思議なくらいだ。
才能がそこまででないのだとしたら、血の滲むような鍛錬を積んだのだろう。
「あっ、アレクトロン王国チームに動きがありましたわ。予想通り、前回と同じく4人固まって行動してますわね」
ラミアが言ったように、全員がきれいに隊列を組んでダルバート王国チームに戦いを挑んできた。
「いや、あのグレイスちゃんだっけ。いきなり仕掛けるよ、気配が違う……」
ジェノスが呟いたとき、戦況が動いた。
グレイス→エリス
【魔法剣士スキル発動】
神焔一閃
パーティー同士がぶつかると思われた瞬間、グレイスが1人ジャンプして上空から、エリスのサークレットをいきなり狙った。
「あの技は先日の試合でも見せた……。ああ、まずいですわよ。エリス様が……」
ラミアは不安そうな顔をした。
「いや、ラッキーだ。まさか、1人で飛び出すとは……。ここを凌げば作戦通りの状況を作れる」
私はエリスを見守った。
ルーシー→エリス
【魔法使いスキル発動】
中級炎系魔法
エリス→グレイス
【剣士スキル発動】
中級炎系魔法+ツバメ返し→飛翔炎舞
――ガキン、ブォォォォン、ズガァンッ
エリスは上空から炎を纏った剣を振り下ろす瞬間に跳び上がり、ルーシーの魔法を纏った【魔法剣】で対抗した。
炎の【魔法剣】同士がぶつかり合い、熱風と共に大爆発が起きた。
その余波を受けて、グレイスとエリスは吹き飛んでしまった。
予想外の展開に動揺したグレイスは少しの間動けず、そこに向かって起き上がったエリスとルーシーが駆けだした。
「よし! なんとか、グレイスに対して2人がかりで戦える状況が作れたぞ」グッ
私は小さくガッツポーズした。
「驚いたな。いや、グレイスちゃんの【魔法剣】もここ十年くらいの【天武会】では見たことないレベルだったし、まさかそれをあんな方法で対抗するなんて……。本当に君の指導はエグいねぇ。あのコンビ技は、相当無茶な鍛錬を積まなきゃ出来ないよ」
ジェノスは髭を触りながらそう呟いた。
やっぱりエグいですか……。
はい、褒め言葉だと思って受け止めます。
「でもでも、凄いですわ。あんなに強力な【魔法剣】を2人で使えるようになるなんて、思いもよりませんでした」
ラミアは興奮していた。
うん、確かに大成功だけどね……。
問題はここからなんだよな。
「問題はここからだねぇ。見る限りじゃ、グレイスちゃんを相手にするには2対1でもまだ少ない……」
ジェノスは腕を組みながら話した。
「えっ、ジェノス様、どうしてですの? 【魔法剣】の威力は負けていませんでしたわ」
ラミアはジェノスの言葉が気になったみたいだ。
「だってさ、ルシアールちゃん。あの技って、後手に回らなきゃ出来ないでしょ? 相手の動きが読めなきゃ当てられないんだし」
ジェノスはひと目で合体技の弱点を見抜いた。
「……その通りです。2人の技のタイミングを一致させる事も至難でしたから、その上、動きを先読みして当てることは……、まだ今の彼女達には無理です」
私はジェノスの意見を肯定した。
だからこそ、最上級魔法を使ったカウンターという方法を教えたのだ。
しかし、先程使ったのは中級魔法だ。
おそらくまだ、最上級は成功率が低いから成功しやすいタイミングを狙っているのだろう。
グレイスとエリス達の戦いが始まった。
グレイス→ルーシー
【魔法使いスキル発動】
最上級雷系魔法
なんと、グレイスは準決勝では見せなかった最上級魔法を放った。
ルーシー→グレイス
【魔法使いスキル発動】
最上級炎系魔法
すかさず、ルーシーも最上級魔法で応戦する。
最大クラスの魔力がぶつかり合い、まばゆい光と共に爆発し、二人は吹き飛ばされた。
グレイス→エリス
【魔法剣士スキル発動】
神焔一閃
吹き飛ばされたグレイスは宙で1回転して着地し、その反動で高く飛び跳ねて、エリスを狙った。
ルーシー→エリス
【魔法使いスキル発動】
初級氷系魔法
エリス→グレイス
【剣士スキル発動】
初級氷系魔法+嵐車斬り=氷土煙翔
上空からの【魔法剣】と下から突き上げる【魔法剣】がぶつかり合った。
――ズガァァァン!
エリスとグレイスの剣がぶつかり合う。
しかし、グレイスの【魔法剣】の威力が上なのか、エリスは吹き飛ばされた上に肩に火傷を負ってしまった。
「エリス様はなぜ最初の【魔法剣】を使わなかったのでしょうか? 初級魔法の【魔法剣】では打ち負けることはわかっていたと思えますが……」
ラミアは私に尋ねた。
「使わなかったんじゃないよ。使えなかったんだ」
私はグレイスの恐ろしさが、よくわかった。
なるほど、最初の小競り合いで全てわかったということか。
「使えなかった……ですの?」
ラミアは首を傾げる。
「さっき言ってた合体技の出せるタイミングだねぇ。グレイスちゃんはわかってたんだ。中級魔法を使うのにルーシーちゃんは魔力をタメるための時間がかかることを……。だから、最初に最上級魔法でルーシーちゃんを牽制し、即座に【魔法剣】でエリスちゃんを攻撃した。結果、ルーシーちゃんは中級魔法は間に合わないと判断しとっさに初級魔法を使ったんだな」
ジェノスが解説をした。
「ええ、その通りです。ただ、氷魔法で炎の勢いを軽減し、土煙を上げて狙いをずらさせることで、ダメージは最小に抑えたと言っていいでしょう」
私はエリスとルーシーの咄嗟の最善の動きには感心した。
「そうだねぇ。ただ、その手は二度は使えないだろう。次は炎系以外の魔法剣を使うだろうし……」
ジェノスは髭を触りながらそう言った。
「ええ、そうです。でも、次はないですね。グレイスは本気で仕留めるつもりで攻撃するはずですから。くっ、私の考えが甘かったせいだ。ごめんなさい、エリス様、ルーシー、こんな無能が指導者で……」
私は心から自分の無能さを呪った。
こんなに早く弱点が露呈するなんて……。
これほどまでにグレイスが強いなんて……。
「ルシアール様の馬鹿ぁ! なんで、もう諦めたような顔をしてるのですか? あんなに頑張っていたみんなのことが信じられないのですか?」
ラミアは初めて私に怒った。
「ラミア? お前……。そうだな、ラミアの言うことは正しいよ。みんなを信じて応援しよう!」
私はラミアの顔を見てそう言った。
そして、その瞬間……。
『うぉぉぉぉ!』
歓声が突如として巻き起こる。
「なんだ、何があったんだ?」
私は観客達の視線を追った。
「ルシアール様、ターニャさんを見てください」
ラミアが指をさしながらそう言った。
ターニャがどうかしたのか?
これは、まさか……。
――ドサッ、ドサッ、ドサッ
ターニャの周りで【聖戦士】クラウド、【賢者】フレイヤ、【槍使い】ゴンザレスが立て続けに倒れていた。




